犯罪者の社会復帰を後押しするインキュベーター、刑務所は人材の宝庫!

December 12th, 2014

米国で犯罪者の社会復帰を支援する事業が話題を集めている。インキュベーターのモデルで、罪を犯した人が起業するのを支援する。犯罪者の中には優秀な人材が埋もれており、これを社会に役立てようという試みである。実際に、刑務所内でプログラミング教育が始まり、その成果に注目が集まっている。刑務所を舞台に新たな取り組みが始まった。

g394_defy_ventures_01

犯罪歴のある人の事業を支援

この事業を推進してるのが「Defy Ventures」というニューヨークに拠点を置く非営利団体で、刑期を終え出所した人を対象に、事業のスタートアップを支援し出資する。創設者でCEOのCatherine Hoke (上の写真、右側の女性) が、シリコンバレーで開催されたカンファレンス「DEMO Fall 2014」で、事業の狙いを自らの体験を交えて紹介した。また、出所して起業家の道を歩んでいる二人 (上の写真、男性二人) が、事業を起こす経緯を語った。

Defy Venturesは犯罪歴のある人を対象としたインキュベーターで、教育プログラムと起業資金を提供し、事業のスタートアップを支援する。このプログラムは10万ドルのファンドを用意し、成績優秀な受講者複数に振り分ける。コンペティションの形でプログラムが進行する。

g394_defy_ventures_02

プログラムの内容

受講者は、まず、導入プログラム「Introductory Training Program」で三週間の教育を受ける。このプログラムを通過した人は「Defy Academy」に進む (上の写真)。これは七か月の集中教育で、受講者はリーダーシップやビジネスの基礎を学習する。今年からオンライン教育を開始し、七つの州から参加している。受講者は「Entrepreneurs-in-Training」 (教育中の起業家) と呼ばれる。講師陣には著名ベンチャーキャピタル「Draper Fisher Jurvetson」のTim Draperなどが含まれている。受講生はプログラムの中で起業について学ぶだけでなく、実際に起業しビジネスを始める。

Defy Venturesは受講者に対し、前述の10万ドルのファンドから、起業のために一人当たり最大2万ドルを出資する。Defy Venturesが出資先を選定する際は、ビジネスの将来性、ビジネスピッチ、プログラムの成績などが考慮される。出資対象ビジネスは精査され、Defy Venturesが認めているビジネスタイプに限定される。

プログラムの実績とビジネスモデル

このプログラムを終了し、実際に起業した件数は71社に上る。ベンチャーキャピタルと異なり、Defy Venturesは出資した資金を回収するのが目的ではない。Defy Venturesは篤志家からの寄付で運用している。一方、今年から授業料を徴収するモデルに変更し、中期的には授業料収入で事業を運営することを目指している。

米国では毎年200万人を超える人が収監され、世界の中で単位人口当たりの受刑者数が一番多い。Hokeによると、これら犯罪者にはHustler (やり手) が多く、犯罪者が巨大な人材プールを形成している。Defy Venturesは、ここから優秀な人を発掘することを目指している。このプログラムへの参加者は2012-13年は115人で、2014年は172人に増えている。2015年は大幅に増え1000人となり、このうち500人はサンフランシスコ地区で教育を受ける計画である。

プログラムを受講した感想

ステージ上で二人の受講者が起業に至る経験を紹介した。一人はドラッグディーラーで (先頭の写真、左側の人物)、刑務内で雑誌を読みDefy Venturesを知り、出所してすぐに応募した。今ではスポーツ用品販売の事業を立ち上げている。もう一人 (先頭の写真、中央の人物) は脱税で収監された。服役中に食品ビジネスを立ち上げ、今はそれを拡大し「Inside Out Bars」というブランドでグラノラバーの販売を行う計画だ。話し方はソフトで素敵な笑顔でグラノラバーは売れそうだと感じた。Hokeは28歳の時に、テキサス州で受刑者を起業家に育ているプログラムに参加し衝撃を受けたと述べた。刑務所には優秀な人材が眠っていることを発見し、このビジネスを始めたとしている。Hokeの持論は、受刑者から学ぶことが多いということで、犯罪者は間違った方向に進んでいるものの、ビジネスセンスに長けた人が少なくないという解釈だ。

g394_defy_ventures_03

刑務所内でプログラミング教育

既に刑務所内で受刑者に対する教育が始まっている。「The Last Mile」はサンフランシスコに拠点を置く非営利団体で、受刑者にプログラミングを教育することで、社会復帰を支援している。手に職を付けると、刑期を終えた受刑者が再び犯罪を起こす確率が下がり、刑務所維持費を大幅に削減できるとしている。これは「Prison Programs」と呼ばれ、受刑者に起業のための教育とプログラミング教育を実施する。サンフランシスコ近郊の刑務所「San Quentin State Prison」で10月から18人の受刑者を対象に始まった。これは「Code 7370」と命名され、六か月にわたり、HTML、CSS、JavaScriptなどのプログラミング言語を学ぶ (上の写真)。

教育はプログラミング教育ベンチャー「Hack Reactor」が務める。講師はGoogle Hangoutsを使って受刑者にリモートで講義を行う。受刑者はパソコンを使い、実際にプログラムをコーディングする。受刑者はインターネットにアクセスすることが禁じられており、オフラインで学習する。インターネットにアクセスする際は、刑務所の専任スタッフが受刑者に代わり、検索などを行う。受刑者がプログラミング技術を習得することで、社会復帰を後押しする。収監中はカリフォルニア州政府向けにプログラムの開発を行う。

The Last Mileはプログラミングを社会復帰の手段に利用しているが、長く収監されている受刑者は、キーボードやマウスに触ったことが無い人も少なくない。iPhoneはテレビのコマーシャル知ったという人も多い。解決すべき課題は少なくないが、ITを社会復帰に利用する取り組みが始まった。

g394_defy_ventures_04

大手ベンチャーキャピタルが注目する理由

上述のTim Draper (上の写真、前列中央の人物、受講生との集合写真) はDefy Venturesの講師を務め、プログラム運用に深くかかわっている。Draperは、受刑者はある意味で起業家であり、社会復帰のためには自らがビジネスを興すことが最適の選択肢であると述べている。投資家の眼からすると、受刑者たちは起業に向いていると見ている点は興味深い。また、Hokeの話しを聞くと、犯罪者に対して同じ目線で接し、家族の一員のように対応しているのを感じる。米国は失敗しても再度挑戦できる社会であるが、犯罪者は多くの企業から敬遠されているのも事実である。DraperやHokeは、事業の観点からは、ここに大きなチャンスがあることを感じ取っている。米国という“犯罪大国”だけで成立するモデルかもしれないが、受刑者から革新的なビジネスが登場するのも、そう遠くはないとの印象を受けた。

ウエアラブルでお洒落になる!スマートドレスが似合う洋服を教えてくれる

December 3rd, 2014

米国クリスマス商戦で、オンラインストアーの売り上げが大幅に伸びている。しかし、衣料品の購入では自分に合うサイズの商品を見つけるのが難しい。これは自分のサイズを詳細に掴んでいないのと、業界で統一したサイズ基準が無いためである。この永遠の課題に終止符を打つ技術が登場した。スマートドレスを着ると、サイズを測定でき、自分にフィットする洋服が分かるのだ。

g393_likeaglove_01

スマートドレスでサイズを測定

これは「LikeAGlove」という新興企業が開発しているスマートドレス「Smart Garment」で、シリコンバレーで開催された「DEMO Fall」で公開された。このドレスを着ると体のサイズを詳細に測定でき、自分にフィットする洋服が分かる。上の写真のモデルさんが着ている赤いドレスがSmart Garmentで、伸縮する素材でできている。この素材には伝導性ファイバーが織り込まれ、身体サイズをドレスが計測する。収集したデータは衣服のコントローラーからタブレットに送信される (モデルさんの持っているタブレット)。

g393_likeaglove_02

測定結果をタブレットで閲覧

上の写真が測定結果サンプルで、身体の五か所のサイズが表示される。具体的には、わき下間サイズ、カップサイズ、バンドサイズ、ウエスト、ヒップが計測される。実際にモデルさんにデモを見せてもらったが、お腹をへこませると、その結果がリアルタイムでタブレット上に表示された。実際には、Smart Garmentを数分間着装し、サイズを測定する。

g393_likeaglove_03

消費者にフィットする商品を表示

スマートドレスで自分のサイズが正確に分かるが、これでフィットする洋服を見つけられる訳ではない。もう一つの問題は、衣服のサイズに統一基準がないことである。つまり、同じサイズでも、ブランドにより大きさが異なるのだ。LikeAGloveは主要ブランドの衣服サイズのデーターベースを構築している。サイズが分かると、データベースを検索し、消費者にフィットする商品を表示する (上の写真)。更に、LikeAGloveはサイズだけでなく、消費者の体型を考慮し、一番似合う衣服を推奨する。

g393_likeaglove_04

何故サイズを統一できないのか

ジーンズやシャツを買うとブランドによりサイズが異なり不便を感じる。米国アパレル業界では、洋服のサイズ表記について統一したルールが無いためである。同じサイズ表記でもブランドが異なると、実際の大きさが異なる。上のグラフはそれを示しており、「サイズ10」でもブランドにより、大きさが異なる。黒色の線は業界の中央値で、ピンク色の線は米国人気ブランド「K-mart」を示す。K-martブランドの衣服は、標準値より大きめに設定してあり、「サイズ10」でも、実際にはその上の「サイズ12」に近い。これは「Vanity Sizing」(虚栄心サイジング)というマーケティング戦略である。K-martに行くと、一つ小さい「サイズ10」の服も着れるということで、売り上げが伸びる仕組みだ。

ビジネスモデルは検討中

DEMO Fall会場で、LikeAGlove CEOのSimon Cooperと、CMOのJessica Insalacoから、製品概要とビジネスモデルの説明を受けた。LikeAGloveはSmart Garmentとして、キャミソール (上述のドレス) の他に、ソックス、シャツ、レギングスを開発している。女性用だけでなく、男性向けには、シャツとレギングスを提供する。Smart Garmentの販売チャネルについては未定としているが、複数のオプションを検討している。具体的には、Amazonなど、オンラインストアー経由で販売することを目指している。また、消費者に直販するモデルも検討されている。価格は公表されていないが、量産すると安くなるとしている。

g393_likeaglove_05

eBayは超高精度な仮想試着室を開発中

オンラインストアーの技術進歩が著しい中、eBayは高精度なコンピューターグラフィックスを駆使し、仮想の試着室を開発している。eBayは2014年2月、3Dモデリング技術を開発している企業「PhiSix」を買収し技術開発を開始した。PhiSixは衣服の写真やパターンファイルなどから3Dモデルを生成し、衣服の挙動をシミュレーションする。消費者は高精度のコンピューターグラフィックスを見て、どの洋服を買うかを決める。消費者が体のサイズを入力すると、システムは体にフィットする商品を推奨する。

仮想試着室では異なる環境の中で衣服を着て動くことができる。上の写真はファッションショーのステージをイメージしたもので、モデルの動きは極めて精巧で、人間の動きと見分けがつかない。衣服もその特性に合った挙動をする。このケースではトップスは薄手のシャツで、歩くと風を切って、シャツが軽くたなびく。周囲の環境はステージの他に、街中や、ゴルフ場などが開発されている。購入する服を着て街中を歩くと、どのような感じなのかを把握できる。ゴルフ場では、購入するウエアを着てスイングすると、周りからどう見えるのかを理解できる。eBayはこの仮想試着室をオンラインストアーやモバイルアプリなどで展開する。仮想試着室でリアルなイメージが掴めれば、オンラインストアーの売り上げが伸びるという目論見だ。

g393_likeaglove_06

シリコンバレーでサイズ測定専用機が登場

消費者にフィットする洋服を見つけるために、ベンチャー企業はしのぎを削ってきた。「Bodymetrics」と言うベンチャー企業は、消費者の体をスキャンしてサイズを測定する技術を開発した。この装置はシリコンバレーの高級デパート「Bloomingdales’」に設置された (上の写真)。消費者はこの装置の中で、サイズを測定する。Bodymetricsは16台のMicrosoft Kinectを実装しており、3Dカメラで被写体の体を撮影し、立体オブジェクトを生成する。

10秒ほどで測定ができ、その結果は小売店のiPadに表示される。200ヵ所のサイズを計測し、アプリは最適な商品を推奨する。消費者は事前に専用アプリをインスト―ルしておくと、測定結果を自分のiPhoneで見ることができる。同様に、アプリは最適なサイズの商品を推奨する。従来はレーザー光での測定であったが、Kinectを使うと低価格で簡単に測定ができる。街で話題となった技術であるが、現在は使われていない。

ウエアラブルでサイズを測定するという発想

多くのベンチャー企業から、衣服にセンサーを組み込み、心拍数や心電図を測定し、健康管理に役立てる技術が登場している。これに対し、LikeAGloveはファッションの用途で、スマートドレスで身体サイズを計測する。しかし、一度サイズが分かればドレスは不要となる。家族や知人で利用する方法もあるが、LikeAGloveはドレスの再利用についてはコメントしていない。もし利用者が定期的にサイズを測定すれば、体型の変化を把握でき、健康管理やフィットネスに役に立つ。もう少し先になるが、3Dプリンターで衣服を印刷できれば、身体の詳細な三次元データが必要不可欠となる。究極の洋服を作れるが、Smart Garmentのようなセンサーが再び必要となる。Smart Garmentのデモを見て夢の広がる技術だと感じた。

IBMの機軸事業は人工知能へ、Watsonで知的アプリが続々誕生

November 26th, 2014

IBM 「Watson」は米国クイズ番組「Jeopardy」で歴代チャンピオン二人を破り社会を驚かせた。クイズには強いWatsonだが、IBMはビジネスへの応用に苦戦している。今年初頭、「Watson Group」が設立され、IBMの人工知能ビジネスの流れが変わった。ベンチャー企業からWatsonを活用した知的なアプリの登場が相次いでいる。WatsonはApple Siriのように身近な存在になり、IBMの人工知能ビジネスへの遷移が鮮明となった。

g392_ibm_watson_apps_01

知能イノベーションを起こす

人工知能ビジネスの中核を担うのがWatson Groupで、「Cognitive Innovations」 (知能イノベーション) を目指している。Watsonを核にインテリジェントなシステムやアプリを開発する。IBMはこのプロジェクトに10億ドルの予算を当て、このうち1億ドルをベンチャー企業への投資に振り向ける。Watson Groupはニューヨークのシリコンアレーに建設されたビル (上の写真) を拠点とし、2000人の体制で臨む。Watson Groupは上級副社長Michael Rhodinが指揮を取る。

g392_ibm_watson_apps_02

Watsonの作戦本部

このビルはWatson Groupの本社として機能し、三つの部門から構成される。「Incubator」はインキュベーターとして機能し、新興企業のアプリ開発を支援する。「Client Experience Center」は顧客向けショールームで、Watsonを使うことができる (上の写真)。「Design Studio」は顧客やパートナー向けの開発スタジオで、デザインや設計を中心にシステム開発を行う。Watsonの機能は、買収したSoftLayerを使って、クラウドとして提供される。Watsonは人工知能クラウドと位置付けられる。

Watsonとは

IBMはWatsonを「Cognitive Computing」 と呼び、自ら学習し、ヒトと会話できるコンピューターと定義している。Cognitiveとは認知できるという意味で、人工知能の中でも、データから意味を把握するという側面に焦点を当てている。具体的には、「Natural Language Processing」(自然言語解析) で言葉を理解し会話する。膨大な非定型データに対し、「Analytics」(解析) を行い知見を得る。過去に行った解析を経験に、学習を重ねていく。Watsonはヒトの言葉をを理解し、証拠に基づき仮説を立て、自ら学習していくマシンということができる。

知的アプリの開発が始まる

IBMは前述のベンチャーファンドで、新興企業に投資を始め、Watsonを活用した知的アプリの開発を急いでいる。2月には最初の投資先として「Welltok」を選定。同社はインテリジェントな健康管理アプリを手掛けている。二番目は「Fluid」で、デジタルショッピング技術を開発中。11月には「Pathway Genomics」への投資を発表した。同社は遺伝子解析結果を医師に代わり被験者に説明するアプリを開発する。今後は農業、娯楽、製造などの分野での知的アプリの開発を目指す。

g392_ibm_watson_apps_03

店員のようにふるまう「Fluid

投資先企業が開発している知的アプリの一端が見えてきた。Fluidはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業で、Watsonを利用したアプリ「Fluid Expert Personal Shopper」を開発している。このアプリはアウトドア用品店「North Face」向けに提供される (上の写真は現行のショッピングアプリ)。オンラインストアー利用者は、小売店でスタッフに質問する要領でアプリに問いかけると、アプリが最適な商品を探し出す。アプリが店舗スタッフとなり、探しているものをズバリ提示する。

消費者は特定の商品 (例えばテント) を探すとき、Googleなどで検索し、Amazonで商品を絞り込んでいく。これに対しFluid Expert Personal Shopperは、言葉で質問するとズバリ回答してくれる。例えば、「10月にニューヨーク州北部に家族でキャンピングに行くのだが何が必要か?」と尋ねると、アプリは質問を理解し、最適なテントを提示する。更に、キャンプで必要なアイテムを推奨する。アプリが店舗スタッフの役割を担い、要領よく対応する。このシステムではアプリに、製品カタログ、教育マニュアル、専門家のアドバイス、利用者の評価など、数多くのデータを入力しておく。Watsonは膨大なデータを解析し、消費者の質問に回答する準備をしておく。更に、アプリは消費者との対話を通して学習し、知識を蓄えていく。

g392_ibm_watson_apps_04

医師の代わりをする「Pathway Panorama

Pathway Genomicsはサンディエゴに拠点を置くベンチャー企業で、個人向けに遺伝子解析サービスを提供している。同社はWatsonを利用し、インテリジェントな健康管理アプリ「Pathway Panorama」を開発中。アプリに話し言葉で質問すると、利用者の遺伝子情報などをベースに、健康維持のためのヒントを回答する。アプリはまるで病院の医師のように利用者の質問に的確に応対する (上の写真、イメージ)。

g392_ibm_watson_apps_05

Pathway Panoramaは、前準備として、利用者の健康に関するデータを収集しておく。ここには利用者の生活習慣、健康診断結果、遺伝子、バイタルサイン、電子カルテなど広範囲の情報が含まれる。バイタルサインについては利用者がウエアラブルを着装して収集する。これら個人情報をベースに、Watsonは医学論文や臨床試験結果など医学情報を参照し、個人に特化した解析を行う。具体的には、「今日はどれだけ運動すべき?」とか、「月曜日は何杯コーヒーを飲んでもいい?」と質問すると、アプリは質問に回答していく (上の写真、イメージ)。病院の医師に相談するように、自然言語でアプリに質問する。対象はPathway Genomicsで遺伝子解析を受けた利用者で、将来は病院での適用も計画している。

人工知能でサイバー攻撃を防ぐ

Watson Groupはパートナー企業とも知的アプリの開発を進めている。SparkCognitionはテキサス州オースティンに拠点を置くベンチャー企業で、セキュリティー技術を開発。同社はWatsonの人工知能を利用し、サイバー攻撃対応アプリ「Cognitive Security Insights」を開発中。このアプリは知的なセキュリティー機能を持ち、既存のSIEM (セキュリティー情報イベントシステム) 製品を強化する目的で使われる。アプリは知能ベースのアルゴリズムで、サイバー攻撃を検知し、内容を解析し、対応処置を行う。

g392_ibm_watson_apps_06

上の写真がその事例で、アプリはログファイルから攻撃エージェント「ZmEu」を検出したと警告メッセージを表示。下段には、ZmEuの概要と、このエージェントが攻撃ベクトルである確率 (95%) を表示している。アプリは攻撃エージェントを検出すると、ソーシャルメディ、チャット、ウェブサイトなどの情報から、その内容を把握する。次にWatsonは、攻撃エージェントへの対処法を示す。利用者のウェブサーバーが「Apache」であれば、Watsonは、「Apacheで特定エージェントをブロックする方法」を提示する。

g392_ibm_watson_apps_07

システム管理者はWatsonに対処法を尋ねることもできる。例えば、「どうやってIPアドレスをブロックするのか?」と質問すると、Watsonは知識ベースを検索し、回答を提示する (上の写真)。音声を入力して検索することも可能で、スマホから利用する際は便利だ。運用を始める前、Watsonにユーザマニュアル、製品資料、学術論文などを入力し、ナレッジベースを構築しておく。Watsonはナレッジベースから問題解決法を見つけ出し、システム構成変更など対処方法をアドバイスする。

g392_ibm_watson_apps_08

Jeopardyでの対戦を振り返る

Watsonがクイズ番組「Jeopardy」で歴代チャンピオンを破ったことは記憶に新しい。この対戦は、2011年2月14日から三日間、ニューヨーク州のIBM研究所で行なわれた。ここに特設スタジオが作られ、テレビ中継された (上の写真)。クイズ司会者はAlex Trebekで、回答者はWatsonの他に、Ken Jennings (連続優勝記録保持者) とBrad Rutter (最多賞金獲得者) の三人。この対戦ではコンピュータが人間の知識を上回ることができるかに注目が集まった。

g392_ibm_watson_apps_09

Jeopardyの人気と難しさ

Jeopardyはアメリカの人気クイズ番組で、1964年に始まり、いまだに人気は衰えていない。質問は六つのジャンルに分かれ、歴史、文学、科学、言語、カルチャーなど幅広いトピックスがカバーされる。人気の秘密は質問形式にある。質問は疑問文ではなく肯定文で表示され、ウィットに富んだ表現で、質問の意味を理解するために幅広い知識を必要とする。上の写真は質問例で、「空を飛べ、時に、未成熟な少年を指すこの名前」と問われている。答えは「ピーターパン」であるが、質問を聞き、意味を理解するのに一呼吸かかる。

g392_ibm_watson_apps_10

Watsonのシステム概要

Watsonはスタジオ施設内 (上の写真) に設置され、サーバーはラック10台に搭載された。プロセッサーはPower7で、2,880コアを並列稼動させた。対戦中はWatsonはインターネット接続は禁止され、オフラインで処理を実行。Watsonは事前に、インターネットでWikipediaなど主要サイトの情報をダウンロードしておき、このデータに対して検索処理を実行した。従来の手法は質問文でキーワード検索するが、この方法ではJeopardyの機知に富んだ質問に対応できないことが判明した。事実、上述の質問文で検索すると、結果には医学書などが示され、ピーターパンは登場しない。

DeepQAというインテリジェントな検索

そこでIBMは人工知能の技法を取り入れ、「DeepQA」というインテリジェントな検索方式を開発した。DeepQAは、質問に回答するため、四つのプロセスを経る。最初は「Question Analysis」で、何が問われているかを解析。次は「Hypothesis Generation」で回答候補を生成する。「Hypothesis & Evidence Scoring」では、解答候補が正しいかどうかを検証し、その確度を算定する。最後は「Final Merging & Ranking」で、過去のJeopardyの質問の解析から経験的に正解率を算定する。

つまり、Watsonは解答候補を見つけ、独自の手法で解答候補を評価する。解答候補は百件を超え、これをプロセッサー上で並列処理する。Watsonが参照するデータは200GB程度であるが、10TBのメモリー上で並列処理を実行する。Watsonが参照しているWikipediaなどのデータ量が200GB程度と、意外に小さいのに驚かされる。同時に、3秒以内に解答するため、大容量メモリー上に展開している点も興味深い。

g392_ibm_watson_apps_11

実際の対戦を見て

この対戦をテレビで見ていたが、Watsonが逆転優勝したのは余りにも印象的だった。実は、Watsonの強さを実感したのは、この後に行われた、シリコンバレーでの模擬対戦であった。コンピューター歴史博物館「Computer History Museum」で、Watson説明会が開催された。Watson生みの親であるDave Ferrucciが、システム概要や誕生の裏話を披露した。講演の後で、会場にセットされたJeopardyスタジオで、Watsonとの対戦が行なわれた (上の写真)。挑戦者はStacey Higginbotham (ハイテク記者)と、Robert Walker (ベンチャーキャピタル)で、司会はIBMのEric Brownが務めた。

Watsonはニューヨーク州のIBM施設にあり、リモートでの対戦となった。最初からWatsonの圧倒的な強さで試合が展開した。Watsonの一方的な強さで試合とはならず、途中から両氏は会場参加者を総動員して、ゲームに臨んだ。質問の答えを会場から叫び手助けしたが、それでも結果はWatsonの圧勝に終わった。因みに”獲得金額”は、Watsonが164,000ドル、Walkerが20,005ドル、 Higginbothamが45,789ドルとなった。Watsonは数百人との対戦を征し、その強さを身に染みて感じた。

g392_ibm_watson_apps_12

Computer History MuseumにはJeopardyスタジオが設けられており、ここに立ってWatsonと対戦する気分を味わえる (上の写真)。

ゲームには強いがビジネスで苦戦

Watsonは、Jeopardyで優勝したものの、この技術をビジネスに展開する面で苦戦している。Ferrucciは、WatsonのDeepQA技術を医療、法律、金融の分野に適用し、人間が意思決定する際に、それを裏付けるデータを提示するビジネスモデルを描いていた。IBMは大学病院と共同で、医師が患者への治療法を決定するためのシステムを開発してきたが、ビジネスとしての成功は限定的であった。

人工知能事業に本格参入

IBMは、前述の通り、Watson Centerを開設し、人工知能をクラウドとして提供することで、ビジネス拡大を目指している。いつの時代も斬新なアイディアはベンチャー企業から生み出され、知的なアプリの登場が始まった。IBMはWatsonで10年以内に100億ドルの売り上げを目指している。全社売り上げの1割程度となり、次世代ビジネスの中核を担うこととなる。IBMは1981年にIBM PCでパソコン事業に参入したが、Watson Groupはこれと同等のインパクトがある。人工知能事業が独立したビジネスユニットで展開される。Jeopardy優勝から三年を経て、Watsonがビジネスで活躍できるステージが整った。

Apple Siriに負けるな!ロボットやウエアラブルに頭脳を持たせる技術が登場

November 14th, 2014

音声アシスタント機能「Siri」はは、ヒトの言葉を理解し、指示に従ってタスクを完遂する。Siriがスマホの頭脳となり、自動車への展開も始まっている。ベンチャー企業も”Siri”を開発している。この技術をロボットやウエアラブルに応用すると、音声で操作できる。人工知能は大企業だけの技術ではなく、ベンチャー企業も開発を急いでいる。

g391_witai_01

キーボードを持たないデバイスの操作

この技術を開発しているのは「Wit.AI」というベンチャー企業だ。Wit.AIは、ヒトの言葉を解釈し、意図を把握する技術を開発している。いわゆる自然言語解析で、Apple Siriに代表されるように、スマホやタブレットを話し言葉で操作できる。Wit.AIはキーボードを持たないデバイスに特化して技術開発を進めている。これらデバイスは音声が唯一の入力モードで、ウエアラブル、自動車、スマート家電、ロボット (上の写真、音声指示に従って立ち上がっている様子)、ドローンなどへの展開を目指している。

音声操作の仕組み

Wit.AIは人工知能クラウドで、「音声認識」 (Speech Recognition) と「自然言語解析」 (Natural Language Processing) から構成され、利用者の音声指示から意図を解読する。音声認識とは、音声をテキストに変換する技術で、Wit.AIはオープンソース・ソフトウェア「CMU Sphinx」を利用している。これはカーネギーメロン大学が開発したシステムで、解析の前処理として利用している。自然言語解析とは、非定型な話し言葉を解析し、そこに含まれる命令を把握し、それをマシンが解釈できる形に置き換えるプロセスを指す。

g391_witai_02

発言内容を三種類に区分

具体的には上の写真のようなステップとなる。この事例では、利用者がスマートグラスに対し、「撮影した写真の最新三枚をGoogle+に掲載して」と音声で指示したところ。自然言語解析は、発言内容を三種類に区分する。「Intent」は利用者の意図で、ここでは「掲載する」ことを指す。「Expression」は表現方法で、音声での指示そのものを指す。「Entities」は表現方法の中の変数で、ここでは「撮影順序 (最新)」、「枚数 (三枚)」、「対象物 (写真)」、「ソーシャルメディア (Google+)」を指す。Wit.AIで解析したこれらデータをアプリに入力し、アプリは指示された内容を実行するという構造となる。

g391_witai_03

Wit.AIクラウドを利用する

ウエアラブルやロボット開発者は、Wit.AIクラウドを使って命令を定義する。上の写真がその事例で、「明日朝6時に起こして」という命令を定義しているところ。先頭のボックスに「wake me up tomorrow at 6」と「Expression」を入力し、「Intent」を「alarm (目覚ましを鳴らす)」と設定する。更に、「Entity」を「wit/datetime (日時)」と設定する。これで利用者が「明日朝6時に起こして」と口頭で指示すると、インテリジェント家電が6時に目覚ましを鳴らす仕組みとなる。更に、異なる言い回しの命令多数を追加していくことで、目覚まし時計はヒトの言葉を理解できるように成長していく。

g391_witai_04

スマートウォッチで利用されている

Wit.AIは既に3000社で利用されている。SamsungやPebble (上の写真) はスマートウォッチでWit.AIを利用している。スマートウォッチはキーボードを搭載しておらず、音声でデバイスを操作する。このため、Wit.AIのような機能が必須となる。因みに、Wit.AIはPebbleのオフィスに同居しており、両社は密接に技術開発を進めている。

g391_witai_05

ロボットを音声で操作

Wit.AIはAldebaran Roboticsの小型ロボット「Nao」で利用されている。Aldebaran Roboticsはフランスのロボット開発企業で、ソフトバンクに「Pepper」を供給していることで有名となった。ロボットを音声で操作する時もWit.AIが利用されている。上の写真はそのデモで、開発者 (Roland Meertens) がNaoに「Please shake my hand」と語りかけ、握手をしている様子である。Naoは命令を受けると、それをWit.AIに送信し、クラウド側で解析を行う。その結果がNaoに返され、利用者の意図に従ったアクションを取る仕組みとなる。この他にNaoは「1メートル前進」や「ダンスを踊りなさい」など、多くの命令を理解し、アクションを取ることができる。

スマホアプリを音声で操作

Wit.AIはスマホアプリでも利用されている。これは「M.A.R.A. Running Assistant」というランニングアシスタントで、音声でアプリを操作できる。ランニング中にスマホを取り出さないで、音声で操作できる。ベンチャー企業はSiri同等機能を使ったアプリを開発できるようになった。

g391_witai_06

上の写真はアプリを使って40分のウォーキングを行っているところ。アプリを起動するとマップが表示され、画面をタップして話しかける。「We are going to do a 40 minute walk」と指示し (左側) 測定を開始する。ウォーキングの途中で「How am I doing?」と質問すると、アプリは走行距離、残り時間、ペースを音声で回答する(右側)。「どこまで来た?」というように、異なる聞き方をしてもアプリは正しく回答する。ウォーキングの途中で天気、気温、時刻、場所などを尋ねると、アプリはそれに音声で答える。ウォーキング中に音楽の再生もできる。まるでApple Siriを使っている感覚だ。入力した音声はWit.AIクラウドで解析され、スマホに回答が戻ってくる。クラウドでの処理に多少時間がかかるが、問題なく利用できる。

ベンチャー企業が人工知能に向う

自然言語解析ではApple SiriやGoogle Nowが市場をリードしているが、Wit.AIのようなベンチャー企業から製品が登場している。Wit.AIは両社と比較すると製品完成度はもう一歩であるが、多くの製品で実績を積み改良を重ねている。人工知能はAppleやGoogleだけの技術ではなく、Wit.AIにより、新興企業が幅広く利用できるようになった。ロボットやウエアラブルで大きなブレークスルーが起こる環境が整った。

Amazonは”Siri”搭載スピーカー「Echo」を発表、狙いはスマートホーム!?

November 7th, 2014

Amazonは音声アシスタント機能を搭載したスピーカー「Amazon Echo」を発表した。Amazon Echoはインテリジェントな家電で、音声で操作する。質問すると人間の秘書のように音声で回答する。Amazon版”Siri”をスマホではなく、家電に搭載している点に特徴がある。家電が頭脳を持ち、Amazonのスマートホーム戦略の一端が見えてきた。

g390_amazon_echo_01

音楽を再生しニュースを聞く

Amazon Echoは円筒形スピーカーで、家の中に置いて利用する (上の写真)。Amazon Echoに語りかけ、音楽を再生し、最新ニュースを聞く。検索機能もあり、質問するとWikipediaなどを参照し回答する。Amazon Echoは常にオンの状態で、「Alexa」と呼びかけ、これらの機能を使う。

g390_amazon_echo_02

Amazon Echoをリビングルームに置くと、家族全員で利用できる (上の写真)。「Alexa, play rock music」と話しかけると、Amazon Echoはロックを演奏する。Amazon Echoは7台のマイクを搭載しており、全方向からの音声を聞くことができる。音楽再生中でも、ノイズ・キャンセレーション機能で、指示を聞くことができる。Amazon Echoはスピーカー二基を下向けに搭載しており、360度の方向に音が出て、部屋全体に音楽が流れる仕組みだ。

g390_amazon_echo_03

ショッピングリストに追加

お母さんは料理をしながらAmazon Echoを利用する (上の写真)。「Alexa, how many teaspoons are in a tablespoon?」と質問すると、Amazon Echoはテーブルスプーンはティースプーン三倍分と回答。更に、お母さんは「Alexa, set timer for eight minutes」と八分経ったら教えてと指示する。料理で両手がふさがっている時は音声インターフェイスのAmazon Echoは便利だ。

Amazon Echoはショッピングリスト機能もある。お母さんが「Alexa, add wrapping paper to shopping list」と指示すると、Amazon Echoは包装紙をショッピングリストに追加する。後日、タブレットで更新されたショッピングリストを見ながら買い物ができる。便利な機能であるが、Amazonとしてはこの機能で、オンラインストアーの販売が増えることを期待している。

g390_amazon_echo_04

家族の一員

Amazon Echoは目覚まし時計の機能もある。起床時間になるとサウンドで知らせる (上の写真)。これに対し「Alexa, alarm off」と語りかけ目覚ましを止める。起き上がり「Alexa, give me my flash news briefing」と指示すると、Amazon Echoはニュース (NPR News) を読み上げる。AmazonはAmazon Echoが家族の一員となるストーリーを提示している。

g390_amazon_echo_05

専用アプリから操作

Amazon EchoはスマホやタブレットとBluetoothでペアリングして利用する。Fire OS (上の写真)、Android、iOSブラウザー向けに専用アプリが提供されている。このアプリでアラームのセット、音楽再生、ショッピングリストへのアイテム追加などができる。Amazon EchoはWiFiでインターネットと接続し、家庭のコンセントから給電する。価格は199ドル (Prime会員向けには99ドル) で、販売開始は数週間以内としている。但し、購入にはAmazonからの招待状が必要。

自然言語解析が鍵となる

Amazon Echoはモノがインターネットに繋がれたInternet of Things (IoT) とも捉えることができる。利用者とのインターフェイスは自然言語で、人間の秘書のような役割を担う。この自然言語解析技術が鍵を握る。AppleはSiriを、GoogleはGoogle Nowを、MicrosoftはCortanaを展開している。Amazonはアシスタント機能ではやや出遅れた感がある。Amazonは、2012年10月、「Evi」というイギリス企業を買収した。Amazonからのコメントは無いが、Amazon Echoのアシスタント機能はEviが中心となっていると思われる。Eviは知識ベースとセマンティック検索技術をベースとしたアプリで、音声で質問すると、答えをズバリ音声で返す。Siriのように利用者の場所や時間などを把握し、インテリジェントな回答をする。

g390_amazon_echo_06

EviはiOSやAndroid向けアプリとして提供されている。上の写真はiOS向けアプリの事例で、明日の天気 (左側) と東京時間 (右側) を質問したもので、正しく回答している。Eviはインターネット上で公開されている信頼できる情報を収集し、知識データベースを構築。更に、Eviは自然言語解析で質問の意味を理解し、最適な形式で回答する。因みに「Amazon Echoとは?」と質問すると、「音声で操作するデバイス」であるとして、製品概要を回答した。サイトへのリンクも示し、製品PRも忘れなかった。

スマートホーム事業へのステップか?

Amazon Echoはスピーカーとして機能するが、家庭内の家電と連携すると、新たな展開が生まれる。Amazon Echoからエアコンの温度調整を行い、電燈のオンオフが可能となる。つまり、スマートホームのハブとして機能する。この市場では、Appleは「HomeKit」を発表し、スマートホーム事業を始動した。Googleは傘下の「Nest Labs」でインテリジェントなサーモスタットを開発中。更にNest Labsはスマートホーム新興企業「Revolv」を買収し、開発を加速している。RevolveはGoogle Glassから音声で家電を操作するコンセプトを発表しており、インテリジェントな家電操作がトレンドとなっている。音声アシスタントや人工知能では出遅れた感があるAmazonであるが、Amazon Echoで巻き返しを図っている。