Google自動車最新モデルがデビュー、シリコンバレー市街地を試験走行

May 21st, 2015

Googleは一年前、自動運転車の最新モデル「Prototype」を公開した。Googleは今月、Prototypeをシリコンバレーの公道で試験する計画を表明。Prototypeの安全性を確認するだけでなく、地域住民が自動運転車に対しどう反応するかも検証する。更に、自動運転車を公共交通のインフラとして利用する方式も検討する。Prototypeが最終製品の形で、自動運転車の開発は大詰めを迎えた。

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Prototypeを公道で試験

Prototypeは軽自動車を半円形にした車体に自動運転技術を搭載している (上の写真) 。二人乗りで、車内にはハンドル、アクセル、ブレーキペダルは無い。完全自動運転ができるデザインで、搭乗者はスタートボタンを押すだけでクルマが走り出す。GoogleはPrototypeをシリコンバレーのMountain Viewで試験する。試験中は無人で走行する訳ではなく、二人のドライバーが搭乗する。問題が発生するとドライバーがクルマを制御する。試験用車両は、ハンドル、アクセル、ブレーキを設置している。これらはカリフォルニア州の道路交通法により義務付けられている。更に、最高速度は時速25マイル (時速40キロ) に抑えられている。

試験の目的は住民の反応を理解すること

Prototypeを市街地で試験する目的は、地域住民が自動運転車にどう反応するかを検証すること。米国社会では自動運転車を歓迎する機運が高まっているが、同時に無人のクルマが街中を走行することに対する懸念も示されている。横断歩道を渡る時、自動運転車はちゃんと停止するのか、不安の声も聞かれる。Prototypeが地域社会に受け入れられるのかが最大の課題となる。

技術的には自動運転車に特有な問題を見つけることを目指している。例えば、目的地まで走行したらその場所が工事中であった場合、どこに停車すべきなどを検証する。タクシーだとドライバーが乗客と言葉を交わし、便利な場所に停める。搭乗者はPrototypeに降車場所をどう指示するのか、ヒトとクルマのインターフェイスが重要な研究テーマとなる。

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最新モデルをビデオで公開

GoogleはPrototype走行試験の模様をYouTubeで公開した。また米国の大手メディアはこぞってPrototypeについて報道した。これらを統合すると、多くのことが読み取れる。Prototype車内はシンプルで、座席の間に水色のパネルが設置されている (上の写真)。パネルがダッシュボードとなり、ここにスタートボタンが設置されている。奥には緊急停止ボタンが設置されている。その他に、ウインド開閉ボタン、ドアロック、シートウォーマーボタンが設置されている。水色と若葉色の二色のカラーコーディネートが新鮮なイメージを出している。

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屋根の上には回転灯のようなカプセルがあり、ここにLIDAR (レーザー光センサー) を格納している。LIDARはクルマの周囲360度のオブジェクトを高精度で捉える。車体正面の”鼻”の部分にレーダーを搭載している。Prototypeはカメラを搭載し、オブジェクトの形や色を検出する。信号機の色やオレンジ色の道路コーンなどを把握する。上の写真は道路コーンで囲まれたレーンを高速走っている様子で、カメラで捉えたイメージを高速で処理し、正しく認識していることを示している。

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外部企業に製造委託

PrototypeはGoogleが設計し製造する。実際には、Roushという会社に製造を委託している。RoushはLivonia (ミシガン州) に拠点を置く企業で、エンジニアリング・サービスを提供する。自動車の設計やプロトタイプの製造を手掛ける。PrototypeはRoushのデトロイト工場で製造されている。上の写真は製造ラインでPrototypeが組み立てられる様子を示している。パワートレインなど主要部品はBoschから供給を受けている。更に、ブレーキ、タイヤ、インテリアなどの設計は、Continentalから支援を受けている。Googleは今年末までに100台のPrototypeを生産する予定である。

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空軍基地で試験を重ねる

Prototypeは昨年から、使われなくなった空軍基地で試験を重ねてきた。基地には軍施設があり、小さな町となっている。ここで路上で起こる様々な障害を再現し、Prototypeの機能を検証してきた。路上では稀にしか起こらない障害でも、試験場では何回も再現できる。特に、歩行者や自転車への対応が重点的に試験された。歩行者が飛び出してきたときや、自転車が反対車線を走行しているときなど、Prototypeは事故を回避できるかが検証された。

歩行者は傘をさしたり、バランスボールを抱えたり、ヒトとは分かりにくい恰好でクルマの前を横断する (上の写真)。Prototypeはそれらを正しく歩行者と認識できるかも試験された。PrototypeはMachine Learningの手法で学習しており、考えられる全てのケースを示し、教育する必要がある。

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リアルとバーチャルの試験

自転車がクルマの前に飛び出すのは、1000マイル (1600キロメートル) 走るごとに一回起こると言われている。試験場ではこれを再現し、1週間に100回の試験を実施。また、Prototypeをシミュレーションし、仮想で試験する手法も取られた。これらを合計すると、1週間に1万マイル走行分に相当する試験が可能となった。Googleは路上ではLexusベースの自動運転車で学習を続け (上の写真)、試験場では障害を再現しPrototypeで繰り返し試験する。路上や試験場で学習したことは、自動運転ソフトウェアに反映される。改良されたソフトウェアは、PrototypeやLexusにダウンロードされ、Google自動運転車全体が成長する。

自動運転車のビジネスモデルは

Googleは来年から新しい検証プロジェクトを始める。Prototypeをどんな用途に活用できるのか、その応用分野を探る。Googleは自動運転車を無人タクシーとして利用すると噂されている。タクシー会社が自動運転車を運行し、事業を展開する方式である。更に、自動運転車で都市交通のインフラを整備する計画もある。地方政府がバスを運行する代わりに、多数の自動運転車を運行する方法である。バスが乗客を乗せて定められた路線を走る代わりに、利用者は通りを走っている自動運転車を呼び、目的地まで移動する。今はタクシー料金は路線バスより割高であるが、自動運転車になるとこれが逆転するのかもしれない。交通インフラの概念が大きく変わりそうだ。

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GoogleはPrototypeを試験するMountain Viewで、無料バス「Community Shuttle」の運行を始めた (上の写真) 。誰でも無料でバスを利用できる。Googleは地域住民へのサービスと説明し、実際に多くの人が利用している。Googleは既に、路線バスを無人運転車で置き換えるアイディアを描いているのかもしれない。このモデルに備えて、Googleは都市交通の検証を始めたとも解釈できる。Prototype利用方法の検証は来年から始まる。

米国防省のドローン自律航行技術開発が始まる、Google自動運転車の再来!?

May 14th, 2015

Google自動運転車の基礎技術は、DARPA (米国国防高等研究計画局) の研究プロジェクトで誕生した。同じことがドローンで起ころうとしている。DARPAはドローン自動航行技術開発に着手し、軍事ミッションで展開する。軍事技術は早晩、民間企業の製品に展開される。

NASA (米国航空宇宙局) はこの事態を想定し、膨大な数のドローンが飛び交う空域を、航空管制する技術を開発している。更に、FAA (米国連邦航空局) は、商用ドローン運行に消極的だったが、一転して、大幅な規制緩和に舵を切った。米国政府が一丸となって、ドローン技術開発に本腰を入れてきた。米国のドローン技術が一気に加速する勢いだ。

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複数のドローンを自律的に飛行させる計画

今年1月、DARPAは複数のドローンを自律的に飛行させる研究に着手した。(米国政府は無人航空機をUnmanned Aerial Vehicle: UAVと呼ぶが、ここではドローンと表記する。) このプロジェクトは共同自律飛行 (Collaborative Autonomy) を目指し、ドローンは高度な自律飛行能力を持ち、他のドローンと連携してミッションを展開する(上の写真)。

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地上では一人のオペレーターが複数のドローンを操作し、諜報活動や軍事攻撃を遂行する。これが画期的な技術であるのは、現行オペレーションと比較すると一目瞭然だ。現在、ドローンは、専任オペレーター (機体操縦担当) とセンサー・オペレーター (カメラなどのセンサー操作担当) がドローンを操作し (上の写真)、多数のアナリストが状況を判断する。このため、多数のドローンを展開することができず、また、流動的に変化する戦況に追随できないという問題がある。

オオカミの群れが共同で獲物を狙う

このプロジェクトは「Collaborative Operations in Denied Environment (CODE) 」と呼ばれ、現行ドローンのソフトウェアやアルゴリズムを改良することで実現する。ドローンは機体の状況や戦況をリアルタイムにモニターし、基地の司令官に次に取るべきアクションを推奨する。司令官はこれを承認・否認するか、または、継続してデータを収集するよう指示できる。共同自律飛行することで、一人のオペレーターが六機以上のドローンを操作する。また、異なる機種のドローンを組み合わせ、共同でミッションを完遂する。オオカミの群れが共同で獲物を狙う作戦を模している。

民間企業との共同研究

プロジェクトではDARPAが選定した企業と共同で開発を進めていく。DARPAはプロジェクト概要を公開し、参加企業を募っている。CODEは軍事目的の技術開発で、DARPAの指揮の元、民間企業が開発することになる。DARPAの開発成果は、多くの場合、民生用に展開されてきた。このケースでも、民間企業がCODEをベースとしたドローンを開発することが予想される。

これはGoogle自動運転車誕生の経緯とよく似ている。DARPAはGulf War (湾岸戦争) を契機に、自動走行するトラックの開発に着手した。トラックで物資を輸送中に、敵の攻撃を受けても、死傷者を出さないためである。この研究をコンペティション形式で実施したのが「DARPA Grand Challenge」で、スタンフォード大学「Stanford Racing」が優勝した。Googleが総責任者Sebastian Thrunとともにチームを買収し、これが現在のGoogle自動運転車につながっている。CODEは”空の自動運転技術”とも解釈でき、高度なドローン自動航行技術の種が蒔かれたことになる。

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ドローン商用運行のヒント

CODEは商用ドローン運行について、多くのヒントを示している。Eコマース配送を目指している「Amazon Prime Air」 (上の写真) は、30分以内で商品を届けるとしている。しかし、一人のオペレーターが一台のドローンを操縦するのでは、大規模な展開は難しい。大量の商品を配送するには、数多くのドローンが必要となり、オペレーターは複数機を操縦することが求められる。また、ドローンで道路や鉄道などのインフラを点検する際も同じである。数百キロメートルを超える範囲を、数多くのドローンで点検する運用方式が求められる。つまり、商用ベースで運用するには、ドローンに高度な自律航行技術や状況判断能力が求められる。CODEで開発されたソフトウェア (詳細は公開されていないが人工知能か) がカギを握ることになる。

NASAは航空管制技術の開発を開始

目の前に低い空域を無数のインテリジェントなドローンが飛行する社会が迫っている。NASAはドローン社会に備え、航空管制技術の開発に乗り出した。カンファレンス「Drones, Data X Conference」で、NASA自律運行プロジェクト「Safe Autonomous System Operations Project」責任者Parimal Kopardekarが、ドローン管制システムの概要を説明した。このシステムは「Unmanned Aerial System Traffic Management (UTM)」 と呼ばれ、低空空域 (2000フィート以下) を有効に活用する研究で、その概要とロードマップが示された。米国においては、ドローンが飛行する低空空域では飛行ルールはなく、ゼロからの開発となる。

商用ドローンを運用するためのインフラ

UTMは商用ドローンを運用するためのインフラとなる。UTMはクラウドベースのアーキテクチャで、ドローンはネットワークに接続され、システムと交信する。交信方式については複数のオプションが示されたが、携帯電話ネットワークを利用する方式の評価が始まっている。ドローンを管制するメカニズムについても説明があった。UTMは、ドローンが航行できる領域を定義し (Geo-Fencing)、ここに道路に相当する空路を設ける。UTMは、ドローンオペレーターに対し、天気情報や強風注意報などを提供する。(ドローンは激しい雨の中や、強い風の中で運行できない。) また、空路上のドローン混雑状況を予測しその対策を取る。具体的には、ドローンが接近しすぎた場合は、間隔を広げるなどの措置を講じる。

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ドローン管制ロードマップ

UTMは四段階に分けて開発される (上の写真)。各モジュールはBuildと呼ばれ、Build 1からBuild 4まで開発される。Build 1は航空管制基礎機能で、上述の空域や航路を設定をする。悪天候では航路を閉鎖するなどの機能もある。運行スケジュール管理 (オペレーターは飛行計画を提出) やドローンの運行間隔調整 (上述) なども実装する。今年の夏にシステムをデモする計画だ。Build 4は上記に加え、ドローン監視や緊急事態対応 (墜落の際の回収計画など) などの機能を搭載し、2019年3月にデモすることを目指している。NASAはUTM開発を民間企業と共同で行い、希望する団体はプロジェクトに参加できる。現在、100以上の企業や大学が参加を表明しており、カンファレンスでは、Kopardekarがプロジェクトへの参加を呼びかけた。

FAAはドローン商用運用を積極的にサポート

FAAは一転して、ドローン商用運用を積極的にサポートする方向に進み始めた。今年5月、FAAはドローン商用運行ルールを策定するため、民間企業と共同プロジェクトを開始。これは「Pathfinder」と呼ばれ、CNN、PrecisionHawk、BNSF Railwayの三社と、ドローンを安全に商用運行する方式を検証する。CNNは市街地で、ドローンで安全にニュースビデオを撮影できるかを検証する。これは、オペレーターがドローンを見ながら操縦するモデルである。

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PrecisionHawkはドローン製造企業で、農業を中心にデータ収集と解析を行う (上の写真)。プロジェクトでは、農場の作物生育状況をドローンで観測する。このケースでは、ドローンはオペレーターの視野を離れ、自律的に飛行する。BNSF Railroadは北米第二位の鉄道貨物ネットワークで、ドローンを使って、鉄道施設の検査を行う。施設は広範囲に及び、ドローンはオペレータの視野を離れて飛行する。FAAはこれら三社を手始めに、商用ドローンの安全性を検証し、制定中の運用ルールに盛り込む計画だ。

商用ドローン運用に向けた法整備が進む

カンファレンスではFAA UAS Integration Office責任者Jim Williamsが、ドローン商用運行法制化について報告した。FAAは今年初頭に、ドローン商用運行に関する草案を公開し、パブリックコメントを募集。4000件以上の意見が集まったとされる。また、FAAは全米六か所にドローン試験サイトを開設し、運行試験を展開している。更に、FAAはドローンの商用運行を個別に審査し、特例措置 (「Section 333」と呼ばれる) として認めている。Williamsは、民間企業のSection 333に対する関心が極めて高く、1000件以上の申請を受領したとしている。この特例措置は昨年9月から始まったが、3月から審査プロセスを簡素化し、認可件数が急増している。

FAAが公開した草案では、オペレータはドローンを見ながら操作することが義務付けられている。長距離輸送など商用運行では、この条項が大きな障害となっていた。WilliamsはFAAはこの条項を緩和する方向で検討していることを明らかにした。カメラなどのセンサー技術が進んでおり、ドローンが安全に運航できることを確認すると、この条項を廃止するとしている。法令が制定されるまでに二年程度かかるとされているが、FAAがドローン商用運行に積極的な方向で進み始めた。

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ドローン商用運行については寛大な意見

米国ではドローンがホワイトハウスに墜落する事件をきっかけに、セキュリティーやプライバシーの議論が高まっている。先月はニューヨークで、ビルボードにドローンで赤色のスプレイを吹きかける事件が発生 (上の写真、顔の部分の横線など)。これに先立ち、旅客機とのニアミスや国立公園での墜落事故など、ドローンが社会問題となっている。米国では、個人が運用するドローンの規制を強化すべきとの意見が高まっている。

その一方で、ドローンの商用運行については、寛大な意見が多い。国民は米国がドローン製品で中国に先行されていることを理解し始めた。また、カナダやオーストラリアで、ドローンビジネスが重要な産業に育っていることも伝わり、米国が世界に取り残されているという危機感が広まっている。国防省やNASAを中心に、ドローン技術開発が積極的に進み始めた。連邦議会の圧力やドローン開発企業のロビー活動で、FAAは規制緩和に向かっている。米国政府がドローンのインキュベーターとしての役割を担いつつ、民間企業が商用化のチャンスを狙っている。国民の支持を背景に、ドローン技術開発が一気に加速しそうな勢いだ。

空の”自動運転車”「Matternet ONE」、Amazonより一足早くドローン配送を開始

May 7th, 2015

ベンチャー企業「Matternet」がドローンを使った配送システムで覇権を狙っている。同社は既に新興国で、ドローン空輸ネットワークを展開し、実績を積んでいる。このシステムを米国や欧州など先進国で展開する。Matternetが開発したドローンは、自律飛行し目的地まで荷物を運ぶ。Amazonより一足先に、消費者に商品を空輸する、ドローン配送技術をレポートする。

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スマートドローン「Matternet ONE」

Matternetはシリコンバレーに拠点を置く新興企業で、ドローンを使った空輸ネットワークを開発している。このシステムは開発途上国で、医薬品の輸送などで使われてきた。Matternet共同創設者Andreas Raptopoulosは、カンファレンス「Drones, Data X Conference」で、次世代ドローン「Matternet ONE」を明らかにした。ドローンはオペレーターが操縦する必要は無く、自動運転車のように、目的地まで自律的に飛行する (上の写真、イメージ)。このようなインテリジェントなドローンは「Smart Drone」と呼ばれている。ドローンはEコマースのパイプラインとして、店舗間で商品を移動したり、顧客に商品を配送する役割を担う。

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クラウドに接続して飛行

Matternet ONE (上の写真) は配送専用に設計されたドローンで、都市部での配送を目的としている。重量1Kgまでの荷物を積み、20Kmの距離を飛行できる。Matternet ONEは、クラウド「Matternet CLOUD」と交信しながら飛行する。(通信方式の説明は無かったが、LTEなど携帯電話通信を利用すると思われる。) 飛行ルートは地形などを考慮して事前に設定する。FAA (米国連邦航空局) が定める飛行禁止区域 (飛行場周辺など) や構造物を避けて飛行する。クラウドはドローンの運行状態をモニターする。更に、飛行データはクラウドに収集され、運行後、それを解析し飛行に関する知見を得る。

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スマホの専用アプリで操作

Matternet ONEはスマホの専用アプリで操作する。まず、発送人は格納容器「Payload Box」に荷物を搭載し、離陸の準備をする。次に、スマホの専用アプリで目的地を入力する。Autoモードにすると、ドローンは自律的に、指定されたルートを飛行する。目的地では、「Landing Pad」に着陸する。Landing Padにはマーカーが表示され (上の写真、六角形の目印)、ドローンはカメラでこれを認識し、自律的に着陸する。受取人はPayload Boxを開けて荷物を受け取る手順となる。

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上の写真はドローン配送ルートの事例を示している。右側のドットを離陸し、白線に沿って飛行し、左側のドットに着陸する。赤色のシェイドはFAAが規定する飛行禁止区域 (空港近辺や市街地など) を示しており、ドローンはこの区域を避け、最短距離を飛行する。具体的な説明はなかったが、右側のドットはTesla Motorsの自動車工場で、左側のドットはMatternetのオフィスと思われる。つまり、工場から自動車部品を消費者に、緊急に配送するシナリオなどが考えられる。将来は航続距離を伸ばすため、バッテリー交換スポットの設置なども計画されている。ここで充電されたバッテリーを搭載し、ホップ・ステップで航続距離を伸ばす。現在、バッテリー交換は人手によるが、これを自動化することも検討されている。更に、他の飛行体との衝突回避システムや、GPSシグナルを受信できない時の対応技術などの開発も進められている。

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Eコマースのパイプライン

Matternetは、上述の通り、発展途上国で医薬品の輸送などを展開してきた。ブータンではWHO (世界保健機関) と共同で、中央病院から遠隔地の保健所に医薬品を空輸するミッションを展開 (上の写真)。パプアニューギニアでは、Doctors Without Borders (国境なき医師団)と共同で、医療支援に従事した。健康診断のため、血液検体などを病院の検査施設に空輸した。

これらの実績をベースに、Matternet ONEは先進国を対象に、Eコマースのパイプラインとして事業を展開する。Eコマースではファーストマイルとラストマイルが一番コストがかかるとされている。また、Eコマースでは配送パッケージの75%が1Kg以下の重量で、小型貨物の配送セグメントが急拡大している。更に、小型貨物では、ラストマイルの配送コストが、全体の70%を占めるとされ、ドローンの活躍が期待されている。

対象地域とビジネスモデル

Matternetはドローン配送事業を二段階で展開する。最初はアジアやアラブ圏の国々で、企業間取引を支えるインフラを目指す。これらの国々では経済発展に輸送インフラが追従できなく、交通渋滞が深刻な問題となっている。これをドローン配送で補完する。第二段階で米国におけるドローン空輸事業を展開する。Eコマースで購入した商品を消費者に届けるモデルを目指す。

Matternetのビジネスモデルはドローンのシステム販売。Matternetはドローン単体でなく、空輸システムを販売する。企業はMatternetからMatternet ONEを含むシステムを購入し、自社で運用する。提供するシステムは、Matternet ONEの他に、クラウド関連ソフトウェア (Matternet CLOUD) とスマホ向け専用アプリから構成される。Matternet ONEの価格は5000ドルからで、既に販売が始まっている。

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スイス郵便局と実証実験

Matternetは、Swiss Post (スイス郵便事業会社) とSwiss WorldCargo (スイス国際航空の貨物部門) と、Matternet ONEを使った空輸システムの実証試験を開始する (上の写真)。複数台のMatternet ONEを使い、今年の夏からスイスで始める。この試験ではコンセプトの検証を目的とし、本格展開につなげていく。検証事項はドローンの技術面やビジネス面だけでなく、法令順守や地域住民との関係が重要な要素となる。ドローン配送では、国の法令に沿った運用が求められるだけでなく、地域住民の安全性やプライバシーへの配慮がことのほか重要となる。

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ドローン配送市場が立ち上がる

この市場では、Amazonがサイトで購入した商品をドローンで配送するシステム「Amazon Prime Air」を開発している。Googleは「Project Wing」で、高速で長距離飛行できるドローンの開発を進めている。カンファレンスでRaptopoulosは、Matternet ONEは、AmazonやGoogleと競合するものの、ロジスティック・プロバイダー (配送サービス会社) に焦点を当てビジネスを展開することで、勝算はあると自信を見せた。(上の写真はカンファレンス会場で、スポーツアリーナの観客席で講演を聞いた。)

日本市場においてもMatternetのビジネスモデルは参考になる。企業は自前でドローン配送システムを備えておけば、自社内や他社にパーツやサンプルなどを緊急に空輸できる。宅配会社や郵便局などは、ドローン配送で他社に差別化できるプレミアム・サービスを提供できる。その前に、日本版Matternetの誕生も期待される。ドローン配送事業は既に始まっており、市場が急速に立ち上がる兆しを感じた。

Apple Watchでの支払いは予想以上に便利!”おサイフウォッチ”がブレーク寸前

April 24th, 2015

Apple Watchを手に取ると写真以上に美しかった。実際に腕にはめてみると快適だった。Apple Storeで試着した印象で、これが決め手となり、ウェブサイトで購入した。Apple Watchで生活すると、一番便利な機能は断然「Apple Pay」(下の写真)。レジの支払いが、Apple Watchをかざすだけでできる。自動販売機にウォッチをかざすとコーラが買える。おサイフケータイの次は”おサイフウォッチ”の時代が到来すると強く感じた。

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Apple Watchでの支払いは快適

「Apple Pay」は米国版おサイフケータイで、iPhone 6で利用できる。Apple Watchもこの機能を備え、ウォッチをかざすだけで支払いができる。

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レジで支払いする際に、サイドボタンをダブルクリックすると、Passbookに登録しているクレジットカードが表示される (上の写真)。これリーダーにかざすと支払が完了する。上のケースでは、リーダーのディスプレイ部分にApple Watchをかざす。ポケットからiPhoneを取り出し、TouchIDで指紋認証する必要は無く、ウォッチで支払いができるのは格段に便利と感じた。

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クレジットカード登録と安全機能

Apple Payを使う前に、専用アプリ「Apple Watch」でカードを登録する。iPhoneの時と同じ手順で、カメラでカードを撮影し、カード番号など必要なデータを入力する。カード登録が完了すると、Apple WatchのPassbookに格納される (上の写真、左側)。

iPhoneでApple Payを使う際は、指紋認証で本人確認をする。これに対して、Apple Watchでは、PINを入力して本人確認をする。Apple Watchを着装する際に、四桁のPINを入力すると (上の写真、右側)、デバイスがアンロックされる。支払いの際には認証は必要なく、Apple Watchをリーダーにかざすだけで処理が完了。Apple Watchを外すとログオフした状態となり、ウォッチを盗まれても、他人が支払いをすることはできない。Apple Watchでも安心して買い物ができる。

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一気におサイフウォッチに移行するか

iPhoneと同様に、Apple WatchとリーダーとはNFC (Near Field Communications) 方式で交信する。支払いする際は、Apple Watchをリーダーに接触させるくらい近づけて使う (上の写真)。米国では大規模なカードデータ盗用事件が相次ぎ、多くの店舗がNFC機構を搭載したリーダーの設置を進めている。このため、Apple Payを利用できる店舗が増えてきた。便利になったのと同時に、プラスティックのカードを使うのと比べ、安心感が格段に向上した。

Apple WatchをiPhone 5とペアリングして使うことができる。つまり、iPhone 5でApple Payを使えるようになった。iPhone 5利用者はApple Watch側で支払いができる。これは、Apple Payに対応したデバイスが急増することを意味し、普及が一層進むこととなる。米国では、おサイフケータイが普及する前に、一気におサイフウォッチに移行する気配をみせている。

Apple Watchでコカコーラを買う

Apple Watchで自動販売機の支払いができる。Coca-Colaは北米で、Apple Payに対応した自動販売機の整備を進め、今年末までに10万台を導入するとしている。iPhoneやApple Watchをかざすだけで、清涼飲料水を購入できる。

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上の写真がその様子で、Apple Watchでコーラを買ったところである。自動販売機にはクレジットカードやNFCリーダーが装着されている。Apple WatchをNFCリーダー (上の写真の黄色の部分) にかざすと支払処理ができ、買いたい商品のボタンを押すとボトルが出る。

日本では駅構内に設置されている自動販売機で、Suicaを使って清涼飲料水を購入するのは、日常生活の一部になっている。米国ではNFC機構を搭載した自動販売機が、ホテルやスーパーマーケットなどに設置されている。Apple Watchで飲み物を買える社会が到来した。

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米国版SuicaもApple Watch対応へ

電車の改札でもApple Watchが使えるようになる。サンフランシスコ地区では公共交通機関「Caltrain」などで、米国版Suicaともいえる「Clipper Card」が使われている。上の写真は駅に設置されている検札機に、Clipper Cardをかざしている様子。乗り降りの際と、車内での検札で、カードをかざす必要がある (車内検札では車掌さんが持っているポータブルリーダーにかざす)。 いまClipper Card機能をiPhone 6とApple Watchに実装する計画が進められている。これからは改札でカードの代わりにApple Watchで乗車でき、通勤が格段に便利になる。

Appleは日本でのApple Payの展開についてはコメントしていないが、最重要市場と見ているのは間違いない。今後、日本においてApple Watchで支払いができ、電車に乗れるようになれば、生活がより一層便利になる。Apple Watchを使ってきて、おサイフウォッチ機能は、むしろ日本社会向きだと感じている。

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StarbucksもApple Watch対応

StarbucksではApple Watchでコーヒーを買える。Passbookに格納している「Starbucks Card」を使って支払いをする。レジで、Apple WatchにカードのQRコードを表示し、ウォッチをリーダーにかざして支払いする (上の写真)。今まではiPhoneにStarbucks Cardを表示していたが、Apple Watchをかざすだけでスマートに支払いができる。

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ただ、Apple Watchのアイコンは小さいので、Passbookアプリを探してオープンするのは、慣れるまでに時間がかかる。上の写真左側が筆者のホーム画面で、Passbookアイコンは中央最下部に位置している。レジでの支払いでは、事前にPassbookを開いて準備しておく必要がある (上の写真、右側)。Siriを使い、音声で「Hey Siri Open Passbook」と語りかけ、Passbookをオープンする方法もある。ただ、レジの待ち行列では他人の迷惑になり、控えた方がよさそうだ。

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ホテルのルームキーとなる

Apple Watchがホテルのルームキーとなるサービスも登場している。ホテルチェーン「Starwood Hotels & Resorts」は、iPhoneをルームキーとするサービス「SPG Keyless」を提供している。これをApple Watchに展開している。Apple Watchに部屋番号が表示され、ドアにウォッチをかざすと鍵が開く。ホテルカウンターで長い行列に並ぶ必要は無く、スマートにチェックインできる。

利用者は事前に、iPhoneで必要事項を記入しデバイスを登録をしておく。宿泊24時間以内に通知を受け、確認ボタンを押すとチェックインが完了する。アプリを起動すると部屋番号が表示され、そのまま部屋に向う手順となる。部屋だけでなくホテル施設でも利用できる。Apple Watchと鍵はBluetoothで交信する。SPG Keylessが利用できるホテルは「W Hotels」や「Aloft Hotels」など、ちょっとお洒落なホテルが中心となる。荷物を抱えながらiPhoneを取り出すより、Apple Watchで部屋に入れるのは便利そうだ。

「ウォッチ・ネイティブ」のアプリ

Apple Watchを使ってみて、便利な機能とそうでない機能がはっきり分かってきた。メール、テキストメッセージ、通話機能、カレンダーなどは、確かに便利ではあるが、なくてもそれ程困らない。一方、便利と感じる機能はApple Payや健康管理「Activity」などである。ざっくり区分けすると、iPhoneのセカンドスクリーンになっているアプリは余り便利と感じない。一方で、Apple Watch”ネイティブ”のアプリは便利と感じる。ネイティブアプリは、Apple Watchに搭載されているハードウェア機構を駆使し、有益な機能を提供する。Apple PayではNFC機構であり、Activityのケースでは心拍数計測などのバイオセンサーである。Apple Watchのアプリの数は3000本といわれているが、ほとんどがiPhoneアプリの焼き直しである。今後、ウォッチ・ネイティブのアプリが登場し、クールな機能を提供してくれることを期待する。

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Appleらしいお洒落なデザイン

機能面とは別に、いたるところにAppleらしいお洒落なデザインが施されている。Apple Watchを最初に起動して、iPhoneとペアリングするが、銀河星雲が回転しているようなイメージが登場した (上の写真)。ペアリングでは通常QRコードが使われるが、Apple Watchはポイントクラウドと呼ばれる、データポイントの集合体を使う。銀河星雲が四桁の数字を示し、iPhoneカメラで撮影してペアリングする。ポイントクラウドで機能が向上するわけではないが、単純作業も楽しくできる。

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ガジェットがファッションアイテムになる

やはりAppleの色彩感覚が気になる。スポーツモデル「Watch Sport」のバンドの色は五種類提供されている (上の写真、Apple Storeのショーケース)。実は、この五色の配色は、グリーンを除いて、すべてGoogle Glassのフレームの色に同じである。色調もコピーしたようによく似ている。AppleがGoogle Glassの色を参考にしたとも思えなく、消費者が好む色を絞り込むと、これら五色になるのかもしれない。

筆者はブルーのバンドと装着感に惹かれて、Apple Watchを購入した。このモデルを着装するとすがすがしい気分にな。着装するときは、袖を少しめくり、Apple Watchがチラッと見えるようにしている。Appleがスマートウォッチをデザインすると、ITガジェットからファッションアイテムになる。

生活が横着になったシリコンバレー、人工知能を使った宅配サービスが大ブーム!

April 17th, 2015

シリコンバレーでベンチャーキャピタルの投資が過熱している。1999年のインターネットバブルの投資金額を上回り、第二のブームになっている。インターネットバブルでは、ウェブサービスが中心だったが、今回はリアル社会のサービスが中心となる。その中で、人工知能を駆使した宅配サービスが波紋を広げている。宅配は日本企業の得意分野であるが、ITを駆使したシステムから、学ぶところが少なくない。宅配サービスで横着になった生活をレポートする。

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大型投資の衝撃

生鮮食料品宅配サービスを提供する新興企業「Instacart」は、昨年12月、大手ベンチャーキャピタルから、2億2千万ドル (264億円) の投資を受けた。ベンチャーキャピタルの投資が活発だが、誕生まもない新興企業にこれだけの規模の投資をするのは異例。Instacartは生鮮食料品を”オンデマンド”で配送する。スマホ専用アプリ「Instacart」から、商品を注文すると、宅配スタッフ(Shopperと呼ばれる) が指定したスーパーマーケットで買い物をして、自宅まで届けてくれる (上の写真)。宅配費用は安く、配送時間を一時間ごとに指定できるのがうれしい。

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スーパーマーケットで販売されている商品を購買

このサービスが大人気で、筆者もスーパーマーケットに買い物に行く代わりに、スマホで宅配サービスを利用するようになった。操作は簡単で、アプリで行きつけのスーパーマーケット「Whole Foods」を選ぶと、ホーム画面に商品一覧が表示される (上の写真、左側)。野菜やフルーツの他に、食肉や魚介類 (上の写真、右側)、デリ、牛乳や卵、食パン、パスタ、調味料など、スーパーマーケットで販売されている商品が全て揃っている。通常のショッピングアプリと同じで、アイコンににタッチし、個数を指定して商品をカートに入れる。

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希望する時間帯を一時間単位で選ぶ

商品の選定が終わると、カートアイコンにタッチして、チェックアウトする (上の写真、左側)。決済は登録しているApple Payででき、新興企業のサービスでも安心して利用できる。従来通り、クレジットカードを登録して、支払いするオプションもある。最後に、配送時間の指定画面で、希望する時間帯を一時間単位で選ぶ (上の写真、右側、別の日の事例)。

通常1~2時間程度で配送される。商品は店舗と同じ価格に設定されている。配送手数料は3.99ドルだが、混雑時は4.99ドルかかる。また、購買金額が35ドル以下の場合は、配送手数料が7.99ドルに跳ね上がる。日本では時間単位の同日配送は当たり前だが、シリコンバレーではInstacartが初めて手掛けた。明日朝のシリアルを切らしたときも、直ぐに注文でき、今では手放せないサービスになった。

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注文した商品はInstacart専用のショッピングバッグで、時間通りに届けられた (上の写真)。但し、注文したブロッコリーは在庫が無く、その旨をボイスメッセージで連絡を受け、後ほど、この代金が払い戻された。米国のサービス品質は必ずしも良くないが、商品が時間通りに届き、欠品についての細かい対応に、正直驚いた。

柔軟な勤務体系がサービス品質向上の鍵

宅配スタッフはJimという名前の男性で、自分の自動車を運転して商品を届けてくれた。JimはWhole Foods店舗を担当する配達員で、スマホで注文を受け、それに従い買い物をし、商品を顧客に届ける。Jimは毎週五日程度勤務し、当日は10時から14時までと、16時から18時まで勤務していた。このように、宅配スタッフは自分の都合のいい時間帯だけで仕事ができる。

宅配スタッフの多くは20歳代を中心とする、若い労働層が中心になる。しかし、Jimは60過ぎの男性で、仕事を引退して宅配スタッフをしているようであった。自動車はプリウスで、身なりや話し方からすると、生活に困っている様子ではなかった。引退後も社会にかかわっていたい、という雰囲気を感じた。Instacartは柔軟な勤務体系を提供し、これが優秀な人材を惹きつける。シリコンバレーでの働き方が大きく変わった。

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配送員になるプロセス

宅配スタッフを希望する人はInstacart専用サイトから応募する。応募者は履歴などの調査の後、面接と教育を受け採用される。上の写真は応募のプロセスを示したもので、氏名などの基本情報の他、希望の勤務体系を記載する。ここで、仕事をする曜日や勤務時間などを指定する。また、希望する勤務地域を指定できる。自動車を持っていればその情報を記載する。ウェブサイトで応募し、簡単に宅配スタッフになれる。

Instacartはパートタイムとは異なる。パートタイムでは、会社が勤務時間を指定するが、Instacartは従業員が勤務時間を選択できる。好みの時間を自由に選択できるという意味で”アラカルト勤務”とも呼ばれている。自由度が大きい勤務体系が、今の時代の労働者にアピールしている。

ソフトウェアの力にかかっている

一方、雇用側は、配送スタッフの数が曜日や時間帯により大きく変わるため、需要に合わせた労働力の確保が新たな課題となる。マニュアルでの調整では間に合わず、人工知能など、ソフトウェアを駆使して最適化する。待ち時間を最小限にし、顧客へ1時間以内に配送できるシステムの構築は、ソフトウェアの機能にかかっている。配送員の位置情報をGPSで把握し、日時や天候などの要因を勘案し、最適なロジスティックスを構成する。パターンの数が膨大で、Machine Learningなどの手法を活用し、過去の事例を学習し、労働力の最適化を図っている。

システムは学習を続けている

Instacartのシステムは完成している訳ではなく、まだ学習を続けている。Instacartの宅配スタッフは正社員ではなくコントラクターで、4000人いるとされる。宅配スタッフの給与は、配送件数と商品アイテムの数から算出される。Instacartは時給25ドル程度としているが、閑散期には時給10ドル程度ともいわれている。顧客からの注文が少ない時は、配送員は自動車の中で待機し、次の注文を待つことになる。配送員は多めに配置され、バッファーとしての機能も担っているようだ。

Uberのモデルをコピー

Instacartのシステムは、合法なハイテク白タク「Uber」のモデルをコピーしたものである。Uberはライドシェアと呼ばれる運輸ネットワークを展開し、45か国130都市でビジネスを展開している。ドライバーは、自家用車を使い、自分の都合に合わせ働くことができる。この労働形態がドライバーに訴求し、サンフランシスコ地区ではタクシードライバーが、雪崩を打ってUberに移動している。

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Uberモデルをレストランの出前に応用

宅配サービスは、スーパーマーケットの買い物だけに留まらない。出前サービス「DoorDash」が破竹の勢いで事業を拡大している。同社は、地域のレストランと提携し、出前サービスを展開している。スマホ専用アプリから、レストランの料理を注文すると、DoorDashの宅配スタッフ (Dasherと呼ばれる) が届けてくれる。

アプリには近所のレストランが掲載され (上の写真、左側)、希望のレストランのメニューから料理を選ぶ (同右側)。この日は昼ごはんに、クレープを注文しているところである。料理を選んで、チェックアウト画面で支払いをする。ここでもApple Payで決済でき、安心して利用できる。料理の値段は同じだが、配送手数料が一律に5.99ドルかかる。チップはオプションでパーセントボタンを押して支払う。

注文が終わると、アプリには配送プロセスが表示される。11:02に注文を受け付け、到着予定時刻は11:49と表示された。実際には11:38に料理が届けられ、配達されるまでの時間は36分だった。30分程度で料理が届くので、一回使い始めると、止められなくなった。

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レストランで食事するより早い

この日は「Crepevine」というレストランでSiena CrepeとPattaya Crepeを注文した (上の写真)。サラダとスプーンやフォークがついてきて、そのまま食事ができる。ここは大人気のレストランだが、予約は取らず、店では席が空くのを待たなくてはならない。DoorDashを使うと30分程度で食事が届くので、レストランで食事するより早く食べられる。

出前スタッフは女子学生で、自分の車で配送してくれた。女性は時間がある時に、DoorDashで出前サービスをしているとのこと。忙しそうでゆっくり話を聞けなかったが、学費や生活費を稼ぐため、働いている様子であった。

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インフラのコストは最少

出前で使う自動車には、フロントグラスにDoorDashのプレートが付いているだけで、特別な仕様にはなっていない。また、配送スタッフはDoorDashのTシャツを着ているが (上の写真)、私服で来る人も少なくない。つまり、DoorDashは、出前サービスのインフラには、ほとんどコストをかけていない。ハードウェアにはお金をかけないで、ITを駆使して身軽に配送事業を展開するのが、いまのビジネスモデルになっている。ただ、DoorDashのケースでは、調理というプロセスが入るので、ロジスティックスが格段に複雑となる。調理時間や間違った料理への対応などが必要となり、人工知能の手法であるMachine Learningを使っていると言われている。

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Googleがベンチャーに苦戦

ベンチャー企業の登場で、Googleが苦戦している。Googleは、独自の配送サービス「Shopping Express」を展開しているが、伸び悩んでいる。Amazon対抗のサービスとして開始したが、実際には、小回りの利くベンチャー企業との競合が厳しくなっている。Shopping Expressで注文すると、配送は翌日で、しかも配送時間帯は午前・午後・夜の枠から選ぶこととなる。同日配送や一時間ごとの指定ができない。配送手数料も4.99ドルと、やや高めの設定である。

そもそもShopping Expressは、生鮮食料品を取り扱っておらず、衣料品や家庭用品などが中心となる。そのため、毎日利用するのではなく、使用頻度はぐっと低くなる。ずっとShopping Expressを使ってきたが、今ではInstacartに乗り換えた格好となっている。上の写真はShopping Express専用車両で、通りで頻繁に目にする。インフラにコストがかかっており、Googleのサービスが重厚長大で、時代の波に乗り遅れているのを感じる。

シリコンバレーの生活パターンが変わる

Instacartはニューヨークなど15の主要都市で事業を展開している。シリコンバレーでは多くの家庭がInstacartを利用している。また、DoorDashはサンフランシスコを中心に、7都市でサービスを展開している。シリコンバレーではDoorDashが大人気で、パロアルトでは4軒に1軒が利用しているといわれている。前述の通り、人気レストランで食事を注文するより、出前サービスのほうが早く食事できる。ただ、DoorDashの出前料金は少し高いので、筆者宅では友人と一緒にレストランに行く代わりに、DoorDashを利用している。出前サービスで料理を注文すると、自宅でくつろいで食事ができる。

シリコンバレーで働き方も大きく変わった。パートタイムとして企業に就職する代わりに、InstacartやDoorDashなどで、自分の都合のいい時間に働くスタイルが広まってきた。類似のサービスが数多く登場しており、これを本業としている人も出始めた。複数の仕事を掛け持ちし、時給が最大になる組み合わせで働く。稼ぐ人であれば、年収6万ドル (720万円) になる人もでてきている。Uberが仕掛けたビジネスモデルが、幅広い分野で波紋を広げている。

企業側のビジネスモデル

大手ベンチャーキャピタルがInstacartに大規模な投資をし、DoorDashに注目しているのは、このビジネスモデルを高く評価しているため。Instacartで買い物をしても、価格はスーパーマーケットと同じ設定となっている。これが可能となるのは、Instacartがスーパーマーケットから、販売コミッションを貰う仕組みとなっているため。つまり、スーパーマーケットとしては、Instacartを新しい販売チャネルとして位置づけ、新規顧客を呼び込み売り上げが増えるとみている。

一方で、大手スーパーマーケット「Safeway」で買い物をすると、商品価格が15%増しとなる。これは、コミッションを貰えないケースで、追加料金がInstacartの事業収益となる。実は、Safewayは独自の配送サービスを展開しており、Instacartとは競合する関係にある。

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DoorDashも同じ構造で、レストランからコミッションを貰っているといわれている。レストラン側としては、DoorDashの出前サービスが新たな販売チャネルで、売り上げが伸びるとみている。事実、レストラン側としては、出前サービスで売り上げが伸びており、重要な新規事業として力を入れている。ただ、消費者の視点からは、レストラン出前サービスが乱立状態で、受け取る料理の品質に大きな幅があり、レストランの選択には注意が必要。上の写真はクレープを注文したCrepevineで、ウェブサイト前面でDoorDashを紹介し、出前サービスを積極的にプロモーションしている。

高齢化社会の重要なインフラ

このモデルは日本の都市部での配送システムに応用できるかもしれない。日本では既に大手企業の宅配サービスが充実しているが、もっとフットワークの軽いモデルを構築できれば、誰でも気軽に安い値段で利用できる。特に、自由に買い物に行けないシニア層向けに提供できれば、高齢化社会の重要なインフラとして機能する。これらのサービスを支えているのがMachine Learningなど人工知能で、IT企業の果たす役割が重要となる。