デトロイトの逆襲、FordとGMはハイテク企業になる

February 4th, 2016

Googleが自動運転車を開発し、業界の枠を超えて勝負を挑む。デトロイトの自動車メーカーは、産業構造が変わるのを傍観しているわけではない。Fordはハードウェアメーカーからモビリティサービス企業に転身している。General MotorsはLyftへ急接近し、配車サービス事業を立ち上げる。自動車メーカーはクルマを売るのではなく、モビリティを提供する時代に入ってきた。

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Fordはモビリティーサービス企業

Fordは2016年1月、Detroitで開催された自動車ショー「North American International Auto Show」で新製品だけでなく、会社の基本指針を発表した。CEOのMike Fieldsは、Fordは自動車メーカーからサービス企業へ転身することを明らかにした (上の写真)。「今日がFordが生まれ変わる日で、Mobility Company (移動ソリューションを提供する企業) になる」と述べた。Fordはクルマというハードウェア製造から、ハイテク企業に体質を変えている。(記者会見のビデオなどが公開されている。)

モビリティ構想はハイレベルなコンセプトで、具体的には次の四つの柱からなる (上の写真、背景)。「Marketplace」は移動のためのソリューションを指し、ライドシェアなどのアプリ群がそろっている。「FordGuides」とはサポートセンターで、事故対応だけでなく、オペレーターがドライブのコンシエルジュとなる。「Appreciation」とは会員向けの特典サービスを指す。「FordHubs」はショールームでイノベーションを展示する。

クルマはスマホで操作する

これらのサービスにアクセスするインターフェイスとして「FordPass」が登場した。FordPassは移動のためのプラットフォームで、スマホのアプリとして提供される。FordPassはFordがモビリティーサービス企業に転身する象徴となる。AppleがiTunesで音楽シーンを変えたように、FordはFordPassで移動のコンセプトを変える。提供時期は2016年4月で、Fordオーナーだけでなく、他社メーカーのクルマにも適用できる。

FordPassから前述のMarketplaceを利用する。ホーム画面の「Park」アイコンにタッチすると、スマートパーキングアプリが起動する。ドライバーは駐車場を見つけ、事前に駐車料金の支払いができる。支払いの際は仮想ワレット「FordPay」を使う。Apple Payのように、スマホで支払いができる。クルマを借りるときは「FlightCar」という機能を使う。将来は、ライドシェアリングやカーシェアリング機能が加わる。

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お洒落なショールーム

FordHubsはお洒落なショールームで、ここではクルマを売るのではなく、イノベーションを展示する (上の写真)。Apple Storeをほうふつさせるデザインで、利用者のモビリティーに関する問題を解決する場となる。FordHubsは2016年から、New York、San Francisco、Shanghaiなどに順次オープンする。

GMは配車サービス事業を立ち上げる

General Motorsもハイテク企業としての存在感を増し、Uberのような配車サービス事業を立ち上げる。業界第二位のLyftは、2016年1月、General Motorsより5億ドルの出資を受けたことを明らかにした。自動車メーカーが本格的に配車サービスに乗りだすこととなる。General Motorsは出資するだけではなく、Lyftと自動運転車によるオンデマンド・ネットワークを開発する。Lyftとしては、General Motorsと自動運転技術を共同開発し、Uberにキャッチアップする狙いがある。(下の写真はGM社長Daniel Ammann (中央)とLyft CEO Logan Green (左側)とLyft社長John Zimmer(右側)が揃って写り、両社の結束を象徴している。)

General Motorsは2016年1月、自動運転開発チームを結成し、製品開発を加速している。今までは研究プロジェクトとして自動運転技術開発を進めてきたが、これからは製品開発の一環として位置づける。同社は限定的な自動運転機能「Super Cruise」をCadillac CT6に搭載することを公表している。出荷時期は2017年で、Tesla Autopilotに対抗する製品となる。

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配車サービスに市場を奪われる

Lyftは自動運転車の登場で、自動車ビジネスは車両の販売ではなく、車両ネットワークが中心となると予想する。一方、General Motorsは、UberやLyftの登場で、配車サービスに市場を奪われると危機感を抱いている。消費者はクルマを購入するのではなく、オンデマンドで利用することとなり、クルマの販売台数が落ちるとみている。

しかし、General Motorsは配車サービス事業と競合するのではなく、積極的に事業に取り入れる作戦にでた。この背景には消費者のメンタリティーの変化がある。若者層を中心に、クルマを所有するモデルからオンデマンドで利用するモデルに変わりつつある。この波にのるため、General MotorsはLyftと共同で配車ネットワークを構築する。

Sidecarの資産を吸収

Lyftへの投資と同じ時期に、General Motorsは配車サービス企業Sidecarの資産を買収した。Sidecarは2012年にSan Franciscoで創業したが、UberやLyftに対抗できず、事業停止に追い込まれた。General MotorsはSidecarの資産を買収し、20人の従業員が移転した。従業員は、上述の配車サービス開発に従事することとなる。Sidecarの買収は同社が保有している特許を入手する意味もある。

配車サービスはSidecarが考案し、2012年から事業を始めた。その当時、Uberはハイヤー事業を展開していた。2013年に、Lyftがこのモデルを使った事業を開始し、UberもUber Xで同じモデルで事業を始めた。Sidecarが考案したモデルでUberとLyftが成功し、Sidecarは廃業に追い込まれるという皮肉な結果となった。Sidecarの事業が成功しなかった理由として、Uberが潤沢な資金を背景に、激しい競争を繰り広げたことが挙げられる。Uberはインセンティブを払い、競合他社からドライバーを引き抜いた。この事業は実社会でのスケーラビリティの争いで、大型投資を受けているUberやLyftだけが生き延びれる。(筆者が最初に体験した配車サービスはSidecarで、新しいモビリティサービスにカルチャーショックを受けた。クルマはBMW X5で、信号待ちの時にチョコレートのサービスがあった。この会社が消えていくのは寂しくもある。)

カーシェアリングサービス

Lyftとの共同開発とは別に、General Motorsは独自のカーシェアリングサービス「Maven」を開発している (下の写真)。MavenはNew Yorkで試験運用され、次に、Ann Arbor (ミシガン州) での展開が計画されている。米国ではカーシェアリングサービス「Zipcar」が有名である。Mavenは同じコンセプトであるが、自動車メーカーが展開している点に特徴がある。

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利用者はスマホのアプリから近所に駐車してあるクルマを予約する。クルマに近づくと「Unlock」ボタンを押してドアを開錠する。運転中はコネクティッドカー機能を利用できる。具体的には、OnStar (GMのナビゲーションシステム)、Apple CarPlay、SiriusXM (衛星ラジオ) などが利用できる。ドライブを終えると同じ場所に返し、アプリで「End」ボタンを押す。General Motorsはハイテクを活用した独自サービスの開発に力を入れている。

デトロイトの構想

Gartnerは、2020年までに、都市近郊に住んでいる自動車所有者の10%は、オンデマンド方式でクルマを利用する形態に移ると予測している。都市部では公共の交通機関を使い、都市近郊では配車サービスを利用し、クルマを所有しない形態に移っていく。General Motorsは自動車販売と配車サービス事業を組み合わせたビジネスモデルを描いている。都市部においては配車サービス事業を中心に展開する。それ以外の市場では、従来型の自動車販売事業を継続する。IT業界でコンピューターの販売がサーバーからクラウドに移るように、クルマも所有しない形態に移り始めた。デトロイトのメーカーはハイテク企業に転身し、この流れを捉えている。

ヘッジファンドがAIトレーディングへ動く、FinTechの主戦場は人工知能

January 29th, 2016

ヘッジファンドが人工知能を使った株式売買 (AIトレーディング) の本番運用を始めた。現在でも株取引に人工知能が使われるが、その成績は人間のトレーダーにかなわない。しかし、ヘッジファンドはAIベンチャーと共同で、数多くの仮想トレーダーが人間に代わり投資判断をするシステムを開発した。

ヘッジファンドの動向

この分野では取引手法が公開されることは稀であるが、投資銀行大手「JPMorgan Chase」のヘッジファンド部門が、AIトレーディングを導入したといわれている。ヘッジファンドは資産運用を目的とするが、富裕層や機関投資家から資金を募り、アグレッシブな手法で投資する。投資信託などと比較して、法規制の制約が小さく、投資判断で裁量の幅が広い。ヘッジファンドはリスクを取り、大きなリターンを目指す。このため、他社に先行して先端技術を取り入れる傾向にある。

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ヘッジファンドの投資手法

ヘッジファンドは二つの投資手法を使う。一つは「Discretionary Trading」と呼ばれ、ファンドマネジャーが自身のスキルで投資判断を下す。もう一つは「Systematic Trading」と呼ばれ、ファンド運用でコンピューターモデルを使う。Systematic Tradingは投資判断をアルゴリズムやシステムで実行する。大規模な統計モデルを構築し、市場の動きを予測する。具体的には、どの資産が値上がりするか、また、値下がりするかを予測し、これに応じて売買を判断する。

両者は際立った特徴がある。Discretionary Tradingはファンドマネジャーが適切に運用するとリターンが大きい。Systematic Tradingは、人間の感情が入り込まないため、安定した投資手法であが、その代わりリターンも大きくない。上のグラフがそれを示しており、2014年はSystematic TradingがDiscretionary Tradingのリターンを上回ったが、それ以外のケースではすべて下回っている。現在のアルゴリズムでは人間のトレーダーに勝てないことを示している。

世界最大規模の人工知能

しかしこの情勢が変わりつつある。Sentientはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業で、大規模並列システムで人工知能ソフトウェアを稼働させる技術を開発した。同社は、Googleをしのぐ、世界最大規模の人工知能システムと主張する。Sentientは数十万台のコンピューターを連結し、仮想的に一台の巨大システムを構成する。これらのコンピューターは、データセンター、ゲームセンター、サービスプロバイダーの空き時間を利用する。Sentientはコンピューターを連結することで、最大100万コアを稼働させることができる。この並列システムはAdam Bebergにより開発された。Bebergは並列プロジェクト「Distributed.net」の創設者で、この技術は後に、地球外生命体探査研究「Seti@Home」で利用された。

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人工知能アルゴリズムの進化

Sentientのもう一つの特徴は人工知能アルゴリズムにある。これは「Evolutional Computation (EC)」と呼ばれる機械学習で、アルゴリズムは植物が進化するように、世代を重ねるごとに進化を遂げる。ECは、最初のステップで、数多くのアルゴリズム (これを「Agent」と呼ぶ) を生成する (上の写真左側)。Agentは与えられた問題に対する解法であるが、それぞれ少しだけアルゴリズムが異なる。次のステップでは、システムは教育データを使ってAgentを評価する (上の写真中央)。実際にデータを読み込ませ、その解を検証する。この中で成績のいいAgentが選ばれ、次のステップに進む。ここでは一握りのAgentだけが残り、ほとんどが消えることになる。

次のステップでは、選ばれたAgentをベースに次世代のAgentが生成される (上の写真右側)。この世代は、初代Agentの”遺伝子”を受け継ぎ、それを改良していく。このステップが100万回以上繰り返され、生物が進化するように、Agentも改良されていく。システムは問題解決に向け収斂していき、この進化のプロセスを大規模並列システムが支えることになる。

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アルゴリズムの進化を株取引に応用

この技法に着目したのが前述のJP Morgan Chaseだ。同社のヘッジファンド部門「Highbridge Capital Management」 (上の写真) は、SentientとAIトレーディングシステムを共同開発し、すでに2015年から運用している。システムは人間が関与することなく、自律的に稼働する。システムは投資戦略を立て、人間のトレーダーに投資の指示を出す。具体的には、銘柄を指定し、買いの指示を出す。その際に、購買条件や購買方法についても指定する。売りについても同様で、特定銘柄を示し、また、ポジションを下げるなどの指示を出す。

Sentientは株式投資で数多くの「仮想トレーダー」を生成する。この仮想トレーダーが上述のAgentにあたり、進化を繰り返し、成績を上げていく。具体的には、仮想トレーダーに過去の株式取引データを読み込ませ、その性能を測定する。成績のいい仮想トレーダーを選別し、そのアルゴリズムをもとに、次世代の仮想トレーダーを生成する。このプロセスを数千回繰り返す。このプロセスでは、仮想トレーダーは10の24乗 (1兆 x 1兆) 個以上生成される。最終的には、進化した仮想トレーダーが自律的に取引できるレベルとなる。このシステムがJP Morgan Chaseで運用されているが、運用成績などは公表されてなく、実態は闇に包まれている。

Deep Learningアルゴリズム

AIトレーディングの代表的な手法はDeep Learningを使ったアルゴリズムである。Deep Learningは写真や文章から特定のパターンを検出する能力が突出している。ツイートから株価に影響する特定の事象を検出し、それをもとに、投資判断を実行するシステムが開発されている。しかし、Deep Learningのアルゴリズムはコモディティーになり、多くの投資家がこの手法を採用し、差別化が難しくなってきたともいわれる。

これに対してSentientは、Deep Learningのパラメーターを最適化するだけでなく、ネットワーク・アーキテクチャー自体をも最適化することを目指している。この手法にも前述のEvolutional Computationを応用する。この手法は一般に「Neuroevolution」と呼ばれ、機械学習の一手法で、ニューラルネットワークを進化させる。生物が生成、変異、選択を繰り返し進化するように、アーキテクチャーも問題に対して進化する。この手法はまだ開発中で、その成果が注目されている。

常に進化が求められる

一方、AIトレーディングを株式市場に適用することに疑問を表明する人も少なくない。Neuroevolutionなどの手法を使い大きなリターンを得ることができても、他社がそのアイディアを模倣する危険性があるためだ。ヘッジファンドの多くが同じ手法を導入すると、利益を生みにくい構造となる。ちょうどHigh Frequency Trading (超高速取引) が幅広く普及し、一般的な手法では利益を生みにくい状況と似ている。株式売買では人工知能を含むコンピューター技術で不断の進化が求められる。

ダボス会議はAI兵器使用禁止で合意、しかしその研究開発は進む

January 22nd, 2016

「World Economic Forum (世界経済フォーラム)」 の年次総会 「ダボス会議」が2016年1月20日から23日まで、スイス・ダボスで開催された。分科会では人工知能やロボットを含むテクノロジーに関する議論が展開された。その中でも「What If: Robots Go to War? (ロボットが戦争に行くとどうなる?)」と題して、AI兵器についての議論が話題を呼んだ。

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AI兵器は人間の介入なく攻撃

討論会の模様はビデオで公開されている。学識経験者、国防企業代表、NGO代表が、それぞれの立場から見解を述べ、議論が交わされた。AI兵器使用禁止では全員が合意するものの、その解釈や開発の規制については、意見に大きな隔たりがある。

英国の国防企業「BAE Systems」のRoger Carr会長は、兵器製造企業の観点からAI兵器について述べた。兵器は三段階に区分でき、第一階層は実務ロボットで地雷除去作業などを実行する。第二階層はAIを使うが、人間の判断をシステムが補助する。AI兵器は第三階層に区分され、兵器が人間の介入なく攻撃を実行する。具体的には、AI兵器が自律的に、目標を認識し、それに照準を合わせ、実際に攻撃する。(これは「Fully Autonomous Weapons」と呼ばれるが、ここでは「AI兵器」と記載する。)

英国政府はAI兵器の使用を禁止

Carrは、AI兵器の倫理的・道徳的問題について指摘した。AI兵器は責任の意識はなく、心情的な側面からは、相手に同情するという感覚はない。平時でも戦時でも、AI兵器は人間の感覚からかい離した存在となる。BAE Systemsと英国政府は、兵器が、人間の関与なしに、何を、何処で、如何に攻撃するかを決定することは許されないとしている。一方で、政府がAI兵器について社会を引っ張っていくことは困難であるとの見解も示した。立法府の関係者はAI兵器の問題点や仕組みを完全に理解している分けではなく、関係者に対する教育の取り組みが必要であると結んだ。

国連での議論の進み方が遅い

軍縮に関するNGO「Vienna Center for Disarmament and Non-Proliferation」のAngela Kaneは、AI兵器が容易に製造できることに対し懸念を表明した。原子爆弾製造では、素材の入手など、複雑なプロセスが必要だが、ドローンベースのAI兵器の開発では、ハードルが一気に下がる。誰でも簡単に、大量破壊兵器を開発できる問題が生まれてきた。

AI兵器の開発制限について、国際連合の分科会「The Convention on Certain Conventional Weapons」で議論されている。しかし分科会の議論の進展は遅すぎると厳しく指摘した。この理由として、分科会加盟国の多くはAI兵器についての理解が進んでいないためで、ここでもAI兵器に関する啓もう活動が必要だと指摘した。

ロボットはまだ未熟

AI兵器に対する脅威論が続く中で、異なる見解を示す人もいた。University of the West of EnglandのAlan Winfield教授は、ロボットが戦場で使われるまでには時間を要するとの見解を示した。ロボットが何を攻撃するかという意思決定ができると、ロボットは「Moral Agent」となる。Moral Agentとは、人間のように善悪の判断ができる存在で、罪を犯すと罰が課される。人工知能がMoral Agentとなるには100年はかかるとの予測を示した。今は人間が全ての責任を持つべきで、ロボットにそれを求めることはできないとしている。ロボットと人間の間には明確な境界線「Red Line」があるとしている。

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AI兵器の基礎技術

これに対し人工知能の専門家からは、AI兵器が登場するのは時間の問題であるとの見解が示された。University of California, BerkeleyのStuart Russell教授は、AI兵器を構成する要素技術はすでに身の回りに存在すると指摘する。具体的には、自動運転技術、チェスのアルゴリズム、ドローンで、これらを組み合わせると、ドローンベースのAI兵器の開発ができるとする。

実際に、米国国防省のDARPA (アメリカ国防高等研究計画局) で、ドローンベースのAI兵器が開発されている。「Fast Lightweight Autonomy (FLA)」というプロジェクトでは、市販のドローンを使って、市街地や施設内部をクラスターで飛行する技術を開発している。指令センターとの交信やGPSによる飛行ルートの設定はなく、ドローンが群れを成し自律的に飛行する。このプロジェクトではDJI社の「Flame Wheel ARF KIT」等が使われている。

Collaborative Operations in Denied Environment (CODE)というプロジェクトでは、ドローンの共同自律飛行のための技術を開発している (上の写真)。ドローンとの交信を絶たれても、ドローンは人間の指示を受けないで、自律的に各ステップを実行し、攻撃を遂行する。異なる機種のドローンを組み合わせ、共同でミッションを完遂する。オオカミが群れを成し共同で獲物を狙う作戦を模している。

AI兵器開発は巨大産業

討論会には参加していないが、国際的なNGO「Campaign to Stop Killer Robots」はAI兵器禁止運動を展開している。このNGOによると、AI兵器は40か国で開発され、200億ドルの市場を形成している。実際にAI兵器を開発・試験している国は少なくとも6か国ある。これらは米国、英国のほかに、中国、イスラエル、韓国、ロシアとしている。

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米国では、国防省のプロジェクトのほかに、民間企業が本格的なAI兵器を開発している。Northrop Grummanは無人戦闘機「X-47B」を開発中 (上の写真)。航空母艦から発着する無人戦闘機で、2011年に初飛行を行い、現在二機で試験飛行を繰り返している。X-47Bは「Unmanned Carrier-Launched Airborne Surveillance and Strike (UCLASS)」として位置づけられ、艦載機として自律的に艦船を攻撃することを目指す。

英国ではBAE Systemsが無人戦闘機「Taranis」を開発している。Taranisは、大陸をまたがる長距離飛行ができ、レーダーに捕捉されにくい構造をしている。Taranisは地上から遠隔操作で飛行する。2013年に初飛行を行い、2030年に実戦に配備される計画で開発が進められている。前述のRoger Carrがこの会社の会長を務めている。

AI兵器の本当の問題

討論会の議論が象徴しているように、人間が関与しないAI兵器については展開すべきでない、との共通認識が企業や政府でできつつある。AI兵器が市街地を飛び回り、自律的に対象を攻撃するというシーンは現実的でない。しかし、このNGOはAI兵器の使用で、人間がどの程度関与するのかについては、不透明な点が多いと指摘する。人間がどのようにAI兵器に関与するかが問われている。

AI兵器は人間のように判断ができるのかも問題となる。刻々と情勢が変わる戦場で、AI兵器は状況を把握し、倫理的な判断ができるかが問われている。更に、AI兵器は戦場で、戦闘員と民間人を区別できるのか、疑問の声も聴かれる。

AI兵器は責任問題が明瞭でないという点も指摘されている。AI兵器が問題を起こしたとき、その責任はだれに帰属するのかが不明瞭だ。AI兵器を運用する司令官か、それを開発したプログラマーや製造会社か、それともAI兵器そのものに責任があるのか、議論が続いている。自動運転車が事故を起こした際の責任の所在が不明瞭なように、AI兵器でも同じ問題が議論されている。

第三世代の破壊技術

開発者の間では人工知能の軍事利用に危機感が広がっている。アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された人工知能学会で、人工知能を搭載した軍事兵器の開発を禁止すべきとの書簡が公開された。書簡は人工知能研究者やロボット開発者が共同で執筆し、業界著名人ら多数の署名を集めた。AI兵器は高度なインテリジェンスを持ち、火薬、原子爆弾に続く第三世代の破壊技術といわれている。AI兵器への危機感は高まるものの、その研究開発は進み、規制の動きは芳しくないのも事実である。

第四次産業革命に突入、ダボス会議は大失業時代が到来すると警告

January 15th, 2016

「World Economic Forum (世界経済フォーラム)」 の年次総会 「ダボス会議」が2016年1月20日から23日まで、スイス・ダボスで開催された。今年の主要テーマは「Fourth Industrial Revolution (第四次産業革命)」で、テクノロジーの社会への影響が議論された。「今までに経験したことのない時代に入りつつある」との認識が示されたものの、「その実態は不明な点が多い」とも述べている。特に、テクノロジーの進化が労働者の職を奪うことになり、大失業時代に備えた対策が必要であると警鐘を鳴らしている。

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The Future of Jobs」

世界経済フォーラムは将来の雇用についての報告書「The Future of Jobs」を公開した。この報告書は、世界は第四次産業革命に入りつつあるとの認識を示し、人事採用、技能、労働力はどうあるべきかを論じている。ビジネスの破壊的な変化で雇用情勢が劇的に変わるとし、新しい職業が生まれると同時に、従来の職業がなくなるとしている。いま小学校に入る子供の65%が、いまは存在しない職業に従事するとも述べている。

報告書は、新しい時代に求められる技能や職種や人事採用に対応するために、企業や政府や個人は時代の流れに乗ることを求めている。つまり、対策を講じないと大量の失業者が生まれ、深刻な社会問題を招くと警告している。この報告書は2020年までの雇用について論じている。報告書は先進国と新興国の371社のChief Human Resources Officers (採用責任者) のアンケートをもとに構成されている。

産業革命の定義

世界経済フォーラムは産業革命を次の通り定義する。第一次産業革命では、家畜に頼っていた労力を蒸気機関など機械で実現した。第二次産業革命では、内燃機関や電力で大量生産が可能となった。第三次産業革命では、コンピュータの登場でデジタルな世界が開けた。第四次産業革命は、現在進行中で様々な側面を持ち、その一つがデジタルな世界と物理的な世界と人間が融合する環境と解釈している。(ここで述べられる第四次産業革命は、Industry 4.0で使われる用語より幅広い意味を持つ。)

第四次産業革命では、今までバラバラに開発された技術が、いまお互いに影響を及ぼしている。具体的には、人工知能、機械学習、ロボティックス、ナノテクノロジー、3Dプリンター、遺伝子工学、バイオ技術が、お互いに影響しあい技術進化を加速させる。また、スマートホームやスマートシティーなどは地球温暖化の問題解決に貢献する。

大量の失業者が生まれる

報告書は2015年から2020年の間で、失われる仕事と新しく誕生する仕事を分析している。先進国と新興国で710万人の雇用が失われ、200万人の雇用が創出され、差し引き510万人が失業すると分析している。(下のグラフがそれを示す。左側が雇用が失われる職種で、右側が増える職種。) 雇用が失われる最大の職種は「Office and Administrative」で、ホワイトカラーの事務職としている。他に製造業や建設業も雇用数が大きく減るとみている。一方、ビジネス・経理、会社経営、コンピュータ・数学などで雇用が増えると予測している。

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大量の失業者を生む理由

報告書はテクノロジーが失業者を生む理由と分析する。雇用を減らす最大の要因は、モバイル・インターネットとクラウド、及び、ビッグデータとしている。2015年から2017年にかけては、新エネルギー、Internet of Things、高度製造技術(3Dプリンター)が主因となる。2018年から2020年にかけては、ロボット・自動運転車、人工知能・機械学習、高度製造技術が職を奪うと分析する。今は人工知能や自動運転車やロボットの開発がピークであるが、雇用に影響が出るのは2018年からということになる。

求められる職業

一方で、報告書は、この期間で求められる職種についても分析している。一番求められる職種が「Data Analysts」で、大量のデータを分析し、そこから知見を引き出すアナリストが求められている。技術が劇的に進化し、大量のデータが蓄積され、この有効活用が求められている。次は「Specialized Sales Representatives」で、特殊技能を持つ営業となる。技術進化が進む中、顧客企業や官公庁に、革新的な製品の内容を的確に伝える技能が求められている。

今すぐ失業対策が必要

報告書は、雇用の将来動向の見解については、二極分離する傾向があるとしている。あるグループは、新たに誕生する職種は労働者をルーチンワークから解放するとし、大きな期待を寄せている。別のグループは、テクノロジーにより大失業時代が到来すると考える。先の産業革命では新しい職種のための教育システムを構築するのに数十年を要した。多くの職種がコンピューターで置き換わり、大量の失業者を生んだ。第四次産業革命は高速で技術革新が進み、今すぐに対策が必要であるとしている。

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具体的な提言

政府や企業は、短期的には、労働者を新しい労働環境に移行する措置が必要で、長期的には将来求められるスキルを担った人材の育成が必要となる。この対策を取らなければ、大量の失業者が生まれ、企業の事業が縮小していく。政府は人材の教育に加え、労働市場に対する指針を示し、労働関連法令を改定していく必要があるとしている。つまり、社会のパラダイムが変わり、大量の失業者を生むが、再雇用のチャンスを与えるためのシステムを構築することに尽きると解釈できる。

短期的な対策

人事機能を根本から変える必要があるとしている。企業が新しい環境で事業を展開するためには、新しい人材が必要となる。人事は解析ツールを活用し、必要な人材を見つけ、企業に欠落しているスキルを埋める。また、データ解析(Data Analytics)の活用を促している。企業や政府は新しい環境に適応するために、人材の採用計画や管理が求められる。将来予測や計画のためにデータ解析ツールが重要となる。

長期的な対策

教育システムの改善が何よりも必要と結論付けている。現在の教育システムは二つの大きな問題を抱えている。一つは、大学は人文科学と科学工学に分かれており、純粋な学問を学ぶ場として機能する。もう一つは、著名専門学校は実質的教育よりも卒業証書に重点を置く。つまり、両者とも激変している社会に対応できる教育を提供できていないと、報告書は指摘する。更に、生涯教育の必要性を強調している。これは一生にわたり教育を受けるという意味ではなく、我々は生涯にわたり新しいスキルを習得し、産業に貢献する必要がある、ということを示す。特に、日本のように急速に高齢化社会に向かう国は、シニア層も新しいスキルを身に付け、労働市場に参加すべきとしている。

国家レベルの対策が必要

報告書を一言でまとめると、テクノロジーの進化で社会が激変しているが、その実態はつかめていない。しかし、テクノロジーが人間の職を奪い大失業時代が到来することは確実だ。政府や企業や個人は、教育を通してこの荒波を乗り越える必要がある、ということになる。世界経済フォーラムは、国家レベルの対策が必要で、各国に今すぐにアクションをとることを求めている。

人事部門は機能していない!?人材採用はヒトからアルゴリズムに移る

January 7th, 2016

「人事採用部門は機能していない」と言われている。米国の事例であるが、企業が社員を採用する時は、責任者が応募者の中から最適な人物を選ぶが、多くのケースで先入観や偏見が紛れ込む。人間だと公平な人事採用が難しいと言われ、人工知能による評価手法に注目が集まっている。

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Googleも多様性問題を抱える

多くのレポートで、社員が男性や特定の人種に偏らず、女性や多人種が活躍している環境でイノベーションが生まれることが報告されている。しかし実情は、企業は多様性に関し深刻な問題を抱えている。Googleも例外ではなく、男性偏重の社員構造となっている。役員総数は14人で、そのうち4人が女性である。また、社員の男女構成比率をみると、女性社員の割合は30%と、米国人口構成 (女性人口は51%) と比較して、著しく低い (上の写真、左側のグラフ)。もう一つの問題は人種構成で、白人が60%を占め、黒人は2%と、全国平均12%を大きく下回る (上の写真、右側のグラフ)。

ビッグデータや人工知能を活用

Googleを筆頭に、米国企業で性別や人種による偏りを是正する試みが始まっている。ベンチャー企業からは、採用プロセスを効率化するソフトウェアの登場が相次いでいる。ビッグデータや人工知能を活用し、アルゴリズムで人間より効率的に人事採用を実施するツールが話題となっている。多くの企業で試験的な導入が始まり、その効果が注目されている。これにより、人事採用の時間が短縮され、コストが下がるだけでなく、職種に最適な技能を持った人材を発掘できる。更に、多様性問題を解決する強力なツールとなると期待されている。

募集要項テキストを最適化

いま注目を集めているのは「Textio」というベンチャー企業だ。シアトルに拠点を置き、機械学習や言語解析機能を使い、人事採用の募集要項テキストを最適化する。Textioによると、募集要項に不適切な表現が紛れ込み、これが優秀な人材の採用を妨げている。例えば、女性に不利な文言が記載され、これが多様化を進める上での障害となる。企業が公開している募集要項の中には、25,000にのぼる不適切な用語が含まれている。Textioは、募集要項作成中に、これら用語をリアルタイムで指摘し、別な言葉で置き換えるよう促す。Textioは1万社のデータを使い、機械学習の手法でシステムを改良してきた。

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重要なフレーズをハイライトする

Textioは「Smart Word Processor」として機能する。利用者が募集要項をタイプするに従って、リアルタイムで特長と問題点を解析する。重要なフレーズは色分けしてハイライトされ、そこにカーソルをあてると、Textioの評価が表示される (上の写真)。この事例では水色でハイライトされた言葉「rock star」にカーソルをあてたところで、警告メッセージが表示されている。これによると、「『rock star』という言葉は男性に好まれる表現で、『high performer』などニュートラルな言葉を使う」よう指導している。水色のハイライトは、男性にバイアスした表現を示す。

他に、赤色でハイライトされた言葉は問題点を示す。例えば、「ultimate synergy」という言葉にカーソルをあてると、「これは業界用語であり、使わないように」と警告メッセージが表示され、この代わりに「『powerful harmony』を使う」よう指示される。反対に、緑色でハイライトされた言葉は適切な表現で、「ポジティブな表現で応募者が増える」などと評価される。積極的に使っていくことが奨励される。

この他に、言葉の繰り返しや文章の長さについての指摘もある。システムは1つの文章に含まれる単語の数を棒グラフで示し、その数を13-17にするよう指導している。これら要素を総合判断して、Textioは募集要項のスコアーを算出する。上の写真の事例では、100点満点中36点で、「標準以下」と評価されている。責任者は指摘された問題点を修正し、テキストの品質を上げ、優秀な人材に応募してもらうプロセスとなる。

ジェンダーニュートラル

Textioは募集要項が「gender-neutral (性的に偏りがない)」ことを重要視している。システムは、男性または女性にバイアスしている表現を見つけ、その改善方法を提示する。前述の通り、男性にバイアスしている言葉は水色でハイライトされる。このような表現が多いと、女性の応募者が少なくなる。一方で、女性にバイアスしている言葉は桃色でハイライトされる。更に、システムは、募集要項の表現が男女どちらに偏っているかをグラフで表示する (上の写真、画面左下)。このケースでは大きく男性に偏っていると判定されている。

Textio創設者Kieran Snyderは、募集要項の中には、女性が敬遠する言葉が数多く含まれていると指摘する。上の事例の水色でハイライトされた部分で、軍隊用語やスポーツ用語ながどそれに該当する。具体的には「Mission Critical」という言葉を挙げ、意識しないで使うが、これは軍隊用語で女性からは敬遠されると指摘する。Snyderは職種により、ジェンダーバイアスが顕著であるとも述べている。Textioは多くの募集要項を評価してきたが、アシスタントの募集要項は女性にバイアスし、管理職クラスの募集要項は男性にバイアスしている。また、業種によりジェンダーバイアスの度合いが異なるとも指摘する。その中で、男性に偏っている職種は、情報通信(IT)と金融である。これは米国企業の統計情報であるが、日本企業でも同じ傾向があるかもしれない。

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アルゴリズムの問題点

人工知能のアルゴリズムで人材を採用することに対し疑問の声も聞かれる。アルゴリズムは、熱意に溢れ、手際よく仕事をこなす人材を、果たして見つけることができるのか。また、人を選ぶ時の大きな要因は、直観やフィーリングや相性などで、このメンタルな要素をアルゴリズムはどう判断するのか。Textioなどはデータ分析ツールとして開発され、科学的な見地から問題点を把握する。今のアルゴリズムには限界があり、人間の直感とアルゴリズムのデータ解析を併用するのが現実的な使い方となる。アルゴリズムの結果を参照し、最終的な判断は、勿論、人間が下すことになる。

女性が活躍できる日本企業へ

スイス大手銀行Credit Suisseから、興味深いレポートが発行されている。これは、性別多様性 (Gender Diversity) が企業業績にどう関係するかを解析したもので、男性中心の企業に女性が入るとどんな影響があるかを、世界3000社を対象に調査した (上の写真)。その結果、女性役員の数と企業業績は連動することが分かった。女性役員が増えると、企業収益と株価時価総額が向上するという結論となった。

このレポートは、日本女性の社会進出が遅れていることも指摘している。具体的には、世界主要50か国中、日本の女性役員数の割合は49位である。女性の社会進出は世界の中でボトムであると指摘している。トップはノルウェーの39.7%で、日本は1.6% (いずれも2013年統計) となっている。ちなみに最下位はパキスタンの1.5%。ショッキングなデータであるが、置かれた位置を認識し、改善の必要を改めて認識させられる。政治や経済や文化など多角的な対策が必要だが、人事採用アルゴリズムなど情報通信技術も重要な役割を担うことになる。