Teslaはコンピューター!ソフトウェアが定義するクルマと自動運転技術 (1/2)

March 20th, 2015

Teslaは”Software-Defined Car”とも呼ばれ、ソフトウェアがクルマの機能を定義する。ソフトウェアは恒常的に進化し、アップデートがWiFiなどでクルマにダウンロードされる。この夏に予定されているアップデートで、自動運転機能が追加される。Teslaを情報通信機器と区分しても、それ程違和感はない。急速に進化するTeslaをレポートする。

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Teslaはコンピューターを実感

テストドライブして、Teslaは自動車でななく、”走るコンピューター”と実感した (上の写真、試乗したTesla Model S 85D)。ユーザーインターフェイスはタッチパネルで、クルマの機能をディスプレイで操作する。iPhoneでアイコンにタッチしてアプリを使うように、Teslaの操作は直観的で、クールな”アプリ”が揃っている。iPhoneにOSアップデートをダウンロードして機能アップするように、Teslaにソフトウェアをダウンロードして、自動運転機能をインストールする。クルマの設計思想がiPhoneから多大な影響を受けており、シリコンバレー文化を感じさせる製品仕立てとなっている。

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二系統のコンピューターシステム

Tesla MotorsのOwner AdvisorであるKimに操作を教えてもらいながら、テストドライブした。クルマの形状のカーキーをポケットに入れたまま、クルマに近づくと、ドアハンドルがポッポアップし、扉を開けることができる。運転席にはカーキーを差し込むスロットや、スタートボタンは無い。キーをポケットに入れたままで、レバー (上の写真、ハンドル右側のバー) を上に押してエンジンを始動。このレバーがシフトレバーを兼ねる。

上の写真はエンジンを始動したところで、インスツルメントパネル (正面) には、速度計が表示される。走行可能距離 (241マイル) も表示される。右手には大型タッチスクリーンが設置されている (上の写真、右端)。ここに操作や運行に関する情報が表示される。上の事例は、電力消費量 (上部) とGoogle Maps (下部) が表示されている様子。インスツルメントパネルとタッチスクリーンは、二系統のコンピューターで稼働する。NvidiaのVisual Computing Module (車載プロセッサー) が使われ、高速プロセッサー「Tegra K1」が二台搭載されている。二系統の高性能コンピューターが運転をアシストする構造となっている。

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タッチスクリーンで操作

Teslaのユーザーインターフェイスは17インチのタッチスクリーンで、iPhoneを操作するようにクルマを制御する。上の写真は、サンルーフアイコンを指でスライドし、空ける操作をしている様子 (スクリーン上部)。iPhoneでロックスクリーンを開く感覚で操作できる。スクリーン下部は、ヘッドライトや室内灯の操作画面で、ボタンにタッチして点灯する。

サスペンション設定画面では車高を設定できる。走行中は速度に応じ、クルマが自動で車高を調整する。位置情報に応じた車高設定機能もある。急な坂やスピードバンプで車高を高く設定すると、クルマはその場所を把握する。搭載しているGPSで位置情報を認識し、その場所を通過する時は、設定した車高となる。

機能や特性をソフトウェアで生成

ステアリングモード画面でハンドルの感度を選択できる。スポーツモードを選ぶと、レースカーのように、機敏なハンドリングを味わえる。興味深いのはクリープ機能で、ブレーキから足を離したときに、するすると前に動くモードを設定できる。オートマ自動車特有の動きで、電気自動車でこれをエミュレーションできる。つまり、Teslaの機能や特性は、ソフトウェアでいかようにでも生成できる。iPhoneにクールなアプリをダウンロードして機能を増やすように、ソフトウェアがクルマの機能を決定する。

アクセルを踏んだ時のレスポンス

操作法の説明を聞いた後、テストドライブに出た。電気自動車の静かさと、アクセルを踏んだ時のレスポンスの速さには、改めて驚かされる。Kimによると、停止状態から時速60マイル (時速96キロ) に達するまでの時間は3.2秒 (Model S P85Dのケース) とのこと。これはPorsche 911 GT3 (レースで使われるハイパフォーマンス版のPorsche) と同じレベルになる。加速の俊敏性に惹かれてTeslaを購入する人も少なくないとのこと。但し、Teslaの最高速度は時速120マイル (時速192キロ) に抑えられている。

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コンピュータービジョンと安全機能

運転していて印象的だったのは、安全に配慮した機能が充実していること。その一つが速度オーバー警告機能で、スピードを出し過ぎると警告アイコンが表示される。上の写真がその様子で、インスツルメントパネルに、現行速度 (時速44マイル) と法定速度 (時速40マイル) アイコンが示され、スピードの出し過ぎに注意を促している。クルマは搭載しているカメラで道路標識を読み、その意味を理解する。この他に、運転中にレーンを右側にはみ出したときは、ハンドルが震えて警告した。これは、レーンアシスト機能で、カメラがレーンのはみ出しを認識して、ドライバーに注意を促す。コンピュータービジョンの精度が向上し、クルマが自動車学校の先生のように、ドライバーの安全運転を監視できるようになった。

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ソフトウェア・アップデートで機能追加

ソフトウェアの更新でTeslaの機能がどんどん増えていく。クルマは常に3G又はWiFiネットワークに接続され、ソフトウェア・アップデートを自動でダウンロードする。ダウンロードが完了すると、アップデート画面が表示され、そのままインストールするか、開始時間を指定する。インストールする際は、クルマをパーキングモードにしておく。

テストドライブで使ったクルマは、最新版のソフトウェア「Version 6.1」で動いている。上の写真はリリースノートで、ここにVersion 6.1の新機能が説明されている。次のアップデートは「Version 6.2」で、更に新しい機能が追加される。主要機能はバッテリー切れ防止で、クルマが自動でドライブルートを計算する。遠出する時に、クルマが充電を考慮し、専用充電ステーション「Supercharger」を含む、最適のルートを計算する。クルマの指示通り走れば、長距離ドライブを楽しめる。

Version 7.0で自動運転技術を追加

注目のアップグレードは「Version 7.0」で、自動運転技術「Autopilot」が追加される。クルマ本体は同じであるが、ソフトウェアをアップデートすることで、どんどん機能が増えていく。自動運転技術もソフトウェアの改版で対応する。iPhoneと同じ仕組みで、Teslaを購買した後もクルマが成長を続ける。ソフトウェア・アップデートを見ると、Teslaは自動車というより、情報通信機器としての色彩が強い製品と感じる。

モバイル決済事業で激動の予兆!Googleは「Android Pay」で”おサイフケータイ”に再挑戦

March 13th, 2015

「Google Wallet」で苦戦しているGoogleは、モバイル決済基盤「Android Pay」を投入し、“おサイフケータイ”事業の再構築を目指す。モバイル決済基盤とは分かりにくいコンセプトであるが、Android PayはGoogle Walletというアプリを稼働させるプラットフォームとして機能する。Google Walletだけでなく、他社が開発した決済アプリを稼働させるのが狙いだ。Apple Payという巨人に対抗するため、Samsung Payを含め、Android陣営の力を結集することを狙っている。更に、ここでフィンテック (FinTech) イノベーションが起きることを期待している。激動が予想されるGoogleのモバイル決済戦略をレポートする。

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モバイル決済基盤とフィンテック

Googleの上級副社長Sundar Pichaiは、バルセロナで開催されたWorld Mobile Congressで、モバイル決済基盤「Android Pay」を開発していることを明らかにした (上の写真)。この模様はMobile World Liveで放送された。Android Payは噂が先行していたが、今回初めてその一端が明らかになった。詳細については、開発者会議Google I/Oで発表される予定。

Android Payは、Google Walletとは異なり、モバイル決済基盤で、Android OSで稼働するアプリに、決済機能を提供する。Google Walletは、Android Payで稼働する、一つのアプリとして位置づけられる。具体的には、アプリはAndroid Payが提供するAPIを使い、決済機能を利用できる。Android Payがアプリの背後で、NFC (Near Field Communication) 通信、セキュアーな通信 (トークンを使った通信)、更に、将来は指紋認証による本人確認を行う。つまり、Android Payを使うと、誰でも簡単に”おサイフケータイ”を開発し、事業を始めることができる。決済アプリ開発の敷居がぐんと下がり、フィンテックと呼ばれる斬新なモバイル決済サービスが登場すると期待されている。

Samsung Payとの関係は複雑

Samsungは、同じ会場で前日に、「Samsung Pay」を発表している。これはGoogle Walletと正面からぶつかり、Googleの対応が注目されていた。Pichaiはこの発表に関し、Samsung PayはGoogleのタイムラインと異なるスケジュールで進んでいる、と述べている。具体的な内容には言及しなかったが、Samsung PayもAndroid PayのAPIを使うことができることを意味している。つまり、Samsung PayをAndroid Payで稼働する一つのアプリとして位置づけ、Googleのコントロール配下に置きたい、という意図がうかがえる。Googleとしては、Android陣営内で内輪争いをするのではなく、リソースを共有し、理路整然とおサイフケータイ事業を展開することを目指している。

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Apple Payが”黒船”になった

Google Walletは2011年にサービスが始まったが、利用者数は伸びなかった。しかし、Apple Payの登場で米国市場が一変した。Apple Payが決済方式のスタンダートとなり、それに伴い、Google Walletの人気が出てきた。Google Walletの処理金額が50%増加したと言われている。Apple Payが米国モバイル決済市場の”黒船”になった。

Apple Payを使うためにiPhone 6を購入する人も多いと言われている。店舗により普及率が異なるが、健康食品スーパーマーケット「Whole Foods」(上の写真) では、カード決済の20%がApple Payという統計がある。サービス開始当初はApple Payで支払いをすると珍しがられたが、今では普通の光景になった。レジでiPhoneを手に持っていると、「Apple Payですね」と言って、会計処理をしてくれる。Google Walletではこのような現象は起こらなかったが、Appleの影響力の甚大さを改めて認識した。

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Google Wallet苦戦の理由

Google Walletが市場に受け入れられなかった理由は多々ある。最大の理由は通信キャリアとの関係で、これが事業展開の障害となってきた。通信キャリア三社 (Verizon、AT&T、T-Mobile) は、ジョイントベンチャー「Softcard」(当初の名前はISIS) を立ち上げ、モバイル決済事業を目指した。Google Walletと正面から競合する関係にあった。

このため、通信キャリアは販売するスマートフォンに、Google Walletをプレロードすることを受け入れなかった。更に、通信キャリアは、Google Walletの機能を技術的に制限した。具体的には、Google Walletで決済する時には、セキュアーエレメントに格納しているカード情報を、決済システムに送る必要がある。通信キャリアはこの通信を遮断して、Google Wallet事業を制限した。(セキュアーエレメントは通信キャリアのSIMカードにある。)

筆者はVerizonから購入したスマホで、Google Walletを使ってきた (上の写真)。サービス開始当初は使えたが、途中から使えなくなった。Googleから説明は無かったが、この時点でセキュアーエレメントの通信がブロックされたと思われる。信頼性が第一の決済サービスで、方式の変更は利用者に不安を抱かせる。Google Walletのブランドイメージが大きく低下した。

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通信キャリアを迂回する方式

Googleは通信キャリアに依存しない方式を模索した。その結果、Googleはセキュアーエレメントのカード情報を送信する代わりに、これをソフトウェアでエミュレーションする方式に変更した。この方式はHost Card Emulation (HCE)と呼ばれ、セキュアーエレメントをクラウド上に構築する方式である。HCEは、カード情報をクラウドに保存し、決済処理の際に情報をスマホに読み込み、NFCリーダーに送信する。セキュアーエレメントを使わないので、通信キャリアが通信をブロックすることはできない。

これに先立ち、Googleは2013年10月、Android 4.4 (KitKat) の発表で、OSにHCE機構を搭載することを明らかにした。HCEはOSの追加機能として実装された。KitKat以降のNFC搭載スマートフォンで、Google Walletの”おサイフケータイ”機能を使うことができる。

今ではGoogle Walletは、クラウド・ワレットとしての機能も充実している (上の写真)。店舗での買い物だけでなく、オンラインショッピングの支払いもできる。Google Walletに入出金が纏められ、家計簿としても利用価値がある (左側)。また、いま流行の送金機能もあり、アプリから簡単にお金を送ることができる (右側)。

カード会社もHCE方式を推進

一方、カード会社もセキュアーエレメントを使わないHCE方式を積極的に推進している。昨年2月、MasterCardとVisaは、HCE方式での決済サービスを提供すると発表した。MasterCardはこれを「Cloud Based Payments」と呼び、米国を含む世界15カ国でプロジェクトを展開している。カード会社としては、HCE方式を採用することで、パートナー企業が簡単に”おサイフケータイ”システムを構築でき、モバイル決済事業が拡大するという目論見がある。カード会社のお墨付きで、HCE方式が世界の主流になる可能性も出てきた。

通信キャリアとの和解

技術的な側面だけでなく、Googleと通信キャリアの関係が大きく前進した。Googleは今年2月、Softcardから技術や知的財産を買い取ることに合意した。Softcardは2010年にジョイントベンチャーを設立し、システム開発を始めたが、開発は難航した。2012年にサービス開始にこぎつけたが、その普及は芳しくなかった。Softcardはサービス停止を決定し、上述の通り、Googleが資産や事業を継ぐ形式となった。

この和解により、通信キャリア三社は、Google Wallet事業に全面的に協力することを表明。販売するスマートフォンにGoogle Walletをプレインストールし、Googleはこれ対し料金を払うとしている。また、Google検索に連動する広告手数料を上げるとも言われており、通信キャリアは広告収入増加が見込まれる。一方、GoogleはGoogle Walletで生成されるデータを解析し、広告コンバージョン率を上げ、引いては広告収入向上を目指している。

Android Pay経済圏が出現するか

Googleは大きな障害をクリアーし、Google Wallet事業を再構築する環境が整った。今回は単におサイフケータイ事業だけでなく、パートナー企業がモバイル決済サービスを展開するのを支援する。まず、Samsung Payがこの基盤を利用するのかが注目される。HTCやLGも独自のモバイル決済事業を展開する道が開けてくる。ベンチャー企業からは、クールなモバイル決済アプリが誕生するかもしれない。Android Payはフィンテックのインキュベーターとなる可能性を秘めている。

お洒落だけど革新的でない?Apple Watchの狙いを読み解く

March 11th, 2015

Appleは、3月9日、サンフランシスコで、Spring Forwardと題した発表イベントで、Apple Watch詳細情報を発表した。改めて、Apple Watchは洒落なスマートウォッチで、ハイエンドモデル「Watch Edition」は息をのむほど美しい (下の写真)。一方、Apple Watchで生活がどう便利になるか、分かりづらいという意見もある。Apple Watchの機能は革新的でないとの評価もあるが、発表されたアプリを子細に検証すると、別の姿が見えてくる。

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パートナー企業が開発したアプリ

発表イベントで、CEOのTim Cookが、Apple Watchについて詳細情報を公表した。機能については、驚くような情報は無かったが、パートナー企業が開発したアプリについては、新鮮な情報が揃っていた。技術担当副社長Kevin Lynchが、Apple Watchを使って、これらアプリをデモし、新しい使い方を示した。アプリを子細に見ていくと、Apple Watchの狙いが浮き上がる。

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おサイフケータイ付き腕時計

Apple Watchでおサイフケータイ機能「Apple Pay」が使えることが大きなアドバンテージとなりそうだ。店舗で買い物をし、サイドボタンをダブルクリックし、リーダーにかざすだけで支払がいできる (上の写真、左側)。ポケットからスマホを取り出す必要は無く、腕時計で支払いができるのは、圧倒的に便利。セキュリティーに関しては、Apple Watchを着装する際に、四桁のPINを入力して本人確認をする。Apple Watchを外すとログオフした状態となり、他人が支払いをすることはできない。リーダーとはNFC (Near Field Communication) 方式で交信する。筆者は、スターバックスでリストバンド「Microsoft Band」で支払いをしているが、この方式はヒットの予兆を感じる。

ホテルのルームキーとなる

Apple Watchをホテルのルームキーとして使える。これはホテルチェーン「Starwood Hotels & Resorts」が開発したアプリで、Apple Watchがルームキーとなる (上の写真、右側)。ホテルに到着するとアプリでチェックインし、そのまま部屋に向う。アプリには「Room Number 237」などと、部屋番号が表示される。部屋のドアにApple Watchをかざすと鍵がアンロックされる。このケースもドアの鍵とはNFC方式で交信する。ホテルカウンターで長い行列に並ぶ必要は無く、スマートにチェックインできる。ホテル側としても、業務の効率化に役立つ。

駐車場で料金を支払う

Apple Watchで駐車料金を支払うことができる。パーキング・メーターにApple Watchかざすと、駐車場のスロット番号が自動で入力され、登録しているクレジットカードで支払いができる。これは「PayByPhone Parking」というアプリで、パーキング・メーターとはNFC方式で通信する。アプリは駐車時間終了10分前にメッセージを表示する。時間までに戻れそうにない時は、アプリで追加料金を払い時間を延長できる。

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自動販売機で料金を支払う

NFC方式での支払いは駐車場だけでなく、自動販売機にも広がっている。Coca-Colaは、今年末までに、北米でApple Payに対応した自動販売機を10万台導入するとしている。iPhoneをかざすだけで、清涼飲料水を購入できる (上の写真)。今回の発表イベントでは、Apple Watchで同じ処理ができることを明らかにした。日本ではSuicaを使って自動販売機で支払いをするのは普通の生活だが、米国でもApple Payの影響力でこの流れが始まった。Apple Watchの登場で、ポケットからスマホを取り出す代わりに、腕時計で買い物する方式が注目されている。

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スマートホームを操作する

スマートホームとウエアラブルの連携がトレンドとなっている。Apple Watchとスマートホームが連動するアプリが登場した。上の写真左側は、スマート・サーモスタット「Honeywell Lyric」と連動するアプリ。時計のディスプレイで「外出中」や「就寝」ボタンを押すと、空調が省エネモードとなる。利用者が自宅から遠いところにいると、アプリはメッセージで確認したのち、「旅行」モードで運転する。サーモスタットはApple Watchで利用者の位置を把握し、帰宅すると室内が最適な温度になっている。

上の写真右側は、スマートホーム機器「Lutron」と連動するアプリで、家庭内の電燈をApple Watchで操作する。ソファに座ったままで、「映画モード」を選択すると、室内の照明が落ちる。寝室で「就寝モード」を選択して家全体を消灯する。家を離れている時も操作でき、防犯のため、夜間に電燈を点けることもできる。電燈を点けたまま外出すると、アプリが消すかどうかを尋ねる。

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大型店舗で買い物をする

Apple Watchが買い物の手助けをする。これは大型店舗「Target」が開発したアプリで、買いたい商品の売り場に近づくと、アプリがそれを教えてくれる。事前にiPhoneで買い物リストを作っておき、店舗ではその売り場に近づくと、Apple Watchにメッセージが表示される (上の写真左側、スポーツ用品売り場で自転車を表示)。アプリは消費者の場所を把握し、売り場に関連する買い物リストを表示する。これ以上の説明は無いが、店舗にBluetoothビーコン「 iBeacon」を備えておけば、ピンポイントで消費者の位置を把握できる。スマホにメッセージが表示されるのとは異なり、腕時計を見ながらの買い物は便利に違いない。

定番のランニングアプリ

ウエアラブルの必須アプリはランニング管理。上の写真右側は「Nike+ Running」で、アプリがランニングの走行距離、時間、ペースなどを表示する。iPhoneとペアで利用し、走りながらApple Watchで途中経過を確認できる。ランニング中に友人から応援メッセージが届くと、それをApple Watchで閲覧できる。ヘッドセットとBluetoothで繋ぐと、走りながら音楽を聞ける。ランニングが終わるとアクティビティーのサマリーを表示する。取り立てて新しい機能は無いが、ウエアラブルで一番人気のアプリ。

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Bring Your Own Wearable (BYOW)

早くもApple Watchを仕事に活用するアイディアが登場した。上の写真左側は、米国の先進医療機関「Mayo Clinic」が開発した、医師向けのアプリ。アプリは忙しい医師のスケジュールを管理する。医師はApple Watchを見て、患者がロビーで待っているのか、検査を終えたのかなどを把握する。診察する際には、アプリで患者の年齢、性別、体重などを閲覧し、お洒落に情報にアクセスする。BYOD (Bring Your Own Device) の次は、BYOWが話題になっている。

上の写真右側は、コントラクターが仕事をした時間を管理し、請求書を発行するアプリ「Invoice2go」。コントラクターは、Apple Watchをして仕事場に到着すると、アプリはそれを把握。職場はGeofencing機能で定義され、Apple Watchがその中に入ると、仕事をしているとみなされ、働いた時間を記録する。コントラクターはこの情報を元に、請求書を発行する。支払いを受領すると、アプリが知らせてくれる。

登場しなっかたアプリ

発表イベントでは新しいアプリが数多く紹介されたが、期待に反し登場しなかったアプリもある。これはデジタルヘルス関連で、Apple Watchは、血圧、心電図、皮膚の電気伝導率 (ストレスの度合いを測定)、血中酸素濃度を測定する機能を搭載すると噂されていた。しかし、昨年9月の発表でこれら機能は公表されず、Apple Watchはデジタルヘルスから大きく路線を転換したことが明らかになった。今回もこの路線を踏襲し、高度なデジタルヘルス機能は登場しなかった。これら重要な機能が欠落したままのApple Watchは考えにくく、将来製品に順次搭載されることを期待している。

今まで述べてきたアプリに共通しているのは、Apple WatchがNFCやBluetoothなどでネットワークに繋がり、センサーの役割を果たしていること。Internet of Thingsとして機能し、バックグランドで必要なデータを送受信し、利用者に便利な機能を提供している。Apple Watchが、クレジットカードやドアの鍵となり、リアル社会のツールとして使われる。Apple Watchは、情報表示端末ではなく、Internet of Thingsのセンサーとして捉えれば、製品の狙いが分かり易い。将来は、上述の通り、Apple Watchが身体情報をモニターするバイオ・センサーとしての役割が期待されている。

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お洒落にITを楽しむのがニューノーマル

Appleは製品発表に先立ちPRを展開してきた。上の写真は女性雑誌「Vogue」三月号で、中折の部分に12ページにわたり、Apple Watchのコマーシャルが掲載された。ドレスやバッグと並び、Apple Watchがファッションアイテムとして位置づけられている。Apple Watchのテレビコマーシャルも始まった。お洒落なApple Watchで、秒針が時を刻むように、その機能を次から次へと紹介した。プライムタイムで女性を対象に、ファッション性を前面に押し出したコマーシャルだった。お洒落にITを楽しむのがニューノーマルであるとのメッセージを感じた。

Samsungが”おサイフケータイ”事業開始!Apple Pay追撃の奥の手を公開

February 27th, 2015

Samsungは最新モデルGalaxy 6Sの発表イベントで、モバイル決済機能「Samsung Pay」を公表した。Samsungが”おサーフケータイ”事業へ参入することが明らかになった。Samsung Payは、Apple Payを上回る機能を打ち出し、コピーではなくその独創性を強調した。この発表は、SamsungはGoogle Wallet路線には乗らず、独自サービスを展開する道を選んだことを意味する。急成長しているモバイル決済市場で、仁義なき争いが始まった。

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磁気カードリーダーで使えるおサイフケータイ

Samsungは3月2日、バルセロナで開催されたMobile World Congressで、モバイル決済サービス「Samsung Pay」を発表。一連の発表イベントはYouTubeで公開された。Samsung Payは、日本で普及しているおサイフケータイで、スマホをリーダーにかざすだけで、カード決済ができる。Samsung PayはこのNFC (Near Field Communication) 方式に加え、MST (Magnetic Secure Transmission) という新方式をサポートすることを明らかにした (上の写真)。

MST方式とは、磁気カードリーダーでおサイフケータイを使う技術を指す。スマホはカード情報を磁気カードリーダーに送信し、決済処理を開始する。スマホが磁場を生成し、あたかも磁気ストライプカードのように振る舞い、カード情報をリーダーに送る。リーダーは情報を受け取ると、カードをスワイプしたと思い、決済処理を起動する。

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使い方はおサイフケータイと同じ

Samsung Payの使い方は、基本的におサイフケータイと同じ。ディスプレイを上側にスワイプしてSamsung Payを起動。(Apple Payと異なり、アプリは自動で起動しない。) 次に指をホームボタンにあて、指紋認証で本人を確認する。今までは、指紋認証で指をスワイプしていたが、これからはiPhoneと同じように、指をあてる方式に変更された。MST方式では、スマホをカードリーダーの側面にかざして交信する (上の写真)。MST方式はSamsungが買収したLoopPayの技術を使っている。

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LoopPayの技術概要

Samsungは2015年2月、LoopPay買収を発表し、Samsung Payはこの技術を導入した。LoopPayはボストンに拠点を置く企業で、モバイル決済技術を開発し、今でも事業を継続している。「LoopPay CardCase」という名称で製品が提供され、iPhone 6やiPhone 5に装着するジャケット形状となっている (上の写真)。ジャケットに装着されているスライド式のカード (手前の写真)が、磁気カードリーダーと交信する。LoopPayとスマホはBluetoothで交信する。LoopPayを使うには専用アプリ「LoopPay」をダウンロードし、カードを登録する。店舗で支払いする際は、アプリを起動し、PINを入力し、使うカードを選択し、スマホをリーダーにかざす。若干操作手順は異なるが、決済処理技術はSamsung Payと同じ仕組みである。上の写真のように、ジャケットの中に運転免許証を入れておけば、財布を持たないで行動できる。

カード会社や大手銀行がサポート

Samsung Payは既に幅広いエコシステムを築いている。対応しているカードはMasterCard、Visa、American Express。カード発行銀行はJP Morgan Chase、Bank of America、Citi、US Bankなどが名前を連ねている。Samsung Payの強みは、上述の通り、幅広いリーダーに対応していることに加え、主要銀行が発行しているカードを使えること。Samsung Payは、Galaxy 6sとGalaxy 6s Edgeで利用でき、米国と韓国で今年夏からサービスが開始される。

モバイル決済向けセキュリティー技術

カード決済システムの観点からすると、Samsung PayはApple Pay向けに構築されたインフラをそのまま流用している。MasterCardは、Apple Payに対応するため、モバイル決済システム「MasterCard Digital Enablement Service(MDES)」を運用している。Samsung Payはこのネットワークに乗る形で展開される。MasterCardとしては、開発したモバイル決済システムを多くの企業が利用することは大歓迎である。

米国でモバイル決済が普及してきた背後には、不正防止のためのセキュリティー技術がある。利用者がスマホにクレジットカードを登録すると、カード番号に対応したトークンが生成される。これは16ビットの番号で、スマホに格納されているカードを特定するために使われる。店舗で買い物をすると、トランザクションコード (処理毎に固有な番号) が生成され、トークンと伴に暗号化され、決済ネットワークに送信される。カード会社とカード発行銀行で、認証と決済処理が行われる。Samsung Payもこのネットワークで稼働しており、カードリーダーや経路上での、カード情報の盗聴や窃取による犯罪を防止できる。

Samsung Payの優位性

Samsungは発表イベントで、Apple Payに対する優位はMST技術であることを繰り返し強調した。Samsungは、モバイル決済の問題点をNFCリーダーの普及率だとし、米国では90%のリーダーがNFCをサポートしていないと指摘。Samsung Payはこれらリーダーに対応し、利用できる店舗が広がる。MST方式とは奇抜なアイディアで、モバイル決済への敷居が一気に下がりそうだ。

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この優位性を保てるか

一方、米国ではカード決済技術が大きく変化している。大規模なカード情報盗用事件が相次ぎ、オバマ政権はカード会社などに対し、磁気カードをEMVカード (ICカード) にアップグレードするよう指導している。これを受け、Visaなどは、今年10月としていたアップグレード期限を前倒しで実施している。米国の小売店舗はEMVリーダーの導入を急ピッチで進めている。EMVリーダーの多くはNFCリーダーも搭載しており、NFC方式でのモバイル決済環境が整ってきた。上の写真は大手ドラッグストアーの決済端末で、磁気カードリーダー (右端のスロット)、EMVカードリーダー (手前のスロット)、NFCリーダー (奥の楕円形の部分) を備えている。これが標準リーダーとなりつつある。このような環境でSamsung Payがどれだけ優位性を維持できるのか、今後の成り行きが注目されている。

技術面とは別に、Samsung Payを普及させるためには、啓蒙活動が必要かもしれない。買い物をしてカード決済する時に、いきなりスマホを磁気カードリーダーに近づけると、店員さんは驚くかもしれない。カードをスワイプすると思っていると、顧客がスマホをかざすと決済が完了する。新たな詐欺行為と疑われる可能性があり、サービスを展開する前に、MST方式をPRする必要がありそうだ。

Googleとの関係が微妙になる

GoogleはApple Payに対抗するため、Android陣営のリーダーとして、モバイル決済で巻き返しを狙っている。Googleは、敵対関係にあったモバイル決済サービス「Softcard」 (Verizon、AT&T、T-Mobileのジョイントベンチャー) の技術買収で合意に至り、Google Wallet再構築を進めている。この流れの中で、SamsungはGoogle Walletには乗らないで、独自サービスを投入した。Googleと袂を分かつだけでなく、モバイル決済事業でGoogleと正面から競合する。Samsungとしは、スマホ事業の低迷を関連サービスで補うのは、順当な戦略である。SamsungとGoogleの関係が一層微妙になっている。

日本はモバイル決済維新?

Apple Payと同様、Samsung Payも世界市場進出を視野に入れている。Google Walletは、モバイル決済事業をゼロベースで見直し、雪辱を果たそうとしている。おサイフケータイ先進国の日本であるが、これからはApple PayやSamsung Payの上陸を意識する必要がありそうだ。Google Walletも秘策を練っていると思われる。日本ではリーダーの無線通信規格が、国際標準(Type A/B) に対応してきたとも聞こえてくる。新サービスに対応する環境が整いつつあり、今はおサイフケータイ事業が大きく変わる、モバイル決済維新かもしれない。

ロボットが司法試験に合格!?人工知能が知的労働者の職を奪う日が迫る

February 20th, 2015

Googleなどが開発している自動運転車の販売が始まると、タクシーや長距離トラック運転手が職を失い、米国社会に危機感が忍び寄っている。人工知能が急速に進化しており、運転手の次は、弁護士のような知的労働者がロボットに置き換わると危惧されている。人工知能やロボットの進化は、米国社会をどう変えるのか、最新事情をレポートする。

ロボットと雇用についての議論

米国で議論を呼んでいるビデオがある。「Humans Need Not Apply (人間は採用しない) 」という題名で、ロボットによるオートメーションが進むと、どんな世界が待っているかのを描いている。かつては、自動車の登場で馬が”職”を失ったが、今度は、人工知能の進化で人間の職が危機にさらされている。このビデオは、来るべき社会にどう備えるべきか、多くの問題を提起している。センセーショナルなタッチで、ロボットと職に関する議論に火をつけた。

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インテリジェントなロボット

ビデオが示すロボットとは、自動車工場の製造ロボットではなく、インテリジェントなロボットを指す。製造ロボットは極めて複雑な動きをするが、自動車製造という限られた領域で、限定した作業をするため、ここではダム・ロボット (Dumb Robot)と呼ばれている。これに対し、新世代のロボットの代表を「Baxter」としている。Baxterとは、ボストンに拠点を置くRethink Robotics社が開発したロボットで、製造作業で使われる (上の写真)。

Baxterは視覚があり、手本を見てそれを学ぶことができる。事実、YouTubeで料理番組を見て、調理法を学習するインテリジェンスを持っている。特定のタスクをプログラムする必要はなく、ロボットが自律的に学習する。Baxterの価格は2万ドルで、維持費の電気代を加えても、人間より安く働くことができる。

汎用ロボットの時代

ビデオは、Baxterを汎用ロボットと定義し、ロボットブームのさきがけと位置付けている。コンピューターと比較するとその意味が分かり易い。コンピューターは、当初、特定処理を行うマシンとして開発され、価格も高価であった。その代表が「Eniac」で、米国国防省が第二次世界大戦中に、兵器の弾道計算をするために開発した。時を経て、Appleに代表されるパソコンが登場し、汎用コンピューターを誰でもが使える時代となった。コンピューターはゲームだけでなく、フライトの予約や株式の取引ができる。Baxterは1980年代の汎用コンピューターに相当すると述べている。Baxterは製造作業だけでなく、料理や洗濯もでき、汎用的に使えるという意味である。Baxterでロボット文化が開花しようとしている。

自動車の登場で馬の数が激減

ビデオは馬と自動車の関係に言及している。かつては馬が労働を担い畑を耕した。馬の速達「Pony Express」が、ニューヨークからサンフランシスコまでを、10日間で結んだ。馬が物の移動を担ってきたが、自動車の登場で1915年をピークに、頭数が減り始めた。馬は自動車に取って代わられたが、別の仕事があると思っていた。しかし、この予測は外れ、馬の数は激減した。ロボットの登場で、これが人間に起ころうとしている。人間がこれに備えをしないと、馬の二の舞になると警告している。

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自動運転車が失業者を生む

ビデオは、自動運転車は将来の話しではなく、もう存在していると述べている。自動運転車が自動車を置き換えるか否かではなく、どれだけ早く置き換えるかが議論となっている。ビデオは自動運転車は完璧である必要はないとも述べている。米国では年間4万人が交通事故で亡くなる。自動運転車が人間の運転より安全であれば、多くの人命が救われるとしている。自動運転車は人間を運ぶものだけでなく、倉庫で荷物を運ぶロボットや、工事現場で作業する車両も含まれる。ロボットで最初に人間の職を置き換えるのは自動運転車で、安全な社会がやって来ると同時に、大量の失業者を生み出すこととなる。

既にGoogleがシリコンバレーで走行試験を繰り返し、自動運転車は完成の域に近づきつつある。Mercedes-Benzは、ラスベガスで開催されたCESで、コンセプトカー「Mercedes F 015」を発表し、自動運転技術開発レースでトップ集団に加わった。自動車部品メーカーBoschは、自動運転技術開発を加速させ、Lidar (レーザーセンサー) を搭載した車両で試験運転を繰り返している (上の写真)。雇用対策を含めた社会インフラを整備する時期に差し掛かっている。

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ロボットがプログラムや新聞記事を書く

ロボットが高度なスキルを持っているホワイトカラーを置き換えると、ビデオは予測している。プログラマーの仕事が危うい。今は人間がロボットの技量を上回るが、これからは、ロボットが自ら学習する能力を備え、技量が逆転すると見ている。株式取引で、もはや人間が関与する余地は無い。ニューヨーク証券取引所では、取引される株式の70%がアルゴリズム・トレーディングという統計もある。ロボットは自ら学び、また、他のロボットから学び、スキルを上げていく。

新聞記事もロボットが書いている。米国で新聞を買うと、ロボットが書いた記事を読んでいる可能性が高い。特にスポーツ記事や決算レポートは、ロボットの得意分野である。上の写真はForbesの記事で、企業業績を予測している。この記事はNarrative Science社のソフトウェアで書かれたもので、背後に人工知能技術が使われている。事務処理、意思決定、執筆などは人間にしかできない仕事と思われてきたが、これらホワイトカラーの職がロボットに置き換わる。いまこうして書いている記事も、将来はロボットが執筆するのかと思うと、心中穏やかでない。

ロボットが弁護士や医師となる

更にビデオは、弁護士や医師など専門職の仕事に言及している。弁護士といえば裁判を連想するが、実際には、裁判に備え、書類を作成する仕事が中心となる。このプロセスはディスカバリーと呼ばれ、大量の資料を読み、新たな事実関係を見つけ出すことが目的。ロボットは、電子メール、メモ、書類など大量の資料を過去に遡って読み進め、事実関係を明らかにする。既にロボットは人間をコストや時間だけでなく正確性で凌駕している。

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IBMの人工知能「Watson」は、医師が患者に診断を下すために利用されている (上の写真、Watsonがガン患者に対する治療方針を推奨)。米国では医師の誤診により、毎月15000人が亡くなっており、ロボットの役割に期待が寄せられている。医師は患者の処方箋服用履歴を見るが、膨大な数の薬の副作用をすべて把握できる訳ではない。ロボットは医学書を学び、他のロボットの知識を学び、多角的な情報から判断を下す。弁護士や医師がロボットに職を奪われる可能性が高いと指摘している。

ビデオでは触れていないが、ロボットが高度な職業をこなすためには、どのような資格が必要かの議論も起こっている。人間と同じように、ライセンスの取得が前提条件という意見が聞かれる。具体的には、ロボットが弁護士の仕事をするためには、司法試験に合格する必要がある。自動運転車が公道を走るためには、州政府が発行する運転免許証の取得が必要となる。ロボットや人工知能が高度に進化することで、関連法令の整備が重要な課題となっている。

ロボットが作曲をする?

最後にビデオは、芸術家のように特別な才能を持つ人について触れている。創造力は人間だけに備わった特別な才能で、ロボットに置き換わることは無いと思われてきた。しかし、ビデオで流れている音楽は、ロボットが作曲したものだ。この音楽は、「Emily Howell」というソフトウェアが作曲したもので、ロボットは芸術でも威力を発揮している。

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このソフトウェアはカリフォルニア大学サンタクルーズ校教授David Copeが開発した。Emily Howellは、別の作曲ロボット (Music Intelligence) が創った音楽から、パーツを寄せ集め、全体を構成する。Emily Howellは開発者や視聴者からの感想を理解し、機械学習の手法で進化する。Emily Howellが作曲した音楽は、AmazonやApple iTunes Store (上の写真) で販売されている。これらは、Emily Howellが作曲した曲を、人間のアーティストが演奏したものである。ただ、有名オーケストラはロボットが作曲した音楽を演奏することに抵抗感を示しており、Emily Howellは音楽界で物議をかもしている。

実際にこれらの音楽を聞くと、人間が作曲したものか、ロボットによるものか、判別できない。バロックから現代音楽まで、幅広いジャンルが統合された形式で、今までに聞いたことの無い音楽だ。単独で聴くのもいいが、映画音楽として利用価値がありそうだ。Emily Howellが作曲する音楽の完成度は、視聴者のフィードバックに大きく依存する。フィードバックの質がEmily Howellが成長するカギを握る。

結論:失業率は25%に達する

ビデオは、ロボットが人間の職を奪うと結論付け、失業率は25%に達すると予測している。馬が自動車の登場で職を失ったように、大学を好成績で卒業し企業に就職しても、これからはロボットに職を奪われると警告している。自動化が悪いのではなく、これは必然の成り行きで、どう備えるかが問われていると結んでいる。

ロボットが労働者不足を補う

挑発的な内容と暗い結末に対し、様々な議論が起こっている。予想していた最悪のシナリオが示され、ロボットや人工知能開発を再考する必要がある、という意見が多数を占める。その一方で、反対意見も少なくない。Rethink Robotics社 (上述Baxterを作っている会社) 創設者で、MIT教授のRodney Brooksは、このビデオに対するものでは無いが、ロボットの社会における影響をポジティブに評価している。Harvard Business Reviewに論文を投稿し、ロボットは人間の職を奪うものではないとの議論を展開している。40年後は、世界規模で労働人口が減り、生産性が低下する。生産性を上げるためには、ロボットが必須である、というのがその主張である。ロボット製造会社の会長だから当然の主張というよりは、社会問題を解決するためにロボットを活用すべきという議論もある。

この流れは止められない

日本が世界で最初にこの状況に遭遇するのかもしれない。日本は最速で高齢化社会に向い、労働人口不足が喫緊の課題となっている。退職者の年金を少ない数の労働者が支えることになる。国民総生産を伸ばすためにも、ロボットが労働力の不足を補う必要がある。だが現実的には、ロボットの登場で多くの人が職を失うのは事実であろう。五年後には、自動運転車の登場で職業ドライバーが職を失い、失業問題が発生する。その先は、知的労働者の職が危機にさらされる。失業問題に配慮して、ロボットや人工知能の開発を止めても、誰か別の企業が手掛け、もはやこの流れは止められない。来る問題にきちんと対処しながら、人工知能やロボット開発を進めるのが、正しい筋道のように思える。ただ筆者を含め労働者としては、防衛手段はまだ見えない。米国が雇用問題に対いても、先進的なアイディアを出してくるのか、注目していきたい。