100年に一度のイノベーション、Fordはステアリングもブレーキもない完全自動運転車を開発

August 19th, 2016

Ford最高経営責任者Mike Fieldsは記者会見で、完全自動運転車の開発に着手したことを明らかにした。創業者Henry Fordは100年前、自動車を大量生産するという革新的な技術でクルマを庶民に届けた。Fieldsは、これから100年にわたり、Fordは自動運転車で市民生活を豊かにするモビリティを届けると述べた。

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自動運転車を2021年初頭に出荷

記者会見の模様はビデオで公開された。Fordが開発する自動運転車にはステアリング、アクセル、ブレーキはなく、自動で走行する完全自動運転車だ。Fordはこのクルマを2021年初頭に出荷し、無人タクシーやライドシェア事業で使う。Fordは自動運転車を開発してきたが、段階的なアプローチを取ってきた。最初はドライバーの運転を支援する技術を提供し、その後、自動運転車に向かうとしてきた。今回、Fordはこの方式を全面的に見直し、最初から完全自動運転車を開発する。General Motorsなどとは異なるアプローチで、保守的な自動車メーカーとしては大胆な決断を下した。(上の写真はFord自動運転車テスト車両。)

Henry FordのDNAを引き継ぐ

Fieldsは自動運転車を開発する理由について説明した。創設者Henry Fordは、その当時、富裕層の移動手段であったクルマを庶民の手の届くところまで押し下げた。Fordの社命は人々の生活をよりよくすることで、このDNAは今に引き継がれている。過去100年を振り返ると、大量生産技術というHenry Fordのイノベーションが社会生活を豊かにしてきた。これからの100年は自動運転技術で、Fordは再び社会を大きく変えようとしている。

Fordが開発する自動運転レベル

Fordが開発するのは「Level 4」にランクされる完全自動運転車だ。これは「High Automation」と呼ばれ、高度な自動運転機能を搭載する。クルマが自動で走行するのでドライバーはいらない。クルマが運転状態を監視し、問題があればシステムが自律的に対応する。ドライバーが運転を代わるなどマニュアル操作は不要となる。クルマは全ての行程を自動で走行する。

なぜ完全自動運転車なのか

自動運転車でも「Level 3」は「Conditional Automation」と呼ばれ、限定的な自動運転機能を提供する。自動運転であるがドライバーを必要とする。自動運転モードで走行すると、ドライバーは前を見ておく必要はない。クルマが運転状態を監視する。しかし、問題があればアラートが表示され、ドライバーが運転を代わる。クルマがドライバーに制御を引き渡すことになる。これは「Hands-off Problem」と呼ばれ、実行する手順は難しい。このためFordはLevel 4の自動運転技術を開発する。

ちなみにTesla Autopilotは「Level 2」で「Partial Automation」に区分される。ステアリングやアクセル操作は自動で行うが、ドライバーは常に運転状態を監視する必要がある。(下のテーブルは自動運転技術のレベルを定義したテーブル。)

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シリコンバレーが開発拠点となる

Fieldsはシリコンバレーの研究体制を大幅に強化することを明らかにした。FordはPalo Altoに開発センター「Research and Innovation Center」を設立し、先進技術の研究開発を進めている (下の写真)。自動運転技術はこのセンターで開発されている。Fordは完全自動運転車開発のためにこの組織を強化し、来年末までに開発者の数を倍増し300人態勢とする。ここでハードウェア、ソフトウェア、Virtual Driver Platform (仮想の運転環境) を開発する。自動運転試験車両を大幅に増強し、来年末までに100台程度投入する。業界最大規模で試験走行を展開する。

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クルマをゼロから開発

Fordは現行車両に自動運転ソフトウエアを組み込むのではなく、クルマをゼロから開発する。主要パーツは二重化するなど、自動運転車向けの仕様とする。クルマを構成する要素技術は、Lidar (レーザーセンサー)、カメラ、レーダー、アルゴリズム、Localization (位置決定技術)、Path Planning (走行経路計算)、Computer Vision (イメージ解析)、Machine Learning (機械学習)、詳細マップ、高速計算環境などとなる。これらの技術を社内で開発するだけでなく、外部企業の先進技術を積極的に取り入れる。更に、大学研究所と共同研究を進める。

Velodyneへ大型投資

Fieldsは自動運転技術を開発する企業への投資や買収戦略を明らかにした。Fordは「Velodyne」へ7500万ドル出資する。Velodyneは商用グレードのレーザーセンサー「LiDAR」を開発する企業で、自動運転での標準センサーとなっている。LiDARは高性能であるが価格が高く、研究開発のためのセンサーとも言われる。FordはVelodyneに投資しLiDARの量産化を目指す。同時に、中国検索大手BaiduもVelodyneに7500万ドル出資した。中国のGoogleと言われるBaiduもLiDARを搭載した自動運転車を開発している。(下の写真、Fordは試験車両の屋根に4機のLiDAR 「HDL-32E」を搭載するという独自の方式を取っている。)

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人工知能企業を買収

Fieldsは「SAIPS」を買収することを発表した。SAIPSはイスラエルに拠点を置く新興企業でDeep Learningの手法でComputer VisionやMachine Learning技術を開発する。SAIPSは車載センサーが収集したデータを処理し、オブジェクトを把握し、クルマの周囲の状況を把握するために使われる。自動運転車の視覚を司りクルマの中核技術となる。

「Nirenberg Neuroscience」と独占的なパートナー契約を締結したことも明らかにした。Nirenberg NeuroscienceはNew Yorkに拠点を置く研究機関で、人間の視覚をソフトウエアで実装したMachine Vision技術を開発している。Fordはこの技術を使い、クルマが周りの世界を認識する技術を開発する。Machine Learningと組み合わせ、詳細マップがなくてもクルマが自動運転できる技術を開発する。

詳細マップ開発企業へ出資

Fordはこれに先立ち、「Civil Maps」に出資している。Civil MapsはLidarで収集したデータを解析し、自動運転で必要な情報を高精度3Dマップとして生成する。Civil Mapsはクラウドソースの手法を取り、Lidarを搭載した車両からデータを収集する。Lidarでクルマの周囲をスキャンしてマップを作製するが、そのデータ量は極めて大きい。Civil MapsはMachine Learningの技法を使い、ソースデータから必要なオブジェクトを抽出し、運転に必要な情報を付加した「Semantic Maps」を作成する。

無人運転車を共有するモデル

Fordは自動運転車を無人タクシーと無人ライドシェア事業として展開する。無人タクシーとは現行タクシー事業の無人化で、無人ライドシェアはUberのような合法白タクの無人化事業となる。この他に、自動運転車での荷物を配送する事業も計画している。Fordは無人運転車は個人が所有するのではなく、個人が共有するモデルに移るとみている。これにより、資源を有効に利用し、エネルギーを節約し、駐車場を探す必要はなく、道路渋滞を解消することが期待される。

FordとGoogleの自動運転車共同開発

FordとGoogleの自動運転車共同開発が噂されてきたが、この発表でFordは独自に自動運転車を開発することが明らかになった。Fieldsは発表の中で、Googleとの関係について何も語っていない。しかし、Googleを意識した発言が随所にみられた。FordはGoogleのような自動運転車を開発するが、Fordにはクルマを量産する製造ラインがあることを強調した。Fordは車両を自社で量産できる点がGoogleに比べて大きな優位点となることを行間に強くにじませた。

遅すぎた発表

Fordの発表に対し様々な意見がでている。その一つが発表のタイミングである。主要自動車メーカーは既に自動運転車を発表しており、Fordの発表は遅すぎるという意見も少なくない。Fieldsはこれに対し、発表の早さを競うのではなく、Fordは製品の性能と出荷時期で勝負すると述べている。なぜこのタイミングで発表したのか真相は不明だが、Googleとの提携協議が不調に終わったことを受けての発表かもしれない。

Fordの挑戦を評価

一方、Fordは一気に完全自動運転車を目指すという開発指針に対し、これを評価する声も少なくない。自動車メーカーがステアリングの無いクルマを作るのは大胆な試みで、技術面だけでなく、企業カルチャーへの挑戦を意味する。このため、本社のあるDearborn (ミシガン州) ではなく、シリコンバレーに開発拠点を置くことが重要な意味を持つ。Fieldsは、これは会社トップの意思決定で、トップダウンで開発チームを結成し自動運転車を開発すると述べている。Fordは技術面だけでなく企業カルチャー面からも、自動車会社からモビリティ企業へ進化しようとしている。

無人で走行するクルマはできるのか、 Google自動運転車開発最大の危機

August 14th, 2016

Google自動運転車開発の総責任者Chris Urmsonは2016年8月、会社を離れた。ここ最近プロジェクトのキーマンが相次いでGoogleを離れており、トップのUrmsonが去ることで自動運転車開発は大きな打撃を受けた。辞任の背後には自動運転車の製品化で意見の相違があるとされる。Google自動運転車開発は最大の危機に直面した。

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UrmsonがGoogleを離れる

UrmsonはニュースサイトMediumに記事を投稿しGoogleを離れることを明らかにした。記事の中で自動運転技術開発を振り返り、Urmsonの開発思想を改めて明らかにした。Urmsonはカーネギメロン大学で研究者として自動運転技術の開発に携わってきた。2009年、Googleに加わり自動運転技術の開発に貢献してきた。2013年にプロジェクト創設者 Sebastian ThrunがGoogleを離れると、Urmsonが開発チームのトップとして開発をけん引した。(上の写真は博物館に展示されているGoogle自動運転車。)

Urmsonは記事のなかで自動運転車開発を選んだ理由を述べている。自身や仲間があえてこの開発に打ち込む理由は、人間が運転するより安全なクルマをつくり交通事故を減らすこと述べている。一方、Urmsonはプロジェクトを去る理由については何も語っていない。また、これからの計画についても白紙だとしている。しかし、今頃はAppleやUberなどからオファーを受けていることは確実で、自動車メーカーの力関係が変わる可能性を含んでいる。

自動車メーカーとの提携は進まない

Google自動運転車部門はUrmsonが組織の顔となっていたが、この部門のトップはJohn Krafcikである。Googleは2015年9月、最高経営責任者としてKrafcikを採用した。KrafcikはHyundaiの社長などを歴任した自動車業界のベテランで、Googleでは自動車メーカーとの提携を主務としている。Urmsonは技術開発の総責任者として役割を分担してきた。

2016年1月、GoogleはFordと提携して自動運転車事業を進めるとの報道があった。しかし、両社からは何も発表は無く、提携協議は難航しているとの見方が広がった。その後、Fordは自動運転車開発を強化するとの報道があり、両社の提携は難しいとみられている。

2016年5月には、GoogleはFiat Chrysler Automobilesと提携し、同社のプラグインハイブリッド・ミニバン「Pacifica」をベースに自動運転車の開発を始めた。100台のPacificaに自動運転技術を実装し試験走行を実行する。最近では白色のPacificaに黒字でGoogleとプリントされた車両を見ることがあり、両社の共同開発は動き始めている。しかし、ChryslerがGoogle自動運転車を製造するなど、踏み込んだ共同開発については何も語られていない。(下の写真はシリコンバレーで走行試験を重ねるGoogle自動運転車。)

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自動車メーカーが提携を躊躇する理由

Googleは他の自動車メーカーや自動車部品サプライヤーと自動運転技術に関する提携を模索しているといわれている。Urmsonが繰り返し表明してきたように、Googleは自社でクルマを製造する計画はない。Googleはあくまで自動運転技術の開発に集中し、クルマの製造は提携企業に委託する。しかし、自動車メーカーはクルマがEVに向かう中、Googleに製品の中枢部分であるソフトウェアを押さえられると、事業の主導権が奪われるとして危機感を示している。

更に、自動車メーカーは一挙に全自動運転にジャンプすることにも難色を示している。メーカーはTesla Autopilotのような半自動運転車を投入し、その後、時間をかけて完全自動運転車に進むロードマップを描いている。これに対してGoogleは、半自動運転車はクルマとドライバーの間で制御を渡すプロトコールが難しく、危険であるとのポジションを取る。これを「Hands-off Problem」と呼び、緊急の際にドライバーがとっさに運転を代わることは危険であるとしている。これがUrmsonの開発思想であり、この基本方針の元でチームをリードしてきた。

Googleは優位性を保てるか

Googleは2007年から自動運転技術の開発を始め9年が経過した。Urmsonは自動運転車を2019年に出荷するとの見通しを示した。しかし、初期モデルは走行できる地域が限定され、時間をかけて徐々にその範囲を広げる。最終モデルは30年後になるとも述べている。開発から12年で製品が出荷されるだけでなく、その後の見通しが立っていないことを意味している。

Googleが先行していた自動運転車は開発が難航していることが明らかになった。更に、メーカーでの自動運転技術開発が進み、その差は明らかに縮まっている。また、ベンチャー企業は高度な手法で自動運転技術を開発しており、Googleの地盤沈下が鮮明になっている。Thrunがチームを率いていた時と比べ、Urmsonの世代では新技術開発の勢いが鈍ったようにも感じる。(下の写真、Google自動運転車は夜間の走行試験を始めた。)

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会社経営陣と開発部門の意見の相違

Alphabet最高経営責任者Larry Pageは自動運転車を早く事業化することを求めている。Pageは製品出荷を急ぐようUrmsonに迫ったとされる。どんなやりとりがあったのかは公表されていないが、Pageは完全自動車の完成を待てばビジネスチャンスを逃してしまうとの危機感を持っている。半自動運転車として製品化することを強く求めたのかもしれない。これに対し、Urmsonは半自動運転車は危険であるとのポジションを崩していない。この開発方針の相違が今回の辞任につながったとの見方もある。会社トップは事業化を急ぎ、開発部門は納得できる製品の開発を固辞し、両者の関係が悪化した。Urmsonの記事はこのようなやり取りを暗示している。

ロボット開発でも同じ問題

Googleのロボット開発部門「Replicant」でも同じ問題を抱えている。GoogleはBoston Dynamicsを始め有力なロボット企業を立て続けに買収した。Alphabet経営陣は短期間でビジネス化することを求め、開発グループとの関係がこじれている。ReplicantトップのAndy Rubinは会社を去り、Boston Dynamicsは売りに出されているとの報道もある。自由闊達な開発環境がGoogleの魅力であったが、Alphabetに組織変更されてからは、ビジネスとしての収益構造を厳しく問われている。

自動運転車の進化を肌で感じる

Mountain ViewでGoogle自動運転車の走行試験を毎日見ていると、運転技術の進化を肌で感じる。2015年6月、Googleは自動運転車の路上試験を開始した。当初は、自動運転車と一緒に走行すると危険を感じることが少なくなかった。信号機のない交差点で自動運転車がフリーズし、戸惑ったこともある。その当時の自動運転車は、自動車学校の構内で運転している生徒のようにぎこちない運転であった。(下の写真は試験走行を開始したころのGoogle自動運転車。)

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それから一年たつと、自動運転車の運転技術は格段に向上した。並走して危険を感じることは少なくなり、人間に例えると仮免許を取って路上教習を受けている生徒のレベルになった。この進化には目を見張るものがあるが、まだ一人で運転できる技量までには至っていない。

自動運転技術でブレークスルーはあるか

このままトレーニングを続けると自動運転車が完成するのか大きな岐路に差し掛かっている。GoogleはLidar (レーザーレーダー) と光学カメラをクルマの眼として周囲のオブジェクトを把握する。これはSensor Fusionという手法で、異なるセンサーで捉えたイメージを使い、機械学習の手法でアルゴリズムを改良する。自動運転技術の標準技法になっているが、アルゴリズムを教育するために異なる環境で走行試験を繰り返す必要がある。このため開発には長い年月を要する。

市場では完全自動運転車を開発するためには別のアプローチが必要との意見も少なくない。AIで世界のトップを走るGoogleは、自動運転車に最新の研究成果を適用すると表明している。Googleの自動運転車開発は大きく動く可能性をはらんでいる。自動運転技術でブレークスルーが生まれるのかどうか、世界が注目している。

Software-Defined Human~遺伝子に潜むソフトウェアを読み解き寿命を延ばす、百歳まで健康に生きるための医療

August 3rd, 2016

ヒトはソフトウェアで定義される。遺伝子はヒトの基本ソフトとして稼働し、我々の身体特性を決定するコードを生成する。コードに従って身体が形作られ、また、病気が発症する。このメカニズムを解明すれば健康で長生きできるといわれてきた。いま、このコンセプトが現実のものとなり、健康に長生きするための医療サービスが登場した。

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健康に長生きできる医療技術

この技術を開発しているのはサンディエゴ近郊に拠点を置くベンチャー企業「Human Longevity, Inc. (HLI)」だ (上の写真)。HLIは社名が示す通り、遺伝子工学を応用し健康で長生するための医療を提供する。加齢をガンや心臓疾患より重大な病気と捉え、加齢を”治療”する医療技術を開発する。HLIの目的は病気を予防し個人に特化した治療を施すこと。今の医療は病気の治療に焦点が当てられているが、HLIは病気の発症を防ぐことを目的とする。個人がどんな病気を発症するのかを予測し、その病気を防ぐための医療サービスを提供する。

HLIはCraig VenterやPeter Diamandisらにより2013年に設立された。Venterは米国国家プロジェクトと競い合い、ヒトの遺伝子配列の解明に大きく寄与した人物である。Diamandisは「X Prize Foundation」を創設し、地球規模の課題の解明を目指している。

シークエンシング技術の進化

HLIがこの医療を提供できる背景にはテクノロジーの加速度的な進化がある。シークエンシング技術の進化で、ヒトの遺伝子の配列を短時間で低価格で解析できる。ヒトの遺伝子配列を解明する国家プロジェクト「Human Genome Project」は、13年の歳月と270億ドルで目標を達した。今では、ヒトの全遺伝子の配列を特定するための費用は1000ドル程度で、処理に要する時間は15分といわれる。更に、遺伝子配列という大規模なデータを処理するために最新の情報技術が使われる。Amazonクラウドやニューラルネットワークを含む機械学習がこれを支える。

近未来の人間ドック「Health Nucleus」

HLIは先進医療研究プラットフォーム「Health Nucleus」を設立した。Health Nucleusが健康長寿を実現するための医療サービスとなる。Health Nucleusは遺伝子解析や医療検査を通じ個人の身体情報を把握し、健康に生活するための医療サービスを提供する。Health Nucleusは近未来の人間ドックで、この施設で被験者の身体に関する包括的なデータを収集する。このデータをもとに被験者の身体像を構成し、健康に長生きできるための医療ロードマップを示す。(下の写真はHealth Nucleusの受付ロビー。)

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全遺伝子の配列を解明

Health Nucleusが採集する被験者のデータは遺伝子情報から身体情報まで多岐にわたる。遺伝子情報については被験者の全遺伝子の配列を検出する。遺伝子解析サービスの多くは限られた遺伝子だけを対象とするが、Health Nucleusは全ての遺伝子をカバーする。Health Nucleusは被験者の遺伝子を解析し、遺伝子の変異を見つけ、個人の特性を把握する。遺伝子配列の変異は身体特性 (目や髪の色など) を決定するだけでなく、病気の原因となり、病気を発症するリスク要因となる。

体内のバクテリアの解析

Health Nucleusは遺伝子情報だけでなく、身体に関する幅広い情報を採取する。ヒトの体内や表面には数兆個のバクテリアが生息している。これらバクテリアはMicrobiomeと呼ばれ、健康な生活を送るために欠かせない存在となる。Microbiomeはヒトの誕生とともに住みつき、免疫システムを作るなど重要な役割をになう。また、食物を消化吸収し、栄養素を生み出す。

Health NucleusはMicrobiomeのDNA配列を解析し、バクテリア種類を割り出す。この解析により、バクテリアの不均衡な状態 (Dysbiosisと呼ばれる) を把握する。Health NucleusはMicrobiomeの構成や機能が病気や健康な生活を送るためにどう影響するのかの研究を進めている。更に、病気を特定するためにMicrobiomeを使ったバイオマーカーを開発している。

メタボロームなど

メタボローム (Metabolome) とは体内の代謝物 (metabolites) の測定と解析を意味する。代謝物とは低分子化学物質を示し、糖、脂肪、ホルモンなどを指す。細胞内や消化器系のバクテリアが生成する物質などを含む。代謝物は人体の生理状態を示す直接的な情報となる。代謝物を解析することで生理状態の不均衡が分かり、病気の予兆を把握できる。

この他に医療イメージング技術が使われ、身体構造を細部にわたり詳細に把握する。Health Nucleusが開発した独自の手法で、神経系の分類、代謝解析、脳と首の血管系解析、及び、早期がんを検出する。

病院と連携して治療

Health Nucleusは検査結果を報告書としてまとめ被験者に提供する。これは身体に関する包括的な分析結果で500ページからなりiPadで提供される (下の写真)。これらのデータはウェブサイトでも閲覧できる。被験者個人が調査結果を解釈するには荷が重く、被験者の主治医と連携して治療や健康維持にあたる。Health Nucleusの医療チームは被験者の主治医と連携して、病気のリスクを解析し、健康状態をモニターしていく。

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Health Nucleusは2016年から運用を始めたばかりで、200人の検査を実施した。被験者の30%から新たな問題が見つかり、すぐに医療措置を取ることができたなど成果が報告されている。Health Nucleusの最終目的は被験者が健康に長生きすることで、その成果が出るのはまだ先になる。いまは限られたグループで試験運用を展開している段階にある。ただ、Health Nucleusの価格は25,000ドル (250万円) で受診者は一部の富裕層に限られる。HLIはHealth Nucleusに保険を適用できるよう保険会社と協議を重ねており、一般に普及するにはもう少し時間がかかる。

AstraZenecaとの共同研究

HLIは製薬会社大手AstraZenecaと提携し、遺伝子と病気の関係の解明を進めている。AstraZenecaは臨床試験で得た50万人のDNAをHLIに提供する。HLIはこれらDNAをシークエンシングし解析を実行する。サンプルから遺伝子変異のある被験者を数千人単位で抽出し、病気と治療薬の関係を解析する。HLIは遺伝子の中から特定のパターンを検出し、病気との関係を紐づけていく。

機械学習の手法で遺伝子解析

この解析作業は膨大な計算能力を必要とする。ヒトの遺伝子は2万個あるといわれている。健康に与える影響を理解するためには、2万個の遺伝子と、被験者の生活環境、行動、薬への反応、MRI検査結果、医療試験結果を比較する必要がある。ヒトの遺伝子を構成する塩基 (A、C、G、Tの四種類) の数は64億個で、これを被験者の身体特性や検査結果と比較するには大規模な計算環境が必要となる。遺伝子は一つの言語に匹敵するともいわれ、特定言語の自然言語解析で必要とされる技術レベルが遺伝子解析で求められる。

このためHLIはGoogleから機械学習の第一人者を採用した。この研究者はFranz Ochで、翻訳技術「Google Translate」の開発をリードしてきた。機械翻訳ではニューラルネットワークなど機械学習の手法が使われる。この技法をHLIにおける遺伝子と病気の解明に応用する。例えば、全遺伝子と脳のMRIイメージを機械学習の手法で比較することでアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異を発見できるかもしれない。これにより、アルツハイマー病の進行を抑える薬の登場に期待が高まる。

長生きのためのロードマップ

Venterは100万人の遺伝子を解析することを目標にしている。遺伝子情報を被験者の医療履歴や医療検査結果と組み合わせ、効果的な治療法を見つけ、癌や心臓疾患など重篤な病気にかかるのを予防する方法を見つける。Venterは将来は全ての人が遺伝子を解析し、健康な生活ができることを目指している。このモデルがHealth Nucleusで、近未来の人間ドックのプロトタイプと位置づけられる。病気を予防することが、病気を治療することより大きな意味がある。

医療技術のブレークスルーとなるか

米国政府は1991年、Human Genome Projectを立ち上げ、ヒトの全遺伝子配列の解明を開始した。Venterらはヒトの遺伝子配列を最初に解明し、これをベースにベンチャー企業「Celera」を立ち上げた。国家プロジェクトと並行してCeleraがヒトの遺伝子配列を解明する研究を開始した。CeleraはHuman Genome Projectより早く低コストで遺伝子配列の解明ができるとしていた。しかし国家プロジェクトはCeleraよりわずかに早く解明に成功し、研究成果は一般に公開された。遺伝子配列で特許取得を目指したCeleraの株は急落し、Venterのイメージに陰りが出た。

しかし、Venterの手法や業績は高く評価され、米国の歴史に名を刻んでいる。Venterはその後も多くのベンチャーを立ち上げ遺伝子事業に携わってきた。HLIはチャレンジングな事業であるが、大手企業から大規模な出資を受け事業を進めている。医療技術のブレークスルーとなるのか、世界が注目している。

AIが人に感動を与える、心に響く広告メッセージはアルゴリズムが生成する

July 28th, 2016

AIが生成する文章は機械的で、意味は分かるがそれ以上のものではない。いま、AIは単に文章を書くだけではなく、人の心に響くメッセージを創ることができるようになった。人間のコピーライターの想像力を上回るとの意見も聞かれる。この技術を広告に応用すると、商品の売り上げが伸びる。医療機関はAIが生成するメッセージで効果的な治療法を研究している。男性が女性をデートに誘うときのメッセージの書き方をAIが指南する。米国大統領選挙では、有権者を駆り立てるメッセージをAIで生成しているに違いない。

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アルゴリズムで人の心に響くコンテンツを生成

この技術を開発しているのはNew Yorkに拠点を置くPersadoというベンチャー企業だ。機械学習や自然言語処理の技術を使って、消費者に行動を促すメッセージを生成する。このシステムは「Cognitive Content Platform」と呼ばれ、アルゴリズムが人の心に響くコンテンツを生成する。ウェブサイトやメールなどのキャンペーンメッセージを生成する時に利用する。既に多くの企業で使われ、人間が生成したメッセージに比べPersadoで生成すると、コンバージョン率 (商品を購入する率) が平均で49.5%向上したとの統計データがある。Persadoは人間以上に魅力的なメッセージを創作する。

旅行会社のキャンペーンメッセージ

Persadoはこの機能を「Persado Enterprise」と「Persado Go」として商品化している。Persado Enterpriseはフルスペックのプラットフォームで、Persado Goはその簡易版となる。Persadoを使って電子メール、ウェブページ、Facebook記事、広告メッセージを生成する。例えば、旅行会社がキャンペーンメッセージを生成すると次のようになる。旅行会社のウェブサイトで「期間限定の格安フライト、予約は今だ」との見出しをよく目にする。これに対しPersadoがタイトルを生成すると、「自分のご褒美に最高の旅行を、さあ出発しよう」となる。後者のほうが親しみを抱かせる表現と思えるが、Persadoは統計手法に沿ってメッセージを生成している。Persadoは膨大な数の事例から学習し、コンバージョン率が上がる文字列を生成する。

データベースと機械学習

この背後にはマーケティングメッセージに関する大規模なデータベース (先頭の写真) や機械学習で強化されたアルゴリズムがある。Persadoはマーケッティングで使われる言葉やフレーズを解析し、これらの重みや関係を定義する。言葉は三つのカテゴリーに分類される。「Descriptive」は記述言語を意味し、製品の説明文章がこのカテゴリーになる。「Emotional」は消費者の感情に訴える言語を意味する。「Functional」はボタンを押すなどナビゲーションに関する記述を表す。

過去のキャンペーンで使われたメッセージサンプルを収集し、それらをPersadoで編集し、繰り返しその効果を検証した。つまり、Persadoで生成したメッセージの効果を測定し、機械学習の手法でその機能を上げていく。その結果、感情に訴えるメッセージが消費者からのレスポンスを大きく向上させることが分かった。上述のEmotionalに区分される言葉を有効に組み合わせる手法で人の心を揺さぶるメッセージを生成する。

感情に訴える言葉とは

Emotionalに区分される言葉はEmotional Languageと呼ばれツリー構造で分類される。大きくはPositiveとNegativeに分類され、その下に小分類が続く。Positiveの下には、「Joy」、「Achievement」、 「Encourage」などがある。この分類は「Ontology of Emotion」と呼ばれ、語彙の意味と他の語彙との関係を示し25万語から構成される。Persadoは定義されたEmotional   Languageを使ってコンテンツを生成する。言葉のパズルを解くように言葉を組み合わせてメッセージを生成する。下のグラフはEmotional Languageの解析結果で、ポジティブな言葉でも、その効果は大きく異なる。「Exclusivity」は大きくプラスに作用するが、「Excitement」は反対に大きくマイナスに作用する。Persadoは膨大な数のベンチャーマークを通し、解析結果を把握し、文字列を最適化していく。

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クリック率とコンバージョン率が大きく増える

Persadoの効果は多くのキャンペーンで実証されている。下の写真はAmerican Expressのバナー広告の事例で、上段が一般的に利用されるコンテンツで、下段はそれをPersadoを使って改良したもの。Persadoがキャッチコピーを創ると、消費者のクリック率はほぼ三倍に増えた。そして、コンバージョン率はほぼ2.5倍となった。一見すると両者の間に大きな違いはないが、ベンチマークではこのように大きく差がついた。「Ends Soon」という言葉が危機感をあおり、消費者に購買を促すように思えるが、Persadoはその理由までは解明できないとしている。ここが現在のAIの力の限界でもある。

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病院と患者が効果的にコミュニケーションする手法

Persadoは広告キャンペーンだけでなく、幅広い分野で新しい使い方を開発している。その一つがデジタル・ヘルスケアーで、病院と患者が効果的にコミュニケーションする手法を開発している。オバマケアーが目指しているように、医療機関は患者を治療するだけでなく、疾患に関し標準的な治療プロセスを確立し、治療効果を上げ、コストを下げる方向に進んでいる。

この手法は「Clinical Pathway」と呼ばれ、糖尿病や高血圧患者の治療でトライアルが始まっている。医師は患者に治療のための指導をするが、いかに患者を納得させるかでPersadoの技術を活用する。患者がオンラインサイトで食事の指導を受けるときに活用する。どのような言葉の並びが患者を説得し、実際の行動につながるかの研究をしている。

例えば、患者に薬を飲むことを促すメッセージとして「4時半になりました、処方した薬を飲みましょう」が一般的である。これに対してPersadoは、「チャールズさん薬を飲んでください。家族はあなたを必要としています。」というメッセージを生成する。患者を恣意的に誘導するのではなく、健康な生活を促すためにはどう記述すべきかの研究が続いている。

ウェアラブルに表示するメッセージ

医療に関連する分野にQuantified Selfがある。これは消費者がウエアラブルなどで身体のデータを収集し、それを健康な生活を送るために活用しようとする動きである。Persadoを健康な生活を送るために利用する。Apple Watchなどのウエアラブルに健康管理のメッセージが表示されるが、消費者の多くはこれを好意的に受け止めていない。ディスプレイに「立ち上がる時間です」とメッセージが表示されるが、それに従って行動を起こす人は多くはない。これに対し、Persadoは利用者のモティベーションを高めるメッセージはどうあるべきかを研究している。

消費者に支払いを督促する方法

金融機関もPersadoに関心を寄せている。日々のトランザクションに関するメッセージをPersadoで生成する。衛星ラジオSirius XMは、利用者に料金を遅延なく支払うことを伝えるメッセージを開発している。料金の支払いが遅れると、電気会社からは「電気を止める」と脅かされ、これを快く思っていない消費者も少なくない。カード会社からは「忙しいのは理解できる」と同情され、少しは気分が楽になる。消費者に支払いを督促するにはどんな文字列が最適なのか、PersadoはAmerican Expressと開発を進めている。

男性が女性を誘うときのメッセージ

米国では交際相手を見つけるためデートアプリが幅広く使われている。日本の出会い系サイトのように危険なアプリもあるが、その多くは相手を探すための重要なツールとして社会生活に定着している。Tinderのように若者に爆発的に広まったアプリもある。Persadoはデートアプリの機能として、男性が女性を誘うときのメッセージをアドバイスする。女性に対して、「今夜出かけませんか?」というのはダメで、「今日は出かけるには素晴らしい日ですね?」と言うように指南する。どれだけ効果があるのかベンチマーク結果は公表されていないが、Persadoの新しい活用モデルとして期待が集まっている。

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大統領選挙で有権者の心を掴む

選挙で有権者に配信するメッセージの生成でPersadoが使われる。選挙戦はSNSやメールやメッセージングなど、デジタルの戦いになっている。有権者に集会などキャンペーン活動に参加を促すためにPersadoが使われる。また、ボランティア活動への参加者を募るためにも利用される。Persadoはどのような言葉の配列が効果を上げるのか、その結果を検証している。米国では両党から大統領候補が出そろい、本格的な選挙戦が始まった。それぞれの陣営が有権者に配信するメッセージをAIで作成している可能性は否定できない。(上の写真:民主党全国大会はHillary Clintonを大統領候補に指名して本日幕を閉じた。)

AIがコピーライターの職を奪う

米国市場の大きな流れは、テキストをマニュアルで作成する方式から、アルゴリズムで生成する方式に変わってきたこと。更に、Persadoのように、アルゴリズムがコピーライターより効果的なメッセージを生成するようになったこと。市場では再び、AIがコピーライターの職を奪うとの危機感が広がっている。一方、Persadoはあくまで人間の創作活動を支援するツールに過ぎないという意見もある。人間が書いた文章をPersadoがブラッシュアップする。我々がスペルチェッカーを使うように、これからはワードプロセッサーで書いた文章をPersadoが添削する。どちらももっともな意見であるが、AIは着実に我々の仕事に迫っているように感じる。

言葉をエンジニアリングする企業

Persadoの手法は、Behavioral MarketingなのかPsychologyなのか議論が続いている。前者は消費者の挙動に応じた広告手法を意味する。いわゆるターゲッティング広告でゴルフのニュースを見ると、ゴルフ製品の広告が表示されるという方式である。後者は心理学で、消費者の心情を理解して広告を配信する手法を指す。メッセージを受信した消費者はどう感じているのかについてはPersadoは把握していない。ただ、Persadoは消費者が特定のメッセージを受信すると、それにどう反応するかを経験的に掴んでいる。Persadoは両者の境界領域にある会社として位置づけられる。また、Persadoは言葉をエンジニアリングする企業とも定義できる。

Teslaは自動車会社からモビリティー企業に転身!EVトラックとバスを投入し全てのクルマに自動運転技術を搭載

July 21st, 2016

Tesla最高経営責任者Elon Muskは、2016年7月20日、事業戦略計画をマスタープラン・パート2として発表した。パート1は2006年に発表され、TeslaのEV開発計画を明らかにした。パート2でTeslaは自動車会社からモビリティー企業に転身することを宣言した。具体的には、家庭向けソーラーパネルとクルマを統合し、EV製品ラインを拡大する。自動運転技術で10倍安全なクルマを開発し、Tesla独自のカーシェアリングや無人タクシーを運営する。分かりにくいマスタープランであるが、Teslaが目指す方向を解説する。

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エネルギー事業との統合

Teslaは2016年6月、ソーラーパネル販売会社SolarCityを買収することを提案をした。株主の賛同が得られる見込みで、Teslaはエネルギーサービス企業を傘下に持つことになる。SolarCityはシリコンバレーに拠点を置き、パネルのリース事業でビジネスを拡大している。利用者はSolarCityからソーラーパネルをリースすると、月々の電気料金が安くなる。SolarCityはEVへの給電システムとして機能し、Teslaが提供するバッテリー「Powerwall」の電源として使われている。このためMuskは両社を統合し、一つの会社として運用する。利用者はTeslaでEVやバッテリーだけでなく、その電源であるソーラーパネルを購入できる。Teslaは再生可能エネルギーの発電と充電を手掛ける会社となる。

小型SUVとピックアップトラック

Teslaは普及車として「Model 3」を発表したが、これを補完するため小型SUV (スポーツ用多目的車) とピックアップトラックを投入する。現在ハイエンドセダン「Model S」 (上の写真) とSUV「Model X」を販売しているが、Teslaはフルレンジをカバーすることになる。製品モデルを拡大するには、工場での生産能力を短期間で増強する必要がある。このため、Teslaは製造工場で使う機器を自社で開発する方針を打ち出した。つまり、Teslaは工場自体を自ら製造することとなる。(下の写真はシリコンバレー近郊のTesla工場。)

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トラックと小型バスを開発

Teslaは電気自動車のトラックと小型バスの開発を始めていることを明らかにした。トラックは「Tesla Semi」と呼ばれ、輸送コストを大幅に下げるだけでなく、安全で快適に操作できるとしている。小型バスは車体が小さく無人で走行する。内部は中央通路を取り払い、今より多くの乗客を乗せることができる。小型バスは他のクルマと同じ速さでで加速・減速できるため、流れに沿ってスムーズに走行できる。バスがゆっくり走り交通渋滞の原因となっているが、小型バスはこれを解消する。利用者はバス停でスマホや備え付けのボタンでバスを呼び、降車場所は乗客が指定できる。MuskはSpaceXでロケットブースターを再利用し輸送技術を劇的に向上したが、Teslaは地上における物流技術を大きく変えようとしている。

全てのクルマに自動運転技術を搭載

Muskは自動運転技術の基本指針を明らかにした。Teslaが自動運転車を開発していることは公然の秘密であったが、マスタープランでこれが正式に表明された。Teslaが投入するクルマは全て自動運転のためのハードウェア機構を搭載する。クルマの部品が故障しても安全に自動走行できるため、機器は冗長構造となる。例えば、ブレーキが故障しても予備のブレーキが作動し安全に停止できる。

自動運転のためのハードウェアはカメラ、レーダー、ソナーとコンピュータ。自動運転車ではLidar (レーザー光レーダー) がクルマの眼として中心的な役割を担う。Googleは自動運転車にLidarを搭載し、クルマの周囲のオブジェクトを3Dで把握する。TeslaはあえてLidarを搭載しない方式を選択し、独自の自動運転技術を開発する。Muskは自動運転技術ではソフトウェアの開発に時間がかかると述べ、安全性はソフトウェアの完成度に依存するとしている。つまり、Lidarのような高価なセンサーは必要なく、カメラやレーダーなどコモディティ機器を使い、ソフトウェアの技量で安全な自動運転技術を達成できるとの開発思想を示した。Teslaは確立された技術を選ばず、難しい道を選択したことになる。

政府機関による安全性認定のプロセス

Teslaは自動運転車開発で時間を要す部分は政府機関による安全認定のプロセスだと指摘する。認定作業のためには走行試験が必要で、世界主要国で許可を受けるためには100億キロの走行試験が必要とみている。現在、Teslaは市販車両から走行データを収集しており、その距離は一日当たり500万キロとなる。認可を受けるプロセスが最大の関門となるが、既に製品を出荷しているTeslaにとって、安全確認のための試験データ収集が最大の強みになる。

Autopilotの安全性について

Tesla Autopilotで死亡事故が発生して以来、米国でTeslaの安全性について議論が続いている。Autopilotのように”半自動運転技術”は危険だという議論がある。Autopilotはハイウェーでは自動運転車のように振る舞い、ドライバーはこれを過信して前方注意がおろそかになる。生半可な安全技術はかえって危険だという議論である。

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これに対してMuskは、Autopilotを正しく利用すると人間が運転するより遥かに安全である、と主張する。このように安全な技術を持ちながら、事故が起こった時の訴訟問題を恐れて製品を投入しないのは倫理的に許されないとも述べている。更に、多くのメディアがAutopilotの機能を停止すべきと主張しているが、Muskはこの計画はないとしている。(上の写真は筆者がAutopilotでハイウェーを走行している様子で、実際に運転するとAutopilotは必須機能であると実感した。Autopilotの機能を停止するのではなく、正しい使い方を教育するのが正しいアプローチと思える。)

どこにいてもクルマを呼べる

Tesla完全自動運転車が登場すると、ドライバーはどこにいても自分のクルマを呼ぶことができる。現在、Teslaは「Summon」という機能で、クルマがガレージを出て外でドライバーの搭乗を待つ機能を提供している (下の写真)。完全自動運転車ではこの機能を拡充し、ドライバーはどこにいてもスマホでクルマを呼ぶことができる。ドライバーがクルマに乗ると、眠りながら、又は、本を読みながら目的地まで移動できる。クルマにステアリングなどマニュアルで運転する機構が搭載されているかなど、詳細機能や出荷時期については公開されていない。マスタープランでは製品詳細情報が公表されておらず、市場から不満の声も聞こえてくる。

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カーシェアリングと無人タクシー

Teslaはクルマが完全自動運転車となると、車両を共有する機能を提供する。ドライバーがクルマを使わない時は、アプリでボタンを押すと、クルマを他の利用者に貸し出す。例えば、休暇を取っている間、また、会社で働いている時間帯に、この機能を使うとクルマが他の利用者に貸し出され、所有者はレンタル収入を得ることができる。この収入により、所有者はクルマの維持費を大幅に減らすことができる。

現在クルマは所有時間の5%から10%しか稼働しておらず、この機能でクルマを効率的に利用できる。今でもクルマを共有するカーシェアリングサービスがあるが、将来はTeslaがこの機能を自ら提供することとなる。都市部ではクルマの利用の需要が高く、Teslaが自動運転車を使った無人タクシー事業を展開する。Uberのように、Teslaも無人タクシー事業を展開することとなる。

Teslaはモビリティー企業

多くの自動車メーカーは自動運転車の販売と無人タクシー事業を会社経営の両輪と位置づけている。Teslaもこの路線に沿ってクルマの販売と無人タクシー事業を展開することが明らかになった。しかし、Teslaの場合はあくまで消費者にアピールするクルマの販売が中心になる。無人タクシーは都心部での限定的な事業と位置づけている。つまり、Teslaは完全自動運転車が出荷されても、消費者はクルマを購入するとみている。更に、Teslaは太陽光発電事業と自動車事業を一体的に展開する。

Teslaは自動車メーカーなのか、ハイテク企業なのか、それともエネルギー企業なのかその実態を掴むのが難しくなってきた。敢て一言で表すとモビリティー企業となり、Teslaは省エネで安全に移動できる技術を提供する会社に向かっている。発表に先立ち、Teslaはドメイン名を変更し、「teslamotors.com」からMotorsを取り「tesla.com」とした。Teslaはもはや自動車会社ではなくなった。