Teslaは自動車会社からモビリティー企業に転身!EVトラックとバスを投入し全てのクルマに自動運転技術を搭載

July 21st, 2016

Tesla最高経営責任者Elon Muskは、2016年7月20日、事業戦略計画をマスタープラン・パート2として発表した。パート1は2006年に発表され、TeslaのEV開発計画を明らかにした。パート2でTeslaは自動車会社からモビリティー企業に転身することを宣言した。具体的には、家庭向けソーラーパネルとクルマを統合し、EV製品ラインを拡大する。自動運転技術で10倍安全なクルマを開発し、Tesla独自のカーシェアリングや無人タクシーを運営する。分かりにくいマスタープランであるが、Teslaが目指す方向を解説する。

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エネルギー事業との統合

Teslaは2016年6月、ソーラーパネル販売会社SolarCityを買収することを提案をした。株主の賛同が得られる見込みで、Teslaはエネルギーサービス企業を傘下に持つことになる。SolarCityはシリコンバレーに拠点を置き、パネルのリース事業でビジネスを拡大している。利用者はSolarCityからソーラーパネルをリースすると、月々の電気料金が安くなる。SolarCityはEVへの給電システムとして機能し、Teslaが提供するバッテリー「Powerwall」の電源として使われている。このためMuskは両社を統合し、一つの会社として運用する。利用者はTeslaでEVやバッテリーだけでなく、その電源であるソーラーパネルを購入できる。Teslaは再生可能エネルギーの発電と充電を手掛ける会社となる。

小型SUVとピックアップトラック

Teslaは普及車として「Model 3」を発表したが、これを補完するため小型SUV (スポーツ用多目的車) とピックアップトラックを投入する。現在ハイエンドセダン「Model S」 (上の写真) とSUV「Model X」を販売しているが、Teslaはフルレンジをカバーすることになる。製品モデルを拡大するには、工場での生産能力を短期間で増強する必要がある。このため、Teslaは製造工場で使う機器を自社で開発する方針を打ち出した。つまり、Teslaは工場自体を自ら製造することとなる。(下の写真はシリコンバレー近郊のTesla工場。)

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トラックと小型バスを開発

Teslaは電気自動車のトラックと小型バスの開発を始めていることを明らかにした。トラックは「Tesla Semi」と呼ばれ、輸送コストを大幅に下げるだけでなく、安全で快適に操作できるとしている。小型バスは車体が小さく無人で走行する。内部は中央通路を取り払い、今より多くの乗客を乗せることができる。小型バスは他のクルマと同じ速さでで加速・減速できるため、流れに沿ってスムーズに走行できる。バスがゆっくり走り交通渋滞の原因となっているが、小型バスはこれを解消する。利用者はバス停でスマホや備え付けのボタンでバスを呼び、降車場所は乗客が指定できる。MuskはSpaceXでロケットブースターを再利用し輸送技術を劇的に向上したが、Teslaは地上における物流技術を大きく変えようとしている。

全てのクルマに自動運転技術を搭載

Muskは自動運転技術の基本指針を明らかにした。Teslaが自動運転車を開発していることは公然の秘密であったが、マスタープランでこれが正式に表明された。Teslaが投入するクルマは全て自動運転のためのハードウェア機構を搭載する。クルマの部品が故障しても安全に自動走行できるため、機器は冗長構造となる。例えば、ブレーキが故障しても予備のブレーキが作動し安全に停止できる。

自動運転のためのハードウェアはカメラ、レーダー、ソナーとコンピュータ。自動運転車ではLidar (レーザー光レーダー) がクルマの眼として中心的な役割を担う。Googleは自動運転車にLidarを搭載し、クルマの周囲のオブジェクトを3Dで把握する。TeslaはあえてLidarを搭載しない方式を選択し、独自の自動運転技術を開発する。Muskは自動運転技術ではソフトウェアの開発に時間がかかると述べ、安全性はソフトウェアの完成度に依存するとしている。つまり、Lidarのような高価なセンサーは必要なく、カメラやレーダーなどコモディティ機器を使い、ソフトウェアの技量で安全な自動運転技術を達成できるとの開発思想を示した。Teslaは確立された技術を選ばず、難しい道を選択したことになる。

政府機関による安全性認定のプロセス

Teslaは自動運転車開発で時間を要す部分は政府機関による安全認定のプロセスだと指摘する。認定作業のためには走行試験が必要で、世界主要国で許可を受けるためには100億キロの走行試験が必要とみている。現在、Teslaは市販車両から走行データを収集しており、その距離は一日当たり500万キロとなる。認可を受けるプロセスが最大の関門となるが、既に製品を出荷しているTeslaにとって、安全確認のための試験データ収集が最大の強みになる。

Autopilotの安全性について

Tesla Autopilotで死亡事故が発生して以来、米国でTeslaの安全性について議論が続いている。Autopilotのように”半自動運転技術”は危険だという議論がある。Autopilotはハイウェーでは自動運転車のように振る舞い、ドライバーはこれを過信して前方注意がおろそかになる。生半可な安全技術はかえって危険だという議論である。

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これに対してMuskは、Autopilotを正しく利用すると人間が運転するより遥かに安全である、と主張する。このように安全な技術を持ちながら、事故が起こった時の訴訟問題を恐れて製品を投入しないのは倫理的に許されないとも述べている。更に、多くのメディアがAutopilotの機能を停止すべきと主張しているが、Muskはこの計画はないとしている。(上の写真は筆者がAutopilotでハイウェーを走行している様子で、実際に運転するとAutopilotは必須機能であると実感した。Autopilotの機能を停止するのではなく、正しい使い方を教育するのが正しいアプローチと思える。)

どこにいてもクルマを呼べる

Tesla完全自動運転車が登場すると、ドライバーはどこにいても自分のクルマを呼ぶことができる。現在、Teslaは「Summon」という機能で、クルマがガレージを出て外でドライバーの搭乗を待つ機能を提供している (下の写真)。完全自動運転車ではこの機能を拡充し、ドライバーはどこにいてもスマホでクルマを呼ぶことができる。ドライバーがクルマに乗ると、眠りながら、又は、本を読みながら目的地まで移動できる。クルマにステアリングなどマニュアルで運転する機構が搭載されているかなど、詳細機能や出荷時期については公開されていない。マスタープランでは製品詳細情報が公表されておらず、市場から不満の声も聞こえてくる。

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カーシェアリングと無人タクシー

Teslaはクルマが完全自動運転車となると、車両を共有する機能を提供する。ドライバーがクルマを使わない時は、アプリでボタンを押すと、クルマを他の利用者に貸し出す。例えば、休暇を取っている間、また、会社で働いている時間帯に、この機能を使うとクルマが他の利用者に貸し出され、所有者はレンタル収入を得ることができる。この収入により、所有者はクルマの維持費を大幅に減らすことができる。

現在クルマは所有時間の5%から10%しか稼働しておらず、この機能でクルマを効率的に利用できる。今でもクルマを共有するカーシェアリングサービスがあるが、将来はTeslaがこの機能を自ら提供することとなる。都市部ではクルマの利用の需要が高く、Teslaが自動運転車を使った無人タクシー事業を展開する。Uberのように、Teslaも無人タクシー事業を展開することとなる。

Teslaはモビリティー企業

多くの自動車メーカーは自動運転車の販売と無人タクシー事業を会社経営の両輪と位置づけている。Teslaもこの路線に沿ってクルマの販売と無人タクシー事業を展開することが明らかになった。しかし、Teslaの場合はあくまで消費者にアピールするクルマの販売が中心になる。無人タクシーは都心部での限定的な事業と位置づけている。つまり、Teslaは完全自動運転車が出荷されても、消費者はクルマを購入するとみている。更に、Teslaは太陽光発電事業と自動車事業を一体的に展開する。

Teslaは自動車メーカーなのか、ハイテク企業なのか、それともエネルギー企業なのかその実態を掴むのが難しくなってきた。敢て一言で表すとモビリティー企業となり、Teslaは省エネで安全に移動できる技術を提供する会社に向かっている。発表に先立ち、Teslaはドメイン名を変更し、「teslamotors.com」からMotorsを取り「tesla.com」とした。Teslaはもはや自動車会社ではなくなった。

クルマのキラーアプリは無人タクシー!自動車産業の”インターネットバブル”が始まる

July 8th, 2016

配車サービス企業は一斉に自動運転車開発に乗り出した。無人タクシーを事業の中心に据え、公道で試験走行を始めた。消費者はクルマを買う代わりに、無人タクシーを呼んで移動する。クルマを販売する時代からRide (移動) を販売する時代に入る。無人タクシーは自動車産業にどんな影響を及ぼすのか、実態が見え始めた次世代の配車サービスをレポートする。

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Uberの自動運転試験車両

配車サービスは日本でも事業を拡大しているが、米国では日常生活でなくてはならない存在となった。配車サービス最大手Uberは2016年5月、Pittsburgh (ペンシルベニア州) で自動運転車の走行試験を始めた。試験車両はFord Fusionのハイブリッドモデルで、ここに多数のセンサーを搭載している (上の写真)。屋根の上に積んだラック最上部に複数のLidar (レーザー光センサー) を搭載している。正面に向いている円形部分はカメラと思われる。その左右と後部にカメラやレーダーなどを搭載している。更に、フロントバンパーにもLidarを搭載しているのが分かる。

この試験車両は自動運転機能に加え詳細マップを作成する機能を持つ。自動運転モードで走行する時は、専任ドライバーが運転席に座り走行状態を監視し、緊急事態には運転を取って代わる。Uberの自動運転技術は初期段階で、開発レースで先頭集団を追う展開となる。路上試験の目的は安全性の確認で、歩行者、自転車、クルマに交じり安全に走行できることに注力している。

Carnegie Mellon Universityと共同開発

Uberはこれに先立ち、2015年2月、Carnegie Mellon Universityと自動運転技術とマップ作製技術を共同で開発することを表明した。Uberは開発センター「Uber Advanced Technologies Center (Uber ATC)」を設立し、ここで大学の学部や生徒と共同で研究を進めている。対象となる分野はソフトウェア、メカニカル、ロボティックス、機械学習などである。Carnegie Mellon UniversityはStanford Universityと並び、米国の自動運転技術の礎を築いた大学である。UberがCarnegie Mellon Universityと組むことで技術開発が一気に進むとみられている。一方、Uberはその直後、大学から一挙に40名の研究員を引き抜き、アグレッシブな開発手法に批判が集まっている。

LyftはGeneral Motorsと提携

Uberを追うLyftは自動運転技術を独自に開発するのではなく、General Motorsと共同開発する道を選んだ。General Motorsは2016年1月、Lyftに5億ドル出資したことを明らかにした (下の写真)。General MotorsはLyftと共同で自動運転車による配車サービスを開発する。自動車メーカーが本格的に配車サービスに乗り出したことで注目を集めた。更に、General Motorsが開発している自動運転技術で無人タクシー事業を展開する。

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無人タクシーを公道で試験

主要メディアによると、 General MotorsとLyftはChevrolet Bolt EV (下の写真) ベースの自動運転車を開発している。この自動運転車はLyftの無人タクシーとして市場に投入される。Lyft無人タクシーは二年以内にカリフォルニア州で試験走行を始める。当初は専任ドライバーがクルマに搭乗し無人タクシー運行を支援する。無人タクシーは自動で走行し、問題が発生するとドライバーが運転を交代する。五台の車両を使い無人タクシー業務を公道で試験する。無人タクシーに乗るのをためらう消費者も多いと思われる。このため、利用者はアプリで配車されるクルマが無人タクシーかどうかを把握できる仕組みになっている。もし、無人タクシーに乗りたくなければ、オプトアウトできるオプションがある。

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無人タクシーは乗客とのコミュニケーションがカギ

無人タクシーはクルマと乗客のコミュニケーションがカギとなる。自動運転技術に加え、乗客の把握や会話技術を開発する必要がある。例えば、無人タクシーは利用者がクルマに搭乗したことを認識する仕組みが求められる。また、クルマに乗り込んできた人はアプリで配車を求めた本人なのかの確認も必要。更に、乗客が目的地をどう指定するのか、また、クルマは目的地に到着したのをどう把握するのかなど、課題は少なくない。この機能を実現するにはアプリだけでは不十分で、車両側にセンサーなどの機器や会話技術が必要となる。General Motorsが車両と自動運転技術を、Lyftが配車ネットワークを担い、手分けして無人タクシーを開発する。

General Motorsの自動運転技術

General Motorsは自動運転技術を自社で開発しているだけでなく、自動運転ベンチャー「Cruise Automation」を買収しその技術を取り入れた。買収金額は発表されていないが10億ドルと言われている。Cruise Automationはクルマに外付けする自動運転キットを販売していたが、近年はフルスタックの自動運転技術を開発している。General MotorsがCruise Automationを買収した背景には、この技術で自動運転車の開発を加速する狙いがある。Cruise Automationの40人のエンジニアは、General Motorsの自動運転開発チームに加わり、技術開発が本格的に始動した。

Uberは中国を最重要市場と位置付ける

注目される配車サービスであるが、その実態は競争が激烈で、資金力の戦いになっている。配車サービスの多くは料金を低く抑えて顧客を呼び込む。そのため事業は赤字で、それをベンチャーキャピタルからの出資金で補う構造となっている。マーケットシェアを勝ち取るために赤字覚悟で事業が進められる。Uberは北米や欧州など先進国で事業が黒字になったことを明らかにしたが、新興国では巨額の赤字を抱えている。

いまUberの事業開拓の中心は中国やインドなど新興国に移っている。この市場でシェアを獲得するため大規模な資金を投入し事業を展開している。特に中国では業界一位の配車サービス「Didi Chuxing (滴滴出行)」を激しく追う構造になっている。Didi Chuxingが圧倒的なシェアを占める中国市場でUberが戦いを挑んでいる。中国はUberにとって最も重要な市場で、乗客数の三分の一をこの市場に依存している。Uberは中国市場で年間10億ドルの赤字を出しているが、数年のうちに黒字化できるとの見方を示している。

General MotorsがLyftを買収か

Lyftも事業展開で大規模な赤字を出している。ベンチャーキャピタルは赤字補てんのための追加出資を嫌っているともいわれる。このためLyftは投資銀行経由でLyftを買収する企業を探している。すでに自動車メーカーなどにLyft買収の打診が行われた。Lyftは買い手を探しているのか、投資先を探しているのかは不明だが、配車サービスを続けるには大規模な資金が必要となる。General Motorsは、前述の通り、Lyftに5億ドル出資し株を10%を保有している。このため、General MotorsがLyftを買収するのではとのうわさも流れている。

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AppleはDidi Chuxingと無人タクシー開発か

Uberが注目される配車サービスであるが、上述の通り、Didi Chuxingが世界のトップを走る。Didi Chuxingは2012年に現CEOのCheng Weiらにより設立され (当初の名称はDidi Dache)、2015年に同業のKuaidi Dacheと合併し現在の形となった。400都市をカバーし、登録ドライバー数は1400万人で、一日当たりの利用回数は1100万件と言われ、中国市場を独占している。中国でDidi Chuxingが急成長している背景には、自家用車の所有台数が急速に増えていることがある。自家用車を使ったサイドビジネスが人気を集めている。

Appleは2016年5月、Didi Chuxingに10億ドル出資することを明らかにした。Appleが突然中国の配車サービス企業に出資したことで業界に衝撃が走った。様々な憶測が飛び交い、Appleはついに自動車産業に進出することを決断したともいわれている。中国でiPhone売り上げが大きく減少し、Appleは新しい事業を模索している。Appleは自動運転EVの開発を始めたといわれており、Didi Chuxingと共同で無人タクシー事業を展開する公算が深まった。

自家用車を持たなくても生活できる

UberやLyftやDidi Chuxingが配車サービス事業を大規模に展開することで、クルマを利用する形態が根本的に変わろうとしている。消費者はクルマを購入するモデルから、クルマを呼ぶモデルに変わる。実際にシリコンバレーではこの流れが始まり、若者の間ではUberを呼ぶのがクールなライフスタイルと言われている。一方、成人はUberで通勤し自家用車を所有しないライフスタイルが始まっている。Uberはこの需要に応えて通勤用のuberPOOL (乗り合いタクシー、下の写真) を始めている。低料金で通勤できることから、自家用車を持たない生活が現実になっている。

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自動車メーカーは黒子になる

自家用車を持たない生活が社会の主流になると自動車産業が激変する。消費者がクルマに乗るときは、UberやLyftなど配車サービス企業がインターフェイスになる。配車サービス企業のブランドイメージが選択の基準となり、クルマメーカーや車種は二次的な要因となる。これは航空機産業に似ている。飛行機に乗るときは、航空会社のサービスや価格を基準に利用する会社を選ぶ。飛行機の機種を基準にフライトを選択するケースは稀である。つまり、メーカーは配車サービス会社にクルマを卸す黒子に転じる。消費者に直販するケースが減り、ビジネスはB2Bが中心となる。

このためメーカーはクルマの製造だけに留まるのではなく、配車サービス事業に打ってでた。General Motorsがこの流れを象徴しており、Lyftと共同で配車サービスを始める。Toyotaは業界第一位のUberと、VWはイスラエルの配車サービス企業Gettと共同で事業を始める。今年に入りメーカーと配車サービス企業の提携が相次いでいる。

無人タクシーが走れないところをドライバーが運転する

配車サービス企業は、将来は無人タクシーが事業の中心になるとみている。ドライバーの数を減らすことで運用経費を大幅に縮小できるためである。一方、Googleによると自動運転車は運行できる範囲が限定される。どこでも走れるわけではない。最初のモデルは2019年に出荷され、自動運転車は段階的にリリースされる。クルマにとって優しい環境から製品を投入し、順次、難しい環境に拡大していくことになる。道路の観点からは、自動運転車にとってハイウェーや幹線道路の運転は比較的容易だが、市街地中心部分が一番難しい。シリコンバレーは走れるがSan Franciscoは走れないという事態も生じる。自動運転車が走行できないところを人間のドライバーが補う形で事業が始まる。ただし、ドライバーが運転するクルマは料金が高くなる。配車サービス会社は自動運転車と従来型の車両をミックスして最適のバランスで事業を展開することとなる。(下の写真はシリコンバレーで試験走行しているGoogle自動運転車。)

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トップグループにいないと生き延びれない

配車サービス会社にとって最大の差別化要因は短時間でクルマを配車することである。最小の待ち時間でクルマを配車することが、サービス品質の原点となる。現在、Uberの配車時間は数分で、将来的には30秒にすると述べている。これを実現するには利用者数に見合ったクルマの配置が必要になる。つまり特定地域で十分な台数を確保することがサービス品質を決める。特定の都市で独占的に、又はそれに近い形でサービスを提供する必要がある。このため、配車サービス市場では多くの企業が共棲できないという特性を持つ。携帯電話ネットワーク事業に似ており、市場でトップシェアを取ることがなにより重要となる。このため、配車サービス各社は赤字覚悟でシェア獲得に全力を挙げている。

配車サービスはキラーアプリ

配車サービスはITで例えるとクラウドサービスに似ている。利用者はサーバーを買う代わりにインターネットを利用する。つまり、クルマを買う代わりにインターネットでクルマを呼ぶ。IT市場がクラウドに向かているように、自動車産業は配車サービスをキラーアプリと捉え、メーカーがクルマの製造と配車サービスを手掛けようとしている。General Motorsがこの例で、クルマの販売に加えLyftで配車サービスを展開する。一方、Uberのように配車サービスに専念する企業もあり、今後、同様なモデルが登場すると思われる。先行しているGoogleに続き、Appleも中国で巻き返しを狙っている。自動車産業はインターネットブーム前夜の勢いで、無人タクシーがクルマ社会を変えようとしている。

Tesla Autopilotが重大事故を起こす、なぜクルマは止まらなかったのか

July 1st, 2016

Tesla 自動運転機能「Autopilot」で死亡事故が発生した。Teslaはハイウェーで大型トレーラーの側面に衝突した。米国メディアは自動運転車による初めての事故として大きく報道した。米国運輸当局は事故に関し予備調査を開始する。Autopilotはなぜ目の前のトレーラーを認識できなかったのか、自動運転技術の問題点を検証する。

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ハイウェー走行中の事故

Teslaは2016年6月30日、ブログで事故の詳細を公表した。ブログやメディアによると、事故は5月7日、Williston (フロリダ州) のハイウェーで起こった。Tesla Model Sは自動運転機能「Autopilot」をオンにしてハイウェー (Florida State Road 500) を走っていた (上の写真、イメージ) 。

ハイウェーは中央分離帯で車線が区切られているが、ところどころに交差点がある (下の写真、事故現場と思われる交差点をGoogle Mapsで見た様子)。日本の高速道路のように外部と完全に遮断されているわけではなく、交差点で一般道と交わる。トレーラーは交差点で左折し (地図で左から右に横切る)、Teslaは直進しその側面に衝突した。トレーラーは車高が高く、Teslaはその下を潜り抜け400メートル走って止まった。Teslaのフロントグラスがトレーラー底部にあたり、クルマの上部が大破した。

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なぜトレーラーを認識できなかったのか

Autopilotはなぜトレーラーを認識できなかったのか、Teslaはブログで説明している。これによると、Autopilotは白く塗られたトレーラーの側面を太陽がまぶしい状態で認識できなかったとしている。また、ドライバーも同じ状態で、ブレーキを踏まなかったと説明。更に、Teslaがトレーラーの前、又は後ろに面していたら、Autopilotはブレーキをかけ、大事故を防ぐことができたとしている。

これ以上の説明はないが、Autopilotを支える自動運転技術「Mobileye」はカメラでオブジェクトを認識する。Mobileyeは明るい空を背景に横長の白いトレーラーを認識できなかったことを意味する。Mobileyeは、車両の前後は認識できるが、その側面を認識する機能はまだ備わっていないともいわれている。(下の写真はTesla Model S、カメラはフロントグラス内側に設置されている。)

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なぜレーダーが機能しなかったのか

Teslaは光学カメラだけでなくレーダーも搭載している (上の写真、エンブレム下の長方形の部分)。レーダーはクルマ前方のオブジェクトを認識し、もう一つの眼として使われる。Tesla創業者のElon MuskはTwitterでレーダーについて説明している。Teslaはレーダーを搭載しており前方の車両を認識する。しかし、事故のシーンではレーダーはトレーラーを道路標識と間違って認識したと説明。

説明はこれだけで分かりにくいが、トレーラーの車高が高いため、レーダーはこれを道路を跨って設置されている道路標識と間違って認識し、ブレーキをかけなかったことになる。ハイウェーには道路標識が高い位置に設置されているケースが少なくない (下の写真)。Autopilotはレーダーに映った横長のトレーラーを高い位置に設置されている標識だと誤認識した。

レーダーは遠くにあるオブジェクトまで検知でき、更に、ドップラーの原理を応用しオブジェクトが近づいているのか、離れているのかを認識できる。これを「doppler speed signature」と呼ぶ。しかし、トレーラーが横向きになっていると、レーダーはこれを静止したオブジェクトと判断する。路上には橋や支柱や道路標識など様々な静止オブジェクトがあり、これらとトレーラーを見分けるのが難しい。Muskの説明の通り、トレーラーは高い位置に掲示された道路標識と誤認識され、Teslaは減速しなかった。カメラもレーダーも機能しなくて事故が起こった。

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ドライバーはTeslaのファン

Teslaを運転していたのはJoshua Brownという40歳の男性で、Navy Seals (海軍特殊部隊) に属していた。これは軍隊のエリート集団で社会的な評価も高い。BrownはTeslaの大ファンで、Autopilotで運転している様子をビデオで公開している。その数は40本を超え、Autopilotへの関心の高さがうかがえる。BrownはAutopilotに関して、人並み以上に深い知識を持っていたが、事故を防ぐことはできなかった。一方で、BrownはAutopilotで走行中、パソコンで映画を見ていたのではとの報道もある。最終的には警察の事故調査結果を待たなくてはならないが、Autopilotがうまく機能してきたため、その性能を過信していたのではとの見方もある。

Autopilotは運転補助機能

TeslaはAutopilotの機能は「public beta」で、製品出荷前の試験段階にあると繰り返し説明している。ドライバーがこの機能を起動するとメッセージが表示され、運転責任はドライバーにあると示される。Teslaはドライバーに運転中はステアリングを握ることを求めている。クルマはドライバーがステアリングを握っていることをチェックする機能があり、手放しで運転すると警告メッセージが表示される。

一方、TeslaはAutopilot導入当初は手放しで運転できることを売りにしていた。運転の全責任はドライバーにあるものの、ステアリングを握ることは求めていなかった。(下の写真は筆者がTesla Autopilotを運転している様子。その当時、ハンズフリーがAutopilotのキャッチフレーズであった。) また、Autopilotは運転を補助する機能であるが、この名称は自動運転機能を連想させ、市場にメッセージが正しく伝わっていないのも事実。更に、安全が第一のクルマで、Autopilotは製品ではなくベータと言われて戸惑う人も少なくない。

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米国運輸当局が予備調査を始める

Teslaは規定に従ってこの事故を米国運輸当局NHTSA (National Highway Traffic Safety Administration) に報告した。NHTSAはこの事故に関連し、Autopilot性能やTeslaの開発プロセスなどについて予備調査を始める。事故の原因は車両の設計に問題があるのか、又は、Autopilotが設計通り機能しなかったのかなどを調査する。自動運転補助機能による初めての死亡事故で、 NHTSAの調査結果は他の自動運転車開発に影響を及ぼす可能性を含んでいる。

今までにも事故は起きていた

実は、Tesla Autopilotの事故は今回が初めてではない。ハイウェー走行中にTeslaが路肩に停止していたバンに追突する事故があった。Autopilotで前のクルマに追随して走っていたとき、路肩に止まっているバンを避けるため、前のクルマが右にハンドルを切りすり抜けた。しかし、Autopilotは停止しているバンを認識できず追突した。ただ、渋滞のため低速で走行していたのでけが人などはいなかった。

TeslaはこれをAutopilotの制限事項としてマニュアルに記載し注意を促している。具体的には、前のクルマが車線を変え、そこに車両が止まっていると、Autopilotはこれを認識できないこともあると警告している。まさに上述のケースがこれにあたる。また高速 (時速50マイル以上) で走行しているとき、前方に車両が停止していても、Teslaはブレーキをかけないこともあるとしている。重大な制限事項であるが、これを認識しているドライバーは多くはない。また、これ以外に事故は報告されてなく、ほとんどのケースでAutopilotは正常に動作していることもうかがえる。

Teslaは車両運行データを収集

Teslaの特徴はコネクティッドカーで、車両がインターネットに接続され、運行データが収集される仕組みになっている。今回の事故に関する運行データはTeslaが収集しており、問題の特定などに活用されていると思われる。

これに先立ち、Teslaは車両のデータを収集していることを明らかにした。Tesla車両が事故を起こした際、ドライバーはクルマが急加速したためとし、過失はクルマにあると主張した。これに対してTeslaは、運行データを解析した結果、クルマは低速 (時速6マイル) で走行しているとき、アクセルが踏まれ、出力が100%になったと報告した。収集したデータを解析することで、事故の原因を科学的に解明できることが示された。これからは事故の原因を不当にクルマのせいにすることができなくなった。同時に、クルマの誤作動も克明に分かることになる。

運行データを自動運転車開発に生かす

Teslaが運行データをモニターするのは新しいビジネスにつなげるためとされる。保険会社と提携してドライバーの運転スタイルにあった自動車保険を提案することなどが計画されている。また、収集したデータを自動運転車の開発に利用する。Tesla車両が数多く走っており、走行データを大量に収集できる。豊富な運行データを解析することで走行挙動が分かり、自動運転技術開発で大きなアドバンテージとなる。

市場ではデータが収集されることに懸念の声も聞かれる。ドライバーの了解なく運行データを収集することはプライバシー損害であるとの意見もある。ただ、ドライバーが走行データをモニターされていることを認識すると、事故率が大幅に下がるという統計データもある。プライバシー保護を考慮しながら、車両の安全性を向上する運用が求められる。

米国社会は寛容な態度

Teslaをテストドライブしたとき一番戸惑ったのが、どこでAutopilotを使えるかという点だ。TeslaはAutopilotを使えるのはハイウェーだけで、一般道では使用を禁止している。しかし、実際に道路を走るとこの区分けは分かりにくい。ハイウェーでも郊外では一般道との交差点が現れる。これが今回の事故原因の一つで、ハイウェーと言っても一般道との境はあいまいだ。Autopilotがハイウェーを横切るトラフィックに対応できていない点が事故原因の主要な部分を占める。

自動運転車が重大事故を起こすと、住民から開発に対し反対運動がおこると懸念されていた。一度の事故で数年間は開発が停滞するともいわれていた。しかし、今回の事故に対し米国社会は寛容な目で見ていることが分かってきた。Autopilotへの信頼感は低下したものの、自動運転車開発に対してNoという声は上がっていない。チャレンジに対してそれを応援するアメリカの国民性が背後にあるように感じる。

IBMが自動運転車事業に参入、Watsonが無人小型バスの”車掌”になる

June 25th, 2016

IBMは知的コンピュータWatsonで自動運転車市場に参入した。IBMが自動運転技術そのものを開発するのではなく、乗客とクルマのインターフェイスを司る。IBMは自動運転車の課題は運転技術そのものではなく、搭乗者のユーザーエクスペリエンスであると指摘する。IBMの自動運転車事業へのアプローチを分析する。

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自動運転小型バス

IBMはハイテク自動車メーカー「Local Motors」と共同で自動運転車「Olli」を開発した (上の写真)。Olliは小型バスで車体はLocal Motorsが3Dプリント技法で製造した。Olliは遊園地の乗り物を思わせる可愛い形状で12人を収容する。バッテリーで稼働し、走行距離は58キロメートル。Olliは屋根の前と後ろにLidar (レーザー光センサー) を、また、前方にカメラを搭載する。これらセンサーの情報を元に自律走行する。更に、Olliは車内に設置したカメラやマイクで搭乗者を把握し、乗客とコミュニケーションを取る。(下の写真はOlli車内の様子。)

Watsonと搭乗者が会話

IBMはWatsonのCognitive Computing (データから意味を把握する技法) を自動運転車に適用する。WatsonはOlliに搭載しているセンサーが収集する大量のデータを解析して乗客と会話する。IBMはこれをビデオで公開し、Local Motors創設者John RogersがOlli車内でWatsonと会話する様子を示した。

Watsonが観光案内

Rogersが挨拶すると、Watsonはそれに応じて挨拶を交わす。Watsonのテレビコマーシャルで登場する男性の声で、聴きなれた声で会話が進む。Watsonは社内に設置されたカメラでRogersを認識する。Rogersがお腹がすいたので食事したいと話すと、Watsonはここはシーフードが美味しいと説明し、Crab Cake Caféというレストランを推奨した。Rogersがそのレストランに行くと告げると、Watsonは今夜は雷雨の予報で傘を持っていくよう注意を促した。Watsonは観光タクシーの運転手のように、街の観光スポットや人気レストランを教えてくれる。

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WatsonはOlliの運行状況についても説明する。乗客がOlliはどうして自動で走れるのかと質問すると、Watsonはその仕組みを説明する。また、Olliが一時停止したとき、乗客がなぜここで止まるのかと聞くと、Watsonはその理由 (例えば歩行者が横断歩道を横切ろうとしているなど) を答える。乗客は管理者が搭乗していない無人バスで、問題なく走っているのかが気になるが、Watsonと会話することで不安が取り除かれる。安心感が格段に向上する。

地方自治体での試験が始まる

2016年の夏からNational Harbor市 (メリーランド州) で数か月にわたりOlliの試験走行が始まる。ここでOlliの機能や利用者の反応などが評価される。その後年末までに30台のOlliが投入され、生活の足として利用される。Olliは観光スポットを結ぶだけでなく、住民が買い物や通勤でOlliを利用する。Local Motorsの名前が示すように、Olliは地域住民の交通網となりエコシステムを構成する。この他に、Miami-Dade County郡 (マイアミ州) は複数台のOlliを導入し、評価を始める。Las Vegas市 (ネバダ州) も導入を計画している。海外では、2016年末までにCopenhagen (デンマーク) に導入される。

各地で試験運行が始まるが、Olliの運用形態は大きく二つに分類される。一つは無人の路線バスで、定められたルートを運行する (下の写真、イメージ)。これは上述のNational Harborのケースで、無人乗り合いバスとして利用される。もう一つは無人タクシーでオンデマンドで利用する。配車サービスUberのように、無人バスを呼び目的地まで移動する。両方式ともスマホ専用アプリでOlliを利用する。またOlliをチャーターする方式も検討されている。貸し切りバスのように、企業や個人がOlliを借り切り、移動式会議室や走るカフェなどの構想も浮かんでいる。

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Watsonが会話する仕組み

OlliはIBM Watsonの四つのAPIを使って乗客と会話する。これらはSpeech to Text (音声認識)、Natural Language Classifier (言葉の意図を抽出)、Entity Extraction (言葉に含まれる情報を抽出)、Text to Speech (音声に変換) で、一連の自然言語解析機能をクラウドで提供する。Olliはこれらの機能を使い乗客と本格的な会話をする。

一連の技術は「Watson Internet of Things」として提供される。Olliには30を超えるセンサーが搭載され、運行に関するデータと乗客に関するデータが収集される。これをリアルタイムで解析し、Watsonが運行状況を把握し、乗客の質問に答える。これにより、Watsonは何処に向かっているのか、また、なぜこのような運転をするのかを説明できる。IBMはこのシステムを自動運転車を構成要素とするIoTとして位置づける。クルマの走行データをWatsonでリアルタイムに解析し、学習を重ねシステムがインテリジェントになっていく。

Dプリントの手法で製造

Olliのもう一つの特徴は車体が3Dプリントの手法で製造されていることだ。車両の組み立てに要する時間は11時間と言われ、短時間でOlliを製造できる。IBMとの共同開発で、Olliの計画段階から試験運転までに要した期間は三か月としている。高速に製造できることに加え、Olliの車体構成を柔軟に変更できる。この手法は「open vehicle development process」と言われ、利用形態に応じセンサーを追加または削減することで、利用ニーズにあった車体を提供する。

この背後にはLocal Motorsの3Dプリント技術を使った車両製造技術がある。この技術は「LM3D」と呼ばれ、車体パネルとシャシを3Dプリントの技法で製造する。素材はABSプラスチックとカーボンファイバーの組み合わせで、法令で定められた強度を持つクルマを製造できる。Local Motorsは新世代の自動車メーカーでスマートで環境に優しいクルマを製造する。(下の写真はLocal Motorsの展示室に設置されている3Dプリント装置。)

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搭乗者のユーザーエクスペリエンス

IBMは自動運転車の最大の課題は搭乗者のユーザーエクスペリエンスであると指摘する。ヒトと自動運転車のインターフェイスが問われている。搭乗者とクルマが会話できることで、初めて自動運転車が完成し社会に溶け込むことができる。これを可能にするのがWatsonの技術で、クルマからストリーミングされるデータを解析し、学習し、知見を引き出し、乗客と会話する。

クルマのインターフェイスといえばAppleのCarPlayやGoogleのAndroid Autoが普及している。一方、自動運転車ではクルマが人間のように、音声で会話する機能が求められる。自動車メーカーは自動運転技術の開発は得意とするが、会話型インターフェイスの開発は大きな障壁となる。会話型インターフェイスは高度なAI技術が必要で、ベンチャー企業を中心に開発が進んでいる。IBMはこの需要に着眼しWatson IoTで会話型インターフェイスを提供し、自動車メーカーがこれを採用することを狙っている。

Teslaに挑戦する自動運転車ベンチャー、AIが人間の運転を見てドライブ技術を学ぶ

June 18th, 2016

今年末までに1000ドルで自動運転キットを販売する。型破りなベンチャー企業が登場した。このキットを搭載すると、普通のクルマが自動運転車になる。開発している技術も革新的で、AIがドライバーの運転スタイルを見るだけで運転技術を学ぶ。Las Vegasで自動運転車の試験走行が公開されたが、波乱含みの展開となった。

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Commaというベンチャー企業

これはSan Franciscoに拠点を置く「Comma」というベンチャー企業で、AIを駆使した自動運転キットを開発している (上の写真はComma試験車両)。(第一報は「Googleに挑戦する自動運転ベンチャー、自動車業界の”Apple”が生まれるか」でレポート。) このキットをクルマに搭載すると、普通のクルマが自動運転車になる。高価なTeslaを買わなくても自分のクルマで自動運転を楽しめる。創業者George Hotzは26歳の青年で、Apple iOSをハッキングしたことで有名になった。CommaはLas Vegasを拠点に試験走行を繰り返している。ネバダ州で試験するのは、カリフォルニア州が完全自動運転車の試験走行を認めていないためである。Commaはこの範疇には入らないが、カリフォルニア州政府から試験走行を中止するよう命令を受け、Hotzは不承不承これに従った。

Las Vegasで試験走行

Las Vegasでの試験走行は主要メディアが報道した。Commaはハイウェーだけでなく幹線道路も走ることができる。Hotzが運転席に座り、市街地での自動走行を披露した。自動運転モードに切り替えるとチャイムが鳴り、Commaはレーンの中央をキープし、前の車両に追随して走る。赤信号で停止している車両に近づくと、Commaは徐々に減速しうまく停止した。ただ、Commaはベータ版であり、Hotzはいつでも運転を代われるよう、両手をステアリング近くに構えていた。信号が青に変わり、前方の車両が発進すると、Commaもそれに合わせてスムーズに発進した。

交差点でクルマが止まらないことも

しかし、危ないシーンがあった。信号で停車しているクルマに接近するが、Commaは減速を始める様子はなく、Hotzがハンドルを握りブレーキを踏んで停止した。この事態が生じることを予想していたとはいえ、緊迫したシーンとなった。Hotzによると、Commaが車両の後ろをついて走るのは容易だが、路上で停車しているクルマを認識するのは難しいとしている。Commaはレーダーで前方の車両を捉えるが、停車している車両と路面との区別が難しいためである。開発途上で自動運転車の技量をデモをするのは極めて異例なことである。安全性が求められる自動車開発で、問題点を公表するのは大きなリスクでもある。Commaの型破りな開発手法を表す出来事となった。

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クルマが高速に学習する

Commaが高速に学習できる機能も示された。Las Vegasの道路は車線をペイントする代わりに丸鋲が打ち込まれている (上の写真)。CommaはSan Franciscoの道路で試験走行を重ねてきたが、そこでは白線がペイントされている。Commaは車線の境目は白線だと認識しており、Las Vegasではうまく走れない。そこで、HotzはLas Vegasに到着してすぐに、Commaに丸鋲が車線であることを教育した。丸鋲が埋め込まれている道路を数日間走り、Commaはこれが車線であることを学習した。人間のドライバーが異なる道路状態を柔軟に把握できるように、Commaも路面を見て車線を判断する。例えば、車線が消えている道路でも、路面の窪みや色の違いなどをなどを手掛かりに、車線を認識する。Commaは人間が車線を判定する手法を学び、車線がなくても運転できるようになる。

クルマは道路標識を認識できない

一方、開発中のCommaにはできないことが沢山ある。Commaは信号機を認識することができない。また、交差点の一時停止標識を認識できない。同様に、速度制限標識など道路に表示されている標識を認識できない。このため自動運転時にはドライバーが走行速度を設定する。Hotzによるとクルマが道路標識を認識する行為はルールベースの処理で、これらを実装することは容易いとしている。また、Commaは自動で車線変更する機能も備えていない。これに対しCommaのAIは運転の直感的な部分を担い、開発はこの部分に集中している。Hotzによると、Commaは6歳児に相当し、クルマは衝突するのは悪いことだと認識するが、まだ、信号機に従って左折するなどのルールは理解できていないとしている。

Comma = Dropcam + Fitbit

HotzはCommaの自動運転技術を「Dropcam + Fitbit」と説明する。DropcamはNest社が開発したセキュリティーカメラで、屋内外のイメージを撮影する。FitbitはFitbit社が開発したリストバンドで、加速度計で運動量を計測する。つまり、Commaはカメラと加速度計を使い、ドライバーの運転テクニックを学習する。自動運転技術開発にはクルマの走行データが欠かせない。しかし、Commaは2015年9月に設立したばかりの若い会社で、試験車両は一台しかない (先頭の写真)。Commaにとって運転データの収集が最大のネックとなっている。そこで、Commaは走行データ収集アプリ「Chffr」を開発した。

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アプリで運転データを収集する

このアプリを一般に配布し利用者の運転データを収集する。Chffrを搭載したスマートフォンをフロントグラス内側に装着し、ドライバーの運転テクニックをモニターする。アプリはスマホカメラで前方のイメージを撮影し、センサーで加速度を測定し、クルマの動きを把握する。収集したデータを使い機械学習の手法でシステムを教育する。これによりクルマは人間のように運転する技術を習得する。利用者としては、アプリで運転データを提供することで、それに応じたポイントを得る。正式な発表は無いが、利用者は獲得したポイントを特典に還元できる。Chffrベータ版は既にリリースされ、100時間分のデータをログした。正式版は2016年6月に一般に公開される。(上の写真:クルマとのインタフェイスは大型タブレット、Hotzは自身のクルマにもこれを搭載している。)

人間をコピーしたDriving Agentを開発

CommaはChffrが捉えた前方イメージと加速度で運転スタイルを把握する。交差点で前に止まっている車両に対し、ドライバーはどの位のレートで減速するのかを学習する。また、カーブを曲がるときは、どのくらいのレートで速度を落とすかを学習する。Chffrが収集したデータを使い、クルマが人間のように運転するDriving Agentを開発する。Commaは2018年末までに10億マイルのデータを収集することを目標としている。

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Hotz (上の写真) は人間のように自然な流れで運転する自動運転車を開発する。コンピュータ制御のAutopilotとは異なり、人間をコピーしたDriving Agentを開発する。全米各地の運転データを収集すれば、それぞれの地域に独特な運転スタイルを学ぶことができる。最大のメリットは、詳細マップを制作する必要がなくなること。GoogleやHEREが詳細マップ制作でしのぎを削っているが、Commaは人間のように詳細マップ無しで運転できる。

クラウドソーシングでAIを開発

一方、大衆から運転データを収集する「クラウドソーシング」でAIを開発する手法の是非が議論されている。アプリ利用者は模範的なドライバーだけとは限らない。危険なドライバーの運転データも収集される。タイヤをきしませながらコーナーを抜けるドライビングテクニックをAIが模倣する可能性もある。これに対してHotzは、模範的なドライバーの運転テクニックは画一的であるが、危険なドライバーのスタイルは多様であるとしている。つまり、統計的に処理することで、危険ドライバーのデータが除かれるとの見解を示している。

光学カメラとレーダーだけで自動運転

Commaは非常にシンプルなシステム構成となっている。光学カメラとレーダーだけで自動運転を実現する。光学カメラはフロントグラス内側に搭載される。カメラがクルマの眼となり外部のイメージを捉える。カメラはこれ一台で、人間のドライバーと同じように、前方のイメージだけを見る。Lidarや超音波センサーは搭載していない。

最終製品でLidarを使わないものの、試験走行では周囲のオブジェクトを3Dで認識するためにLidarを搭載する (先頭の写真はLidarを搭載した試験車両)。カメラでとらえたイメージをLidarの3Dイメージと比較して、AIがオブジェクトを正しく認識していることを確認する。Lidarがイメージ認識の先生となり、AIがカメラだけでイメージを認識できるように教育する。

レーダーはフロントグリルに搭載される。レーダーは前方のオブジェクトを把握するために使われる。カメラがクルマ直前のイメージを捉えるのに対し、レーダーは遠距離まで測定できる。トランクの上にはLTEアンテナとGPS受信機を搭載し、トランク内部には処理装置が置かれている。

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Tesla Autopilotの対抗製品

Hotzは2016年末までに製品を出荷するとしている。価格は1000ドルとなる。製品形態は未定であるが、プロセッサー類はパン一斤程度の形状にまとめられる。この自動運転キットを消費者がクルマに搭載するが、設置作業はそれほど難しくはないとしている。自動運転キットはドライバーの運転をアシストする機能で、Tesla Autopilotと同じコンセプトとなる。Googleのような完全自動運転ではなく、運転の責任は全てドライバーにある。

Tesla Autopilotに類似した機能であるが、Commaの狙いは市街地での自動運転だ。Tesla Autopilotはハイウェーでしか使えないが、Commaは市街地を含む主要道路での自動運転機能を使うことができる。Commaは通勤時の自動運転が一番需要が高いとみており、この市場をターゲットに製品を開発する。クルマの運転が好きな人でも渋滞した道路を運転して通勤するのは苦痛である。(上の写真はSan Francisco地区の通勤ラッシュ)

Commaのビジネスモデルは流動的で最終形態は今の段階では予測できない。Commaが製品を直接エンドユーザに供給するのか、それとも自動車メーカーに供給するのかなど、販売チャネルは決まっていない。Commaに先立ち自動運転キットを開発するベンチャー企業「Cruise Automation」はGMに10億ドルという破格の金額で買収された。Commaも自動車メーカーに買収されることになるのか、今後の展開は予断を許さない。

ベンチャーとハッキングのはざま

自動運転ベンチャーが数多く登場しているが、Commaは異質の存在で、これらとは同列に議論できない。Hotzは天才ハッカーでその手腕は高く評価されている。一方で、信頼性が求められる自動車会社の経営者の資質とは相いれないものがある。安全であるべき自動運転車デモで、危険と隣り合わせの試験走行を公開する精神は他のベンチャーとは異質のものである。全てが型破りな技術開発である。

同時に、Hotzは技術に自信があり、問題解決は時間の問題であるとの姿勢も感じられる。Hotzが短期間で自動運転技術をこのレベルまで完成させたことは高く評価されている。人間のように運転するDriving Agentに対しても期待が高まっている。大手ベンチャーキャピタルAndreessen Horowitzはシード段階で310万ドル出資し、Hotzの将来性に賭けている。GoogleやTeslaを凌駕する自動運転車が登場するのか、異色のベンチャー企業が開発を加速している。