Goldman SachsがFintechへ逆襲、これからの銀行はハイテク企業!

August 14th, 2015

米国で銀行がFintech (ITベースの金融サービス) ベンチャーに侵食されている。銀行側は事態を静観している訳ではなく、名門投資銀行Goldman Sachsは逆襲に転じた。同行はFacebookよりハイテクな会社と言われ、銀行の体質を大きく変えている。更に、Uberなど新興企業に幅広く投資し、ベンチャーの手法を学んでいる。米国経済の中枢を支えるGoldman Sachsが次世代の銀行の姿を示す。

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株主総会をサンフランシスコで開催

Goldman Sachsは、2015年5月、株主総会を本社のあるニューヨークからサンフランシスコに場所を変えて開催し、地元で話題となった。今回が二度目のケースで、会長兼CEOのLloyd Blankfeinは、「銀行にとって一番重要な場所はシリコンバレー」と、その理由を説明した。「役員をこの地に連れてきて、何が起こっているかを身をもって体験させる」とし、経営陣のマインドセットをテクノロジーに転換する狙いを示した。技術系企業だけでなく銀行にとっても、シリコンバレーで生まれる技術やカルチャーが大きな意味を持つことを示している。上の写真は、株主総会を開催したビルで、Goldman Sachsがオフィスを構えている。ここはBank of Americaの旧本社ビルで、今でも「Bank of America Center」と呼ばれている。(現在はノースカロライナ州に移転。) 多くの銀行がオフィスを構え、この地区は「Financial District」と呼ばれ、サンフランシスコの金融街を形成している。

テクノロジー企業でないと生き延びれない

Blankfeinは「Goldman Sachsはハイテク企業」と公言している。同行は投資銀行であるが、そのコア・コンピテンシーはテクノロジーであることを意味する。事実、同行の社員数は35,000人で、そのうち9,000人がエンジニアだ。Facebookの社員数が1万人で、Goldman Sachsはそれに匹敵する技術力を持つ。この発言は、銀行はテクノロジー企業でないと生き延びれないという意味で、Goldman Sachsのロードマップを示している。

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ベンチャー企業を社内に招く

それでは9,000人のエンジニアがディスラプティブな技術を開発したのかという質問に対しては、Blankfeinの言葉は歯切れが悪い。各部門で技術開発が急ピッチで進められているが、まだ目に見える成果はない。しかし、Goldman Sachsが転身していることを示す興味深い事例がある。同行はFintech企業を社内に招聘し、共同開発という形式で、ベンチャー企業の手法やスピリットを学習した。

具体的には、人工知能ベンチャー「Kensho」をGoldman Sachsに招き、共同開発を実施。Kenshoはデータ解析ソフトウェアを開発しており、株取引の自動化システムへの統合を目指している。Kenshoは株式市場、気象、選挙、戦争、自然災害など、ビッグデータを解析し、株式売買の判断をサポートする。トレーダーはKenshoの解析データを参照に取引する。

このためKenshoは、実際の株取引で発生するデータを読み込んで試験する必要がある。Goldman Sachsは、Kenshoに同行のシステムにアクセスすることを認め、開発を全面的にサポートした。法令の規定により、顧客データや機密データにはアクセスできなかったが、Kenshoはトレーディングシステムに統合するための貴重な情報を得た。

Kenshoの開発が完了すると、Goldman Sachsがこのシステムの顧客となるというストーリーも描かれた。Kenshoにとっては事業展開の絶好の機会となる。一方、Goldman Sachsとしては、ベンチャー企業を社内に招くことで、技術開発の手法や、開発者たちの考え方を学習した。Goldman Sachsのエンジニアにとって、Kenshoが変革への起爆剤となった。上の写真はGoldman Sachsのオフィス内で、両社エンジニアがパーカーを着て記念撮影をした模様。厳格な社風が変わりつつあることをパーカーが象徴している。

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Fintechベンチャーへの投資

Goldman Sachsのもう一つの戦略は、Fintechベンチャーへの積極的な投資である。上述のKenshoには4780万ドル投資し、会社経営を支えている。Google Venturesなど大手ベンチャーキャピタルも出資しているが、Goldman Sachsが実質的な親会社となっている。Goldman Sachsは、Kenshoの他に、人工知能ベンチャーに集中的に投資している。具体的には、「Antuit」、「Context Relevant」、「DataFox」など、ビッグデータ解析技術に焦点を絞っている。また、決済技術ベンチャー「Square」や「BillTrust」などへの投資を進めている。上の写真はSquareの最新リーダー「Square Contactless +Chip Reader」で、NFC機構を備えApple Payに対応している。

投資の目的はベンチャーの手法を学習すること

Goldman Sachsの投資先をみていくと、Fintechを超える大きな構想が浮き上がる。Goldman Sachsは、2009年から積極的に投資を始め、累計132ラウンドに参加。ここ2年半は投資のペースが上がり、77ラウンドに参加。ここにはUber、Dropbox、Pinterest、Spotify、Squareなど、時価総額が10億ドルを超える企業が含まれている。これらはSquareを除き金融サービスとは無関係で、運輸、クラウド、ソーシャルメディア、音楽分野の企業となる。これら業界でもディスラプティブな技術が登場し、従来型企業の存続が危ぶまれている。

Goldman Sachsがこれら分野に投資する目的は、リターンを得ることではなく、先端技術と関わることを目的としている。具体的には、これら市場で生まれる新技術を学び、既存産業を破壊するビジネスモデルを理解することにある。米国経済を支えるGoldman Sachsとしては、クライアント企業をリードしていくためにも、産業を破壊する技術を第一線で把握するという使命を担っている。

Fintechをどう評価する

Goldman SachsはFintechをどのように評価しているのか、興味深い発言がある。同行Global Investment Research責任者Heath Terryが、Fintechに関する見解を公表した。因みに、Goldman Sachsは、Fintechという用語は一切使用しないで、多くの場合「Shadow Banking」と表現する。本来、Shadow Bankingとは規正法の対象となっていない金融機関を示す用語として使われる。Goldman Sachsは、Shadow Bankingとして表現することで、Fintechが”未公認”金融機関であることを強調する狙いがある。このレポートでは用語を統一し、Fintechと記載している。

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Fintechが誕生した背景

米国でFintechが登場したのは、リーマンショック (Financial Crisis、世界金融危機) が引き金となった。これ以降、米国政府の規制が強化され、銀行の活動が大幅に制限されてきた。更に、銀行の社会的な信用度が低下し、ここにぽっかりと大きな空白地帯が生まれ、Fintechベンチャーが登場した。

Facebookの株式公開もその要因として挙げている。ソーシャルネットワークが巨大ビジネスになることに刺激され、ベンチャーキャピタルは次のFacebookを探した。そこで狙いをつけたのが金融産業で、多くの金融新興企業に資金を投入した。この結果、Fintechベンチャーが数多く登場し、次のGoogleやFacebookを目指し、革新的な技術を開発している。Fintech分野への投資金額は、2014年度が122億ドルで、前年から3倍以上に拡大した (上の写真)。このうち米国市場は99億ドル (棒グラフのオレンジ色の部分) と、Fintechが米国に集中していることも分かる。

銀行がFintechに苦戦する理由

銀行がFintechに苦戦する理由についても述べている。銀行は米国政府の法規制が重い足かせになっている。金融危機以降、規制が大幅に強化され、銀行はより厳格な資本の定義が求められ、融資のために十分な資金を有しておくことが義務付けられた (「Basel III」という法令などの規定による)。同時に、Fintechの優位性はテクノロジーであることも認めている。特に大規模データ (ビッグデータ) とアルゴリズム (人工知能) に着目しており、Fintechは潜在顧客を特定する技術や特定領域での予測モデル (ローン審査など)で優れている。更に、Fintechは店舗を持たず、顧客獲得のコストを低く抑えられるなどの特長がある。規制法とテクノロジーで銀行が苦戦していることが分かる。

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銀行が脅威に感じるFintechベンチャー

更に、Goldman Sachsが注目しているFintechベンチャーについて述べている。企業名は出さなかったが、脅威に感じる技術を公表した。一つは「Socialization」で、金融サービスの普遍化を意味する。富裕層だけでなく、一般消費者も自由に資産管理などを利用できるようになった。もう一つの意味はソーシャルネットで、金融情報を消費者が共有する。これはピアツーピア送金「Venmo」を念頭に置いている。Venmoは手数料ゼロで送金できるだけでなく、若者世代はお金の貸し借りについても書き込み、広く世間に公開する。上の写真がその事例で、Venmoアプリには、お金の貸し借りの情報が氾濫している。このソーシャル機能が若者層を惹きつける。

二つ目は「Transparency」で、これは文字通り透明性を示す。これはピアツーピア融資「Lending Club」を念頭においている。債務者の状況やデフォルトに関する情報をオープンにし、出資者はリアルタイムで投資の状況を把握できる。商品がシンプルで、手数料構造が分かり易い点も評価される。Lending Clubのような透明性が消費者を惹きつける大きな要因となっている。Lending Clubのような企業の登場で、融資市場の収益1300億ドルのうち、10%をFintechが奪うといわれている。

ミレニアル世代について

Goldman Sachsはミレニアル世代 (1980年から2000年の間に生まれた世代) が重要な客層であるとの認識を持っている。ミレニアル世代後半は社会で成功してい人が多く、金融企業にとって大きな収入源となる。しかしミレニアル世代の63%はクレジットカードを持っていない。この理由は、クレジットカードを信用していないためで、ローンの金利 (22%程度) を不合理だと感じる。更に、クレジットカードでの送金手数料についても納得がいかない。上述のVenmoで送金すると、デビットカードは無料だが、クレジットカードだと2%の手数料がかかる。ミレニアル層はVenmoのようなFintechに慣れ、送金は無料のサービスだと思っている。クレジットカードで手数料を取られる仕組みが納得できない。Goldman Sachsは、これら新世代の顧客を如何に取り込むのか、その手腕が問われることとなる。

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先進的な金融機関の対応

Goldman Sachsだけでなく、先進的な金融機関はFintech対応戦略を着々と実施している。サンフランシスコに拠点を置く投資銀行「Charles Schwab」は、投資アプリ「Intelligent Portfolios」の提供を始めた (上の写真)。これはインテリジェントな投資サービスで、自分に合うポートフォリオを設定すると、その後はシステムが自動で売買する。更に、売買手数料は無料とPRしている。このアプリはFintechベンチャー「Wealthfront」にヒントを得て開発されたもので、消費者がどう反応するのか注目を集めている。

サンフランシスコに拠点を置く銀行「Wells Fargo」は金融サービスのアクセラレーター「Startup Accelerator」を立ち上げた。Wells Fargoがエンジェルとして新興企業に出資し、Fintechサービスの開発を後押しする。既に一期生が育ち、光彩認証システム「EyeVerify」など、六社からFintech技術が登場した。しかし、大多数の銀行はFintech対応が遅れているのが実情で、銀行の保守的な体質や巨大なシステムを変革することの難しさも窺える。

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Fintech最大の課題

続々と新技術を生み出しているFintechベンチャーだが、避けて通れない大きな課題がある。Goldman SachsがShadow Bankingと表現するように、Fintechベンチャーは法規制を受けないで事業を展開しているが、ついに米国政府は規制の第一歩を踏み出した。2015年7月、米国財務省は「Treasury Seeks Public Comments on Marketplace Lenders」と題したメモを発行 (上の写真)。これはFintechに対し一般からの意見を求めるもので、オンライン融資サービスを安全に運用し、産業の成長を支えることを目的とする。

同時に、Fintech規制について、検討を始めたということでもある。市場からは、Fintechというイノベーションの芽を摘むべきではないと、懸念の声が上がっている。一方、消費者からすると、Fintechの安全性を担保する構造は必要である。Fintechの経営が破たんし、出資した資金が戻ってこないのでは困る。Fintechの社会的な責任が重くなるにつれ、法規制なしで運用することは考えにくい。Fintechイノベーションを継続しつつ、規制は最小限に留めることが求められ、米国財務省の手腕に注目が集まっている。

米国の東西バランスが変わる

従来、大学を卒業した優秀な人材はニューヨークのウォールストリートに就職していたが、金融危機以降はこの流れが変わり、シリコンバレーのハイテク企業に就職している。新卒者だけでなく、GoogleのCFOであるRuth Poratはニューヨークの名門銀行「Morgan Stanley」から移ってきた。米国の優秀な人材は、ニューヨークからシリコンバレーに移り、西側の重要性が相対的に増している。これら優秀な人材がFintechを含むディスラプティブな技術の開発に従事している。Goldman Sachsがサンフランシスコで株主総会を開くように、シリコンバレーの役割が増し、破壊的技術の誕生が続きそうだ。

もう銀行は不要?Fintechベンチャーが金融業を侵食する

August 7th, 2015

米国で街から銀行が消えようとしている。銀行機能がオンラインバンキングに移るという意味ではなく、銀行自体がベンチャー企業にとって代わられる。この背後にはFintechと呼ばれるファイナンス革新がある。思いもよらない新技術が登場し、消費者が銀行を離れていく (下の写真)。

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消費者が銀行となる

Fintechベンチャーは数千社にのぼり、斬新な技術がどんどん誕生している。その中で話題のサービスが「Abra」だ。Abraはシリコンバレーに拠点を置く新興企業で、送金サービスを開発している。米国から海外に送金できるだけでなく、送金手数料は限りなくゼロに近い。送金に際し銀行口座は不要で、入金したお金を引き出すときは、ATMではなく「Teller」と呼ばれる人物から受け取る。Tellerは銀行ではなく一般消費者で、市民が銀行ネットワークを構成する。個人タクシー「Uber」のモデルからヒントを受け、銀行というコンセプトが大きく変わろうとしている。

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Abra利用法

専用アプリからこのサービスを利用する。送金する時は、ホーム画面 (上の写真左側) の「Send」ボタンを押し、受取人氏名と金額を記入し送金する。受取人は入金を確認し、お金を引き出す際は、「Withdrawal」画面を操作する。ここで上述「Teller」の場所を確認し (上の写真右側、人型アイコン)、そこに出向きお金を受け取る。この事例は200ドルを引き下ろすところで、受取人はMaria NarezというTellerに出向く。手数料はTellerが任意で設定でき、ここでは1%となっている。多くの場合、コンビニなどがTellerとなり、ネットワークを支えている。

背後でBitcoinが使われる

この背後ではBitcoinが使われ、実際の送金はBitcoinでトランザクションが進む。専用アプリをインストールすると、Blockchainベースの住所録が導入される。(Blockchainとは分散型データベースでBitcoinなど仮想通貨のトランザクションをログする。) 送金では指定した相手にBitcoinが送られるが、利用者からはこのトランザクションは見えない。お金を引き出すときはTellerに利用者のQRコードを示し、本人の認証をする。AbraはBitcoinを媒介としたピアツーピア送金のためのプラットフォームを提供しているだけで、お金には全くタッチしていないし、手数料も取らない。Abraはビジネスモデルを明らかにしていないが、送金トランザクションのビッグデータ解析による広告収入などを目指しているのかもしれない。

二度のクラッシュを経験したミレニアム世代

Fintechの波は銀行だけでなく、証券会社にも押し寄せている。シリコンバレーに拠点を置くベンチャー企業「Wealthfront」は、顧客資産を運用・管理する独自のアルゴリズムで、投資サービスを展開する。ミレニアム世代を対象としており、会員の60%が35歳未満という若い顧客層を抱えている。この世代は、インターネットバブル崩壊とリーマンショックという、二度の市場クラッシュを経験し、投資に自信を失っている。このデモグラフィックスに敢えて狙いを絞り、独自のアルゴリズムで資産運用を始めた。このアプローチが技術志向のミレニアム世代に好評で、TwitterやGoogleを始めとするハイテク企業の社員の間で利用が爆発的に広がっている。更に、サンフランシスコのプロフットボールチーム「49ers」の若い選手の資産運用を任されている。

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ノーベル経済学の理論を取り入れたアルゴリズム

Wealthfrontの資産運用アルゴリズムは、ノーベル経済学の理論「Modern Portfolio Theory」を取り入れ、話題となっている。このアルゴリズムは公開されており、だれでも閲覧し検証できる。更に、Wealthfrontは運用方法を公開しており、この透明性が若い投資家に好まれている。また、クラウドで資産管理を行うことで、最低運用金額が低く設定され、手数料が安いことも人気の理由。

Wealthfrontは、11種の「アセットクラス」を用意しており、利用者は嗜好 (リスク許容度など) に合わせてポートフォリオを決定する。Wealthfrontはこの中から、「米国株式」、「先進国株式」、「新興国株式」、「コモディティー」、「不動産」、「債権」という六種類のアセットクラスを使う。これら六種類のアセットクラスに「Mean-Variance Optimization (設定したリスクでリターンを最大にする)」手法を適用し、最適のポートフォリオを形成する。上の写真がその概念図で、円グラフがアセットクラスの配分を示し、右に行くほどリスクが増す。

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利用者は質問に答え、リスク許容度を算定し、アセットクラスの配分を決定する。上の写真は筆者のケースで、リスク許容度は10点満点中6.0と判定された。これに基づき、六種類のアセットクラスの配分が決定した (下段の棒グラフの部分)。Wealthfrontはこの配分で資産を運営し、配分が変わるごとに「Rebalance」と呼ばれる調整をする。

証券会社がFintechの影響を受ける

大手証券会社はアルゴリズムで資産を運用管理するベンチャー企業に警戒を強めている。Wealthfrontなどがミレニアム市場で急成長しており、その手法に大きな関心を寄せている。サンフランシスコに拠点を置く老舗証券会社「Charles Schwab」は、Wealthfrontの手法を模したアルゴリズムで、これに対抗している。証券市場にもFintechの波が激しく押し寄せている。

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Fintech最大規模の会社

Fintechはベンチャー企業だけでなく、株式を上場し大きく成長した企業もある。サンフランシスコに拠点を置く「Lending Club」がその代表で、2014年12月に株式を公開し、9億ドル募った (上の写真)。現在の時価総額は55億ドルで、Fintech最大クラスの企業に成長した。2006年に創業し、リーマンショック以後は、銀行でローンを組めない人に、ピアツーピア方式で融資した。今では融資を受ける借り手と、融資したい人を結びつけるプラットフォームを提供してる。

銀行やカード会社が債権者となるのが一般的だが、Lending Clubは一般消費者が債権者となる点に特徴がある。Lending Clubは店舗を持たず、低コストで融資できる点が評価されている。債務者の多くは、クレジットカードなどのローンを返済するために、Lending Clubを利用している。Lending Clubを使うと金利が7%安くなるという報告がある。

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Lending Clubの仕組み

融資を受けたい人は基礎データを入力すると、Lending Clubが融資の可否と条件を算定する。応募者のオンラインデータやクレジットレートなどを参照して、ほぼリアルタイムにこれらを算定する。融資金額は1000ドルから35000ドルまでで、ローン期間は原則3年間。

一方、消費者や企業は融資を提供することができる。株式に投資するように、債権者は複数の債務者に投資する。債務者はリスクを指標にポートフォリオ「A」から「G」まで用意されている (上の写真上段)。右に行くほどリスクが上がり、利回りも上がる。同時に、デフォルトに陥る可能性も高まり、利率が大きく変動することになる。Lending Clubは、これら「A」から「G」までの配分を事前にセットしたパッケージを用意している (上の写真下段)。投資者はこのパッケージから、安定したリターンが期待できるもの、または、大きなリターンが期待できるものなど、自分の投資戦略に沿ったポートフォリオを選択できる。

Lending Clubは銀行になる

ベンチャー企業が斬新なFintechを開発し、それが市場で試され、成長を遂げてきた。しかし、Lending Clubのような例外もある。既に大企業となり、市場からその技術が評価され、安定した存在となった。同時に、ベンチャーの時の勢いが影を潜め、急激な成長が見られなくなっているのも事実。Lending Clubは銀行の仲間入りをしたとの声も聞こえてくる。Fintechベンチャーは、会社規模が大きくなっても革新的であり続けられるのか、その課題も見えてきた。

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なぜFintechは米国で生まれるのか

Fintechが米国に集中している理由は、銀行に入ると分かる。筆者の取引銀行はCitibankで、一等地の立派なビルで営業している (上の写真)。しかし、一歩中に入ると空き家のようにガラガラで、人も機材も閑散としている。カウンターには10ほどの窓口があるが、2-3人のスタッフが対応しているだけ。顧客は殆どいなく、待つことなく窓口に直行できる。Citibankのリテール機能はインターネットに移り、スマホ・アプリやウェブサイトで事足りる。海外送金を含む入出金はATMででき、店舗内に入る必要はなくなった。銀行店舗は業務が目的というより、ステータスを表すシンボル的な存在になった。

銀行に行かなくなった米国では、Fintechを利用することに違和感を感じない。もともと店舗を持たないで営業している銀行も少なくない。リーマンショック以降、銀行の社会的ポジションが低下し、Fintechベンチャーとの差異が小さくなった。シリコンバレーで生活すると、銀行業務がFintechに侵食され、店舗が街から消えていく必然性を肌で感じる。

人工知能の作曲で音楽ビジネスが変わる、個人好みの曲をリアルタイムで生成

July 31st, 2015

コンピューターで作曲する手法は早くから実践されているが、人工知能の応用で、その流れが加速している。コンピューターで作曲された音楽は、映画やゲームなどのバックグランドミュージックとして使われている。視聴者に特化した音楽の開発も進んでいる。人工知能が作曲することで、ヒット曲の誕生も期待されている。人工知能が新たな収益源を生みだし、音楽産業の衰退を食い止めることができるのか、最新の音楽ビジネスをレポートする。

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人工知能で開発された音楽が生活に入ってきた

人工知能の技法で作曲された音楽が、我々の気づかないうちに、生活に入っている。スペインのシリコンバレーと呼ばれるマラガ (Málaga) で、AI音楽が開発されている。University of Málagaは「Algorithmic Composition (アルゴリズム作曲法)」研究で世界のトップを走っている。これはソフトウェアのアルゴリズムで作曲する手法で、「Melomics」というシステムを開発した。生物が進化するように、Melomicsは自動で音楽を作曲し、進化を繰り返し音楽が成長する。具体的には、Melomicsは大規模な音楽データベースから、メロディーの遺伝子 (Genomics of Melodies、これが名前の由来) を抽出し、新曲を構成する。構成された音楽は進化を繰り返し完成度を上げる。プログラミングが完了すると、Melomicsは人間の手を借ることなく、自動で音楽を生成する。

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AI音楽最初のコンサート

Melomicsが作曲した音楽のコンサートが2011年10月、スペイン領カナリア諸島で行われた。この曲はピアノ、バイオリン、クラリネットの三重奏で、「Hello World!」と命名された。 (先頭の写真はMelomicsが生成したスコア。) アルゴリズムで作曲した音楽をプロの音楽家が演奏した (上の写真)。演奏の模様はYouTubeで公開されている。この曲は現代音楽に区分され、不協和音が多用され、先進的な印象を受ける。これとは対照的に、綺麗な旋律が随所に現れ、聞きごたえのある作品に仕上がっている。コンサートを聞くと、これは人間が作曲したのか、ソフトウェアなのか判別できない。その意味で、Turing Test (ソフトウェアが人間のようなインテリジェンスを持っているかを判定する試験) に合格している。

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Melomicsで作曲された音楽はApple iTunesやAmazonで販売されている。二つのアルバムがリリースされており、どちらも「Iamus」のタイトルで販売されている (上の写真)。これらはMelomicsが作曲した音楽をプロの音楽家が演奏しているもので、オーケストラやアンサンブルや声楽など、幅広い曲が収納されている。ここに「Hello World!」も収められている。

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音楽を医療に応用する

Melomicsは従来型ビジネスだけでなく、AI音楽で新しい事業に挑戦している。その一つが音楽を医療に応用する試みで、専用アプリ「Melomics App」をリリースした。この中で「Chronic Pain Free」というアプリを聴くと、痛みを和らげる効果がある (上の写真左側)。アプリをオープンして、痛みの度合いを設定すると、それに応じた音楽が流れる。痛みの度合いが低い時は、スローで空間を漂うような、リラックスした音楽が流れる。痛みの度合いが高い時は、テンポが早くなり、メロディーラインがはっきりした、インパクトの強い音楽となる。早送りボタンを押すと次の音楽にジャンプする。

この手法は「Melomics Music Medicine (音楽療法)」と呼ばれ、子供を対象に適用される。実際のベンチマークでは、被験者の71.0%が音楽により痛みが無くなったとしている。通常の方法に比べ4倍の効果があることが分かった。子供を対象としたアプリであるが、実際に使ってみると、確かに痛みが和らいだように感じ、その効果を確認できる。

この他に、子供を寝つかせる音楽や、運転中にリラックスできる音楽などが用意されている (上の写真右側)。これら音楽は全てMelomicsで生成されたもので、クラウドからスマートフォンにストリーミングする構成となっている。

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音楽を生活シーンで使う

Melomicsは音楽療法の他に、生活シーンに合わせた音楽配信を計画している (上の写真)。スマートフォン向けのアプリで、利用者の行動を把握し、それに合わせた音楽を配信する。これを「Empathetic Streaming (雰囲気にあったストリーミング)」と呼び、通常のストリーミングと区別している。出勤で駅に向かって歩くときは、ちょっと重い気分だがしっかりとした足取りの音楽が流れる。昼休みのランチ時間には、スローテンポの落ち着いた音楽をストリーミングする。これらの音楽もMelomicsが作曲したたもので、生活シーンに合わせて配信される。

好みに合った音楽をリアルタイムで作曲

アルゴリズムを使うと個人の嗜好に沿った音楽を作曲できる。人間の作曲家に依頼するとコストや時間がかかり、手軽に利用する訳にはいかない。ソフトウェアであれば、個人が好む音楽をリアルタイムに作曲し、それを配信することが可能となる。これを「Personalized Music」と呼び、新たな事業として注目されている。消費者が既製服ではなくスーツを仕立てるように、これからはオンリーワンの音楽を持てる時代となる。

米国でも研究が進む

米国でもAlgorithmic Compositionの研究が進んでいる。カリフォルニア大学サンタクルーズ校教授David Copeは、作曲ソフトウェア「Emily Howell」を開発している。Emily Howellは、別の作曲ソフトウェア「Experiments in Musical Intelligence (EMI)」と連携して動く。EMIが音楽の短いフレーズを作曲し、Emily Howellがこれら音楽ピースからパーツを寄せ集め、全体を構成する。

音楽フレーズ作曲とその組み合わせ

EMIが音楽ピースを作曲するために、まず音楽ルールをコーディングする。EMIがこのルールに従って作曲するが、これだけでは”正しい音楽”ができても、無味乾燥で情熱などは感じられない。このため、EMIは他の音楽を解析し、その特徴を抽出し、それらを再構成するプロセスを採用する。つまり、名曲から人気のエッセンスを借用する構造である。もちろん盗用する訳ではなく、アイディアを理解し、それを昇華するプロセスとなる。

Emily HowellはEMIの音楽ピースを再構成して、新しい音楽を創っていく。単純につなぎ合わせるだけでは音楽は生まれなく、再構成の方式に多大なスキルを必要とし、ここにノウハウが詰まっている。Emily Howellは機械学習の手法を取り入れており、開発した音楽を改良する。開発者や視聴者からのフィードバックを理解し、Emily Howellはこれらのインプットを元に完成度を増し、特徴を際立たせていく。

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Emily Howellが作曲した音楽は、AmazonやApple iTunes Store で販売されている。これらは、Emily Howellが作曲した曲を、人間のアーティストが演奏したもので、ピアノからアンサンブルまで、比較的シンプルな音楽が収めらえている。上の写真は「Breathless」というアルバムで、神秘的な空間を彷彿させる音楽が収納されている。

アルゴリズムで作曲するのはルール違反

ただ、有名オーケストラはソフトウェアが作曲した音楽を演奏することに抵抗感を示しており、Emily Howellは音楽界で物議をかもしているのも事実である。作曲にハイテクツールを用いることに対して否定的な意見を持つ人は少なくない。アルゴリズムの手法で音楽を作曲するのはルール違反だという意見も聞かれる。

しかし、歴史を紐解くと、芸術はハイテクと共に進化しているのが分かる。ベートーベンはハイテクを音楽に取りいれた一人である。オーケストラを一台の装置に実装した「Panharmonicon」を使った音楽を作曲している。これはいまでいうシンセサイザーで、巨大なオルガンが異なる音色を出し、オーケストラをエミュレーションする。このシンセサイザーでナポレオンが戦いに敗れたシーンを”The Battle Symphony”という交響曲で再現している。

人工知能がヒット曲を生む

人工知能も同様に、作曲家の創作ツールとして利用される。市場には人工知能を導入した編曲システムが登場するなど、AI化が加速している。作曲家はアルゴリズムで創った音楽をベースラインとし、そこに自身のインスピレーションを重ね、新曲を創作する。新しいアイディアやテーマをアルゴリズムで試作することが可能となる。ここから名作が誕生するのか、AI音楽の可能性に期待が寄せられている。

中期的には、人工知能が人間を凌駕する技量を発揮し、ヒット曲を生むのかという議論もある。更に、ヒット曲の著作権は人工知能を開発したエンジニアに帰属するのか、それとも自律的に学習を重ねた人工知能にあるのかという議論に発展する。議論は尽きないが、我々の気づかないうちに、音楽産業が人工知能で大きく変わろうとしている。

21世紀のBeatlesはDeep Learning、人工知能が音楽産業を救う

July 24th, 2015

音楽産業が衰退している。音楽配信がCDからiTunesのようなデジタルに変わり、今ではSpotifyなどストリーミングが主流となった。これに伴い業界全体の売上金額が大きく減少した。音楽制作もIT化が進み、コンピューターに楽譜を入力し音を創る。出来上がった音楽は、フォトショップで修正するように、いか様にも手を加えることができる。コスト削減のためであるが、The Beatlesのような歴史に残る名作も生まれない。このような中で、人工知能が音楽特性を正確に把握できることが分かった。この研究結果が業界に衝撃を与え、人工知能が音楽業界再生の切り札となるのか、様々な試みがなされている。

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Convolutional Neural Networkで音楽特性を把握

音楽のような二次元データは人工知能が得意とする分野である。新しい可能性を求め、多くの研究者が挑んできたが、目立った成果はあがっていない。ところが、Deep Learningの技法である「Convolutional Neural Network」(CNN、特徴量を高精度で把握するセンサー) を音楽に適用することで、飛躍的な進展があった。この技法は、ベルギーの大学「Ghent University」のSander Dielemanらが、学術論文「Deep content-based music recommendation」として発表した。人工知能の手法で音楽の特性を把握し、推奨精度を大幅に向上できるという内容である。

現在はCollaborative Filteringが使われる

現在は「Collaborative Filtering」という方式で音楽や書籍を推奨するのが一般的。Amazonで買い物をすると、○○を購入した人はXXを購入していると表示されるが、これがCollaborative Filteringである。購入パターンが類似している消費者を比較し、商品を推奨する方式である。Amazonはこの方式で大きな成果を上げてきたが、リリースされたばかりの商品や、人気の無い商品には適用できないという問題を含んでいる。推奨できるまでには、購買データを集め、下準備に時間がかかる。

音楽の隠れた特性を把握できる

論文はCNNを適用すると、音楽の隠れた特性を把握でき、消費者にぴったりの曲を推奨できるとしている。CNNが音楽を聞くだけで、誰に何を推奨すべきかを判定する。論文には検証結果も報告され、高精度で音楽の特性を把握できるとしている。具体的には、音楽の大規模データベース「Million Song Dataset」を使って、音楽を解析し、スタイルごとに分類した。先頭の写真がその結果で、CNNで区分けした結果を色付けして示している。ヒップホップは赤色、ロックは緑色、ポップスは黄色、エレクトリックは水色で示されている。各グループは一か所にまとまり、この方式での区分け精度は、現行方式を大きく上回ると結論付けている。

SpotifyがCNNに強い関心を示す

音楽ストリーミング企業Spotifyがこの技法に大きな関心を示した。Spotifyは論文著者のSander Dielemanらを会社に招き、数か月間共同開発を行った。その結果をDielemanがブログで公開し、音楽界に衝撃を与えた。CNNを音楽に適用することで、曲の特徴量を学習できることが実証されたのだ。

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音楽フレーズをCNNで解析する

このブログによると、CNNは4階層で、ここに音楽の短いフレーズを入力する。CNNの第一階層で低次元の音楽特性を学習する。具体的には、フレーズの中にビブラートをかけた発声、長三度の和音、バスドラムなど、音楽構成要素を識別できる。これをもう一歩進めると、CNNはギターのディストーション (意図的に音を歪ませる手段でエレキギターなどで使われる) の特性を把握する。同じ特性を示す音楽を取集すると、ディストーションが多用される音楽のプレーリストができる (上の写真左側)。ここにはLed Zeppelinの「Dazed and Confused」などがリストされ、いずれの曲もエレキギターのメタリックな歪んだサウンドを楽しめる。

同様に、CNNはピッチ (基準音) を学習する。CNNは基準音が「A」の音程に対して反応し、同様な反応をする曲を集めると、上の写真右側の通りとなる。(ここには基準音が「B♭」の音程の音楽も含まれている。これは入力フレーズの周波数精度が充分でなく、CNNはAとB♭を判別できないことを示している。)

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CNNが音を感じる様子

興味深いのは、ブログはCNNが音をどう”感じいているか”を示している。上の写真がそれで、左端のカラムが、CNN第一階層がディストーションに反応する様子である。横軸が時間で、縦軸が周波数で、下に行くほど高くなる。(全体は256ステップあるが、写真では上部50ステップ程を表示。) 赤色は数字がマイナスで、水色はプラスで、白色はゼロを示す。これにより、ディストーションに対し、CNNが反応するパターンが視覚的に理解できる。因みに、左から二列目は上述の基準音「A」と「B♭」で、三列目はドローン (曲の背後で流れる連続した単音)で、四列目は和音「A」を示す。CNNは音楽要素に対して際立った特性を示すことが直観的に理解できる。

CNNで高次元の特性を把握する

CNNのネットワーク階層を増やすと高次元の音楽特性を把握できる。4階層のネットワークの最終階層を使うと、音楽をジャンルごとに把握できる。具体的には、入力されたフレーズから、音楽をクリスチャンロック (キリスト教に関連するロック)、スムーズジャズとアカペラ、ゴスペル、中国ポップなどを把握する。

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上の写真はこの結果で、スムーズジャズとアカペラの特性を持っている音楽を集約したプレーリストを表示している。(この解析ではCNNはスムーズジャズとアカペラの区別ができなくて、同じジャンルに区分けされている。)  これで分かるように、CNN第一階層は、音楽構成要素という低次元の特性を把握し、第四階層は音楽のジャンルという高次元の特性を把握する。イメージ解析すると、CNNは低次元の特性 (例えば自動車のタイヤ) を把握し、階層が上がるにつれ高次元の特性 (例えば自動車の車種) を把握する。音楽でもこの構図が当てはまり、CNNを音楽に適用することで、画期的なシステムが登場すると期待される。

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Spotifyの音楽推奨方式

CNNを教育すると、音楽をジャンル別に区分けし、プレーリストを作製できることが分かった。SpotifyはCNNを導入し、類似の特性を持った音楽群を纏めてプレーリストを作り、利用者に音楽を高精度で推奨することを目指している。この方式であれば、前述の通り、リリースされたばかりの音楽や、余り人気のないインディー音楽にも適用でき、音楽配信のチャンスが広がる (上の写真はSpotifyの音楽推奨リスト)。

Spotifyは「Echo Nest」という企業を買収し、その技術を使い音楽を推奨している。Echo Nestはインターネットの評価と、音響解析「Acoustic Analysis」を併用して音楽の特性を評価する。前者はインターネット上での口コミをベースに音楽を評価する。後者は音楽をシグナルレベルで分析し、ピッチ、音量、音色などの特性を把握し、音楽の特徴を比較する。この方式は、音楽に関する専門知識を必要とするため、取り扱いが難しいとも言われる。SpotifyはEcho Nest方式をCNNで置き換えるのではなく、両者を併用して運用するといわれている。ただ、CNNを導入することで、機能や精度が大幅に向上すると期待されている。

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PandoraやGoogleもCNNを導入

PandoraはOaklandに拠点を置くベンチャー企業で、音楽ストリーミングサービスを提供する (上の写真)。音楽の特性を把握し、視聴者に最適な曲を配信する手法を始めた最初の企業である。Pandoraは曲を分析し、その特性を400の要素で定義する。これは「Music Genome Project」と呼ばれ、”音楽遺伝子”を解析してきた。この音楽特性に基づいて曲を配信し、視聴者から高い評価を受けている。ただ、この解析はプロの音楽家が耳で聴いて行うため、時間とコストがかかる。PandoraはCNNを導入し、このプロセスを機械化するといわれている。

Googleは世界最高レベルの人工知能技術を有しており、同社の音楽ストリーミングサービス「Play Music」でCNNを適用しているのはほぼ間違いない。今後もこの機能を大規模に展開すると思われる。因みに、上述の論文著者Sander Dielemanは、Googleに採用され、いまではDeepMindのロンドンオフィスで働いている。

人工知能が音楽ビジネスを活性化

Dielemanの論文とブログは音楽界に衝撃を与えた。音楽ストリーミング会社は一斉にCNNを活用した音楽推奨機能を急ピッチで開発している。CNNによる音楽推奨精度が向上すると、ここに大きなビジネスチャンスが生まれる。音楽業界は典型的なロングテールで、購入される音楽は一部のヒット曲に限られる。テール部分には視聴者の好みの音楽が数多く眠っているが、知る由もない。CNNでテール部分に埋もれている名作を掘り起こすことで、音楽ビジネスの活性化につながる。人工知能の果たす役割に、音楽業界は大きな期待を寄せている。

Googleが通信キャリア事業をスタート、LTEとWiFiを統合し生活空間が単一の通信網となる

July 17th, 2015

Googleが通信キャリア事業に乗り出した。このサービスは「Project Fi」と呼ばれ、MVNO (仮想移動体通信事業者) 方式でネットワーク・インフラを提供する。低価格でサービスを提供するだけでなく、通信キャリアが提供する機能を根本から改良する。スマホの理想形「Nexus」を開発したように、ネットワークのあるべき姿を探求する。米国でProject Fiがスタートし、通信キャリア市場を揺さぶっている。

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近未来の通信網

Googleは2015年6月から、米国で「Project Fi」を始動した。Googleはこのプロジェクトを試験的に展開するとし、地域ごとに人数を限定してサービスを始めた。このため、プロジェクトへの参加は、Googleから招待状が必要となる。筆者も申し込みをしていたが、やっと招待状を受け取り、Project Fiを使い始めた。サポート対象デバイスはNexus 6で、Project Fi専用SIMカード (上の写真) を挿入して利用する。SIMカードはクリップ止めされており、これを使ってスロットを開ける。

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実際に使ってみると、Project Fiは近未来の通信網と言っても過言ではない。LTEやWiFiなど、異なるネットワーク間で、最適な通信網を選択し、サービスを途切れなく利用できる。屋内では、通話やテキストメッセージは、WiFi経由でやり取りする。屋外に出ると、Googleの移動体ネットワーク「Fi Network」に接続される。

ロックスクリーン左上にFi Networkと表示され、Project Fiのネットワークを利用していることを確認できる (上の写真左側)。また、ネットワークの設定や使用状況などは専用アプリ「Project Fi」を使う (上の写真右側)。Network FiはSprintとT-Mobile USの4G LTEを利用している。この意味でMVNOであるが、単に通信網を利用するだけでなく、Fi Networkは両者のうち電波強度の強いネットワークに接続する。

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WiFiとLETでシームレスな通信

印象的なのは、ネットワーク間で途切れなくサービスを利用できることだ。自宅でWiFi経由で電話している時、屋外に出るとネットワークがLTEに切り替わる。通話は途切れることなく、シームレスにハンドオーバーされる (上の写真左側)。屋内でWiFiを使って通話している時は「Calling via Home-7392」と表示される (Home-7392は筆者宅のWiFi)。屋外では「Fi Network」と表示され、Googleの通信網を利用していることが分かる。(上の写真の事例では表示されていない。) Fi Networkと表示されるだけで、背後でSprintとT-Mobileのうち、どちらのネットワークが使われているかは示されない。屋外でWiFiホットスポットがあれば、自動的にここに接続される。

通話だけでなく、データ通信でも自動でネットワークが切り替わる。自宅のWiFiでGoogleの音楽ストリーミング「Play Music」を聞きながら、自動車で屋外に出るとFi Networkに切り替わる。音楽は途切れることなくシームレスに続き、ドライブしながら好みの曲を楽しめる。今まではWiFi域外に出ると、エラーメッセージが表示され、再度接続する必要があった。WiFiとLTEの壁が取り払われ、生活空間全てが単一のネットワークになった感覚だ。どこでも継続して電話やインターネットを使え、生活が格段に便利になったと感じる。

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消費者に優しい料金体系

もう一つの魅力は消費者に優しい料金だ。料金体系はシンプルで、基本料金とデータ料金の組み合わせで構成される。基本料金は月額20ドルで、ここに、通話、テキストなどが含まれる (上の写真、The Fi basicsの部分)。データ通信は月額10ドル/GBとなる。例えば2GBで契約すると月額20ドルとなる(上の写真)。制限量まで使っていない場合は、翌月分の料金から差し引かれる、良心的な料金体系となっている。Project Fiを使い始め、電話料金が半額になった。

ネットワークでイノベーションを興す

革新的なネットワークを低価格で提供するが、Googleの狙いはどこにあるのか、興味深い発言がある。Android部門などの責任者Sundar Pichaiは、Project Fiについての見解を表明した。Googleは基本ソフト (Android) とデバイス (Nexus) だけでなく、ネットワークを含めた統合システムで、技術開発を進める必要がある。個々のネットワークでは技術進化が停滞しているが、包括的なネットワーク環境ではイノベーションが起こると期待を寄せている。

通信キャリアとの関係にも言及した。Project Fiは限定的なプロジェクトで、VerizonやAT&Tなど、既存キャリアと競合することは無い。SprintとT-Mobileはネットワーク回線をGoogleに卸し、空回線を有効利用できる。これにより、ユーザ数が減少し収入は減るかもしれないが、利益率が改善し、収益は増えると期待している。

既存キャリアへの圧力

米国の消費者は低価格で先進的なサービスを使うことができるとして、一様にProject Fiを評価している。つまり、Project Fiが新しい基準となり、VerizonやAT&Tを値下げや新サービス開発に向かわせる可能性を秘めている。Project Fiが黒船となり、米国のキャリア市場が大きく変わろうとしている。

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既に米国キャリアの中で、Project Fi方式を模したサービスが登場した。ノースカロライナ州に拠点を置くRepublic Wirelessは、MVNO方式のキャリアでProject Fiと類似のサービスを導入した。通信はWiFi経由で行い、WiFi環境がない場合は携帯電話回線を利用する。両者の間でシームレスな移行はできないが、有料サービスを最小限に留める仕組みとなる。料金体系でProject Fiの方式を模している。基本料金 (通話とテキストとWiFi) は月額10ドルで、データ通信 (1GB) は月額15ドルとなる (上の写真)。未使用の部分は翌月に払い戻しを受ける仕組みとなっている。Project Fi方式が米国市場で普及し始めた。

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Googleの狙い

モバイル環境でイノベーションが起こり、便利な機能が登場し、通信価格が下がれば、利用者数の増加につながる。これは消費者にとってのメリットであり、同時に、これがGoogleの狙いでもある。より多くの人がインターネットにアクセスすれば、Googleサービス利用者が増え、広告収入などが増える。

Googleは一貫してこの手法を展開しており、Project Fi以外に、高速ブロードバンド「Google Fiber」の前例がある。Google Fiberの最大転送速度は1Gbpsで、主要都市で施設が進んでいる。大手ケーブル会社Comcastはこれに対抗するため、Google Fiberの二倍の性能を持つ「Gigabit Pro」の施設を始める。15年以上無風状態であった米国のブロードバンド市場が、Google Fiberの登場で一気に動き出した。

地球規模では、Googleは気球インターネット「Project Loon」の開発を急いでいる (上の写真)。アフリカや南米など、インターネット環境が整っていない地域に、気球からブロードバンドサービスを展開する。地域住民の社会インフラを提供するとともに、インタネット利用者を増やし、Googleサービスの利用者を増やす狙いがある。

Project Fiの日本への影響

前述の通り、Project Fiの背後では、SprintとT-Mobileの通信網が使われている。T-Mobile最高経営責任者John Legereは、Project Fi向けにネットワークを供給し、新技術が展開されることにを全面的にサポートしている。

一方、Sprint親会社SoftBankの孫正義社長は、Project Fiへの参加に躊躇したとも言われている。Sprintは多くのMVNOに回線を卸しているが、Googleに対しては懐疑的なポジションを取っている。この理由は明らかにされていないが、Googleが通信キャリア事業に参入し、Sprintと競合することを避けたいという思惑があったと推察される。

しかし、Google向けに通信網を提供したのは、Project Fiの手法を学び、日本で類似サービスを展開する意図があるのかもしれない。SoftBankが直接手掛けないとしても、日本のMVNOはProject Fiから学ぶところは少なくない。モバイルサービスは完成形ではなく、まだまだ大きく進化できる余地があることをProject Fiは示している。