Googleが通信キャリア事業をスタート、LTEとWiFiを統合し生活空間が単一の通信網となる

July 17th, 2015

Googleが通信キャリア事業に乗り出した。このサービスは「Project Fi」と呼ばれ、MVNO (仮想移動体通信事業者) 方式でネットワーク・インフラを提供する。低価格でサービスを提供するだけでなく、通信キャリアが提供する機能を根本から改良する。スマホの理想形「Nexus」を開発したように、ネットワークのあるべき姿を探求する。米国でProject Fiがスタートし、通信キャリア市場を揺さぶっている。

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近未来の通信網

Googleは2015年6月から、米国で「Project Fi」を始動した。Googleはこのプロジェクトを試験的に展開するとし、地域ごとに人数を限定してサービスを始めた。このため、プロジェクトへの参加は、Googleから招待状が必要となる。筆者も申し込みをしていたが、やっと招待状を受け取り、Project Fiを使い始めた。サポート対象デバイスはNexus 6で、Project Fi専用SIMカード (上の写真) を挿入して利用する。SIMカードはクリップ止めされており、これを使ってスロットを開ける。

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実際に使ってみると、Project Fiは近未来の通信網と言っても過言ではない。LTEやWiFiなど、異なるネットワーク間で、最適な通信網を選択し、サービスを途切れなく利用できる。屋内では、通話やテキストメッセージは、WiFi経由でやり取りする。屋外に出ると、Googleの移動体ネットワーク「Fi Network」に接続される。

ロックスクリーン左上にFi Networkと表示され、Project Fiのネットワークを利用していることを確認できる (上の写真左側)。また、ネットワークの設定や使用状況などは専用アプリ「Project Fi」を使う (上の写真右側)。Network FiはSprintとT-Mobile USの4G LTEを利用している。この意味でMVNOであるが、単に通信網を利用するだけでなく、Fi Networkは両者のうち電波強度の強いネットワークに接続する。

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WiFiとLETでシームレスな通信

印象的なのは、ネットワーク間で途切れなくサービスを利用できることだ。自宅でWiFi経由で電話している時、屋外に出るとネットワークがLTEに切り替わる。通話は途切れることなく、シームレスにハンドオーバーされる (上の写真左側)。屋内でWiFiを使って通話している時は「Calling via Home-7392」と表示される (Home-7392は筆者宅のWiFi)。屋外では「Fi Network」と表示され、Googleの通信網を利用していることが分かる。(上の写真の事例では表示されていない。) Fi Networkと表示されるだけで、背後でSprintとT-Mobileのうち、どちらのネットワークが使われているかは示されない。屋外でWiFiホットスポットがあれば、自動的にここに接続される。

通話だけでなく、データ通信でも自動でネットワークが切り替わる。自宅のWiFiでGoogleの音楽ストリーミング「Play Music」を聞きながら、自動車で屋外に出るとFi Networkに切り替わる。音楽は途切れることなくシームレスに続き、ドライブしながら好みの曲を楽しめる。今まではWiFi域外に出ると、エラーメッセージが表示され、再度接続する必要があった。WiFiとLTEの壁が取り払われ、生活空間全てが単一のネットワークになった感覚だ。どこでも継続して電話やインターネットを使え、生活が格段に便利になったと感じる。

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消費者に優しい料金体系

もう一つの魅力は消費者に優しい料金だ。料金体系はシンプルで、基本料金とデータ料金の組み合わせで構成される。基本料金は月額20ドルで、ここに、通話、テキストなどが含まれる (上の写真、The Fi basicsの部分)。データ通信は月額10ドル/GBとなる。例えば2GBで契約すると月額20ドルとなる(上の写真)。制限量まで使っていない場合は、翌月分の料金から差し引かれる、良心的な料金体系となっている。Project Fiを使い始め、電話料金が半額になった。

ネットワークでイノベーションを興す

革新的なネットワークを低価格で提供するが、Googleの狙いはどこにあるのか、興味深い発言がある。Android部門などの責任者Sundar Pichaiは、Project Fiについての見解を表明した。Googleは基本ソフト (Android) とデバイス (Nexus) だけでなく、ネットワークを含めた統合システムで、技術開発を進める必要がある。個々のネットワークでは技術進化が停滞しているが、包括的なネットワーク環境ではイノベーションが起こると期待を寄せている。

通信キャリアとの関係にも言及した。Project Fiは限定的なプロジェクトで、VerizonやAT&Tなど、既存キャリアと競合することは無い。SprintとT-Mobileはネットワーク回線をGoogleに卸し、空回線を有効利用できる。これにより、ユーザ数が減少し収入は減るかもしれないが、利益率が改善し、収益は増えると期待している。

既存キャリアへの圧力

米国の消費者は低価格で先進的なサービスを使うことができるとして、一様にProject Fiを評価している。つまり、Project Fiが新しい基準となり、VerizonやAT&Tを値下げや新サービス開発に向かわせる可能性を秘めている。Project Fiが黒船となり、米国のキャリア市場が大きく変わろうとしている。

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既に米国キャリアの中で、Project Fi方式を模したサービスが登場した。ノースカロライナ州に拠点を置くRepublic Wirelessは、MVNO方式のキャリアでProject Fiと類似のサービスを導入した。通信はWiFi経由で行い、WiFi環境がない場合は携帯電話回線を利用する。両者の間でシームレスな移行はできないが、有料サービスを最小限に留める仕組みとなる。料金体系でProject Fiの方式を模している。基本料金 (通話とテキストとWiFi) は月額10ドルで、データ通信 (1GB) は月額15ドルとなる (上の写真)。未使用の部分は翌月に払い戻しを受ける仕組みとなっている。Project Fi方式が米国市場で普及し始めた。

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Googleの狙い

モバイル環境でイノベーションが起こり、便利な機能が登場し、通信価格が下がれば、利用者数の増加につながる。これは消費者にとってのメリットであり、同時に、これがGoogleの狙いでもある。より多くの人がインターネットにアクセスすれば、Googleサービス利用者が増え、広告収入などが増える。

Googleは一貫してこの手法を展開しており、Project Fi以外に、高速ブロードバンド「Google Fiber」の前例がある。Google Fiberの最大転送速度は1Gbpsで、主要都市で施設が進んでいる。大手ケーブル会社Comcastはこれに対抗するため、Google Fiberの二倍の性能を持つ「Gigabit Pro」の施設を始める。15年以上無風状態であった米国のブロードバンド市場が、Google Fiberの登場で一気に動き出した。

地球規模では、Googleは気球インターネット「Project Loon」の開発を急いでいる (上の写真)。アフリカや南米など、インターネット環境が整っていない地域に、気球からブロードバンドサービスを展開する。地域住民の社会インフラを提供するとともに、インタネット利用者を増やし、Googleサービスの利用者を増やす狙いがある。

Project Fiの日本への影響

前述の通り、Project Fiの背後では、SprintとT-Mobileの通信網が使われている。T-Mobile最高経営責任者John Legereは、Project Fi向けにネットワークを供給し、新技術が展開されることにを全面的にサポートしている。

一方、Sprint親会社SoftBankの孫正義社長は、Project Fiへの参加に躊躇したとも言われている。Sprintは多くのMVNOに回線を卸しているが、Googleに対しては懐疑的なポジションを取っている。この理由は明らかにされていないが、Googleが通信キャリア事業に参入し、Sprintと競合することを避けたいという思惑があったと推察される。

しかし、Google向けに通信網を提供したのは、Project Fiの手法を学び、日本で類似サービスを展開する意図があるのかもしれない。SoftBankが直接手掛けないとしても、日本のMVNOはProject Fiから学ぶところは少なくない。モバイルサービスは完成形ではなく、まだまだ大きく進化できる余地があることをProject Fiは示している。

がん検診は人工知能で!Deep Learningが悪性腫瘍を見逃さない

July 10th, 2015

がん検診を受けるなら人工知能を導入した病院に行くべきだ。人工知能をがん検診に応用することで、悪性腫瘍を高精度で見つけ出す技術の開発が進んでいる。メディカルイメージをDeep Learningの手法で解析すると、熟練した医師より正確にがん組織などの病変を見つけ出す。人工知能の進化が多くの人命を救うと期待されている。

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イメージデータから病気を判定

Deep Learningでイメージ解析精度が飛躍的に進化している。サンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業「Enlitic」は、Deep Learningを医療データに応用したシステムを開発している。イメージデータをDeep Learningの手法で解析し、病気を判定する (上の写真)。イメージデータにはレントゲン写真、MRI、CTスキャン、顕微鏡写真などが使われる。検査結果に悪性腫瘍などがあるかどうかを高速にかつ正確に判定する。

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腫瘍を見つけるプロセス

Enliticはイメージ解析の技法については、事業の根幹にかかわるためとして公開していない。TEDでの講演資料などを基に概要を纏めると、その輪郭が浮かび上がる。まず解析を行う前に、大量のイメージデータを使ってシステムを教育する。上の写真がそのプロセスで、ここでは5年生存率 (5年経過後に生存している患者の比率) を予測するシステムを教育している。システムに、5年経過後に存在している患者のデータと、5年以内に死亡した患者のデータを入力する。

ここで使われているデータは病理標本 (人体から採取した検体) で、組織の顕微鏡写真を示している。システムは入力イメージから様々な特性を学習する。Enliticが定義する特性とは、組織構造の特徴を示す。具体的には、組織表面と細胞の関係や、細胞とそれを取り巻く部分の関係など、検体の組織構造を指す。システムはDeep Learningの手法でこれら構造特性を学ぶ。学習が完了したシステムに、被験者の組織イメージを入力すると、5年生存率を算定する (上の写真、グラフの部分)。

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また、数多くの被験者の組織イメージの中から、悪性腫瘍など問題の個所を特定する (上の写真、矢印で示している個所)。つまり、システムは組織構造の特性から、悪性腫瘍などを探し出すことができる。今までは専門医が目視で探していたが、ソフトウェアが高精度でこれらの個所を特定する。

人工知能の技法を医療に応用する

Enlitic創設者でCEOのJeremy Howardは、TEDでの講演やインタビューで、人工知能について見解を述べている。HowardはEnliticを創設する前には、Kaggleで社長を歴任した。Kaggleとはデータサイエンスのベンチャー企業で、企業向けに競合分析などのサービスを提供する。Howardは2014年にEnliticを創設し、データサイエンスの技法を医療に応用する研究を進めている。

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Deep Learningのイメージパターンを把握する高い能力が証明されてきた。これを医療に応用することで、三つの領域で研究が進んでいる。Radiology (放射線医学) ではレントゲン写真やMRIやCTスキャンで体内の組織を把握する。上の写真はCTスキャンの事例で、イメージデータから腫瘍特性を解析し、遺伝子情報と組み合わせ診断する。Pathology (病理学) では人体組織を観察する。冒頭の事例がこれに相当し、組織の顕微鏡写真のイメージを解析する。Dermatology (皮膚科学) では、皮膚の写真から症状を判定する。これら三つの分野でDeep Learningを応用したシステムの開発が進んでいる。人間が正しく判定ができるまでには時間がかかるが、コンピューターは短時間でこれを学習する。

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この技法はスタンフォード大学で開発された

この手法は源流をたどると、2011年にStanford Medicine (スタンフォード大学医学部) で開発された。Computational Pathologist (C-Path) と呼ばれ、機械学習の手法でマシンががん組織を識別する。乳がんの識別に適用され、C-Pathは細胞特性を6642種類に分析する。C-Pathを教育して、被験者の組織イメージを入力すると、がん細胞を検出する。上の写真は組織イメージ (紫色の部分) とそれをC-Pathで解析した結果 (その下の緑色の部分) を示している。コンピューターが人間より正確にがん細胞を判定でき、医学界に衝撃を与えた。同時に、がん細胞だけでなく、それを取り巻く細胞との関係が患者生存率に大きく依存することも発見した。これらの研究成果がEnliticに生かされている。

メディカルイメージ処理の問題

一方、メディカルイメージをDeep Learningで解析するには、解決すべき問題も少なくない。その一つが患者のイメージデータを如何に収集するかである。医療データは各病院が保存しており、データは共有されることはない。各医療機関が独立に保管し、再利用されることなく眠っているケースが多い。これらデータを如何に有効活用するかが課題となる。Enliticは医療機関と共同研究を推進することで、これらデータを利用する手法を取っている。

更に、医療機関を規制する関連法令が医療データの利用を妨げている。米国では医療関連法令「HIPAA」の要請で、患者の医療データに対するプライバシー保護が求められる。患者のプライバシーを守ることは必要不可欠だが、医療データを再利用するには障害となる。現行法令は人工知能が医療データを活用することは想定しておらず、データへのアクセスが大きな課題となる。

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IBM Watsonとは異なるアプローチ

IBM Watsonは人工知能を医療分野に応用し成果を上げているが、Enliticのアプローチとは大きく異なる。WatsonはCognitive Computingと呼ばれ、大量のデータから意味を引き出すことを目的とする。Watsonは医学論文や臨床試験結果など、大量のドキュメントを読み込み、そこから治療に関する知見を得る。医師が治療方針を決定する際に利用する (上の写真)。一方、EnliticはDeep Learningの手法でメディカルイメージを解析し症状を判定する。イメージ解析ツールとして位置づけられ、医師の視覚として活躍している。更に、Deep Learningの特性とし、高速で学習する能力を備えている。Enliticは短時間で熟練医師を超える能力を獲得する。両者は人工知能を医療分野に適用したものであるが、そのアーキテクチャーは大きく異なる。

病院を選ぶときに人工知能が決め手となる

米国ではがん検診を受信し問題なしと判定されたケースの7%でがんを発症したというレポートがある。スキャンイメージからがんを見落としているケースが報告されている。これは熟練医師が診察しても人間としての限界があることを示している。Enliticは正確なコンピュータービジョンとして機能し、この見落としを無くすことを目指している。

前述の通り、高精度なイメージ解析システムを開発するためには、大領の医療データを必要とする。つまり、患者数の多い病院がDeep Learning教育で圧倒的に有利になる。これからは利用者側としては、病院でがん検診を受ける際には、熟練医師がいることだけでなく、人工知能が導入されている大病院が選択肢となる。病院における人工知能の役割が大きくなってきた。

人工知能がヒトの視覚に近づく、広告からロボットまで応用範囲が一挙に広がる

July 3rd, 2015

人工知能の進化は急で、写真だけでなくビデオに何が写っているかを理解できる。ライブで配信されるビデオをリアルタイムで解析し、内容に応じて区分けする。この技術は既に大手企業の広告事業で使われている。ビデオ解析の究極の目的はロボットの視覚となることで、その応用範囲は広大だ。ヒトの目に近づきつつある最新のコンピュータービジョンをレポートする。

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写真からビデオ解析へ

コンピュータービジョンでトップを走っているのは、ニューヨークに拠点を置く「Clarifai」というベンチャー企業だ。人工知能の技法を使いイメージ解析技術を開発している。同社は2013年、イメージコンテスト「Large Scale Visual Recognition Challenge」でトップ5に入賞し注目を集めた。イメージコンテストでは写真に写っているオブジェクトを識別するが、今ではこの技術をベースに、ビデオ解析技術を開発している。ビデオに写っているオブジェクトを1万のカテゴリーに分類することができる。

上の写真がその事例で、自動車から撮影したビデオを解析し、そこに何が写っているのかをグラフで表示している。上段は入力したビデオで、ゴールデンゲートブリッジを自動車で走行している様子である。下段が解析結果で、時間ごとに登場するオブジェクトをグラフで表示している。Clarifaiはビデオに登場するオブジェクトを把握し、それを区分けして、出現頻度を時間ごとにプロットする。

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ビデオの内容をグラフで表示

グラフの一部を拡大したのが上の写真である。下段にはClarifaiが把握したオブジェクトを示し、上段にその出現頻度をプロットしている。グラフ最上部が「Vehicle」で、「自動車」の出現頻度を示す。グラフは常に高い値を示しており、自動車が定常的に登場していると判定した。実際に走行した時は道路は込んでいて、常に他車と一緒に走行した。最下部の黄色い線は「Suspension Bridge」を示す。Clarifaiはゴールデンゲートブリッジは、橋の中でも「吊り橋」というタイプであると認識している。ゲートの下を通過するときは、これが見えなくなり、中央部でグラフが大きく下がっている。

Clarifaiが認識したオブジェクトは下段左側に示される。このケースでは110件程度のオブジェクトを認識した。ここからグラフ化したいオブジェクトを選ぶと、下段右側に表示される。ここでは他に、「Road」や「Sky」などのオブジェクトを選択した。更に、抽象的な表現である「Travel」も選択した。上から三番目のグラフがそれで、具体的な定義は公表されていないが、乗用車や観光バスや歩行者などを「旅行」と定義しているようにも思える。

ビデオ解析の利用方法

Clarifaiはビデオの中で特定シーンを検索する時に利用される。グラフから見たいシーンを簡単に探し出せる。例えば上述グラフで「City」の最大値の部分を選ぶと、サンフランシスコ市街が写っているシーンを見ることができる。更に、出版社のようなビデオ所有者は、コンテンツを体系だって整理できる。ジャンルごとに区分けするだけでなく、ビデオへのタグ付けを効率的に行える。これらビデオを配信する際に、最適な広告を挿入・付加することで、コンバージョン率の向上が期待できる。例えば上述のケースでは「Travel」の値が高いので、このビデオの隣に旅行関係の広告を配信するなどの利用法が考えられる。

このサービスはクラウドから提供され、企業はClarifai APIをシステムに組み込んで利用する。サービスはフリーミアムと有料サービスがあり、無償サービスでは解析するデータ量に制限がある。一方、有償サービスでは制限なしに利用できる。

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ライブビデオストリームを解析するサービス

コンピュータービジョン開発会社「Dextro」が注目を集めている。ニューヨークに拠点を置き、ビデオ認識技術を開発している。人工知能の技法を使ってビデオを解析し、その内容を把握する。Dextroは2015年5月、ライブビデオストリームを解析するサービス「Stream」を公開し話題を集めている。

これは人気ライブストリーミングアプリ「Periscope」で放送されるビデオを解析するサービスで、若者を中心に利用が広がっている。Periscopeとはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業で、手軽にビデオ放送できる機能を提供している。スマホカメラからライブでビデオを発信し、視聴者はこれらの放送をアプリで閲覧する。2015年3月にTwitterが買収し、米国だけでなく世界各国で利用されている。いま一番ホットなアプリで、日本の人気アプリ「ツイキャス」(TwitCasting) に相当する。

膨大なビデオの中から好みのコンテンツを探す

Periscopeでは興味深いビデオがライブで放送されるが、ストリームの数が膨大でその選択に苦慮する。そこでStreamはPeriscopeのライブストリームを分析し、ビデオを区分けする機能を公開した。上の写真がその事例で、ストリームは「Talking Heads」、「Cats & Dogs」、「Green Fields」などに分類される。バブルの大きさはストリームの数を示す。バブルをクリックすると、そのカテゴリーのビデオを見ることができる。Periscopeが発信する大量のビデオの中から、面白いビデオに容易に辿りつける。

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上の写真がStreamを使ってPeriscopeを見ている様子である。左側は「Nightclubs & Concerts」を選択したところで、コンサートのライブ演奏を楽しめる。このバブルを選ぶと、自宅にいながらライブでコンサートを楽しめる。右側は「Rooftops」を選択したところで、屋上からニューヨークの景色を楽しめる。誰かのパーティーにリモートで参加して、その雰囲気を味わえる。知人同士はリアルタイムでメッセージを交換し、バーチャルに出席する。ビデオ区分はこの他に、「Morning」、「Afternoon」、「Night」などがあり、膨大なビデオの中から好みのコンテンツを探すことができる。

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システムをどう教育するのか

StreamはDeep Learningの手法でビデオに写っているオブジェクトを学習する。事前に撮影した大量のビデオとタグ (オブジェクト名などを記入) をStreamに入力し、システムを教育する。具体的な手法は公開していないが、上の写真のようなビデオストリームを入力し、例えば「Buildings at Sunset」などと教育するものと思われる。「Buildings」や「Sunset」など、単一オブジェクトだけでなく、その関係を示しシーンを理解させる。

Periscopeを解析することの難しさは、記入されているテキストがビデオの内容と異なるためと言われる。製作者がタグ付けに注意を払っていないことの他に、ライブビデオ特有の難しさがある。タグを入力して撮影を始めると、意図した内容と異なる方向に進むことが多々ある。このため、Streamはテキストや音声データは参照せず、イメージデータだけを利用する。

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Dextroの本当の目的は何か

Streamが話題になっているが、Dextroの狙いは別のところにある。Dextroは既に大手企業と事業を展開している。大手ブランドはこの技術を使い、自社商品が市場でどう受け止められているかを把握する。商品はPinterestやInstagramのビデオの中に数多く登場する (上の写真、Pinterestのケース)。Dextroはこれらビデオを解析し、商品がどこに登場しているかを把握する。ロゴだけでなく、オブジェクトの形状から商品を特定する。更に、消費者が商品をどう使っているのかまでを把握する。写真と異なりビデオでは、消費者と商品のインタラクションまで理解できる。

市場ではDeep Learningの手法を使った広告技術が登場している。具体的な手法は企業秘密で殆ど明らかになっていないが、GoogleとBaiduが既にシステムを運用しているといわれる。消費者のプロフィールを把握するだけでなく、Deep Learningの手法でコンテンツを解析し、ターゲッティング広告の精度を上げている。Baiduは人工知能を広告配信に適用し、売り上げを伸ばしている。広告配信で人工知能の効果が数字として表れてきた。

究極の目的はロボットの視覚

Dextroは将来を見据えた開発に取り組んでいる。ビデオの中で何が起きているのかを把握し、そのサマリーを書き起こす技術を開発している。今まではマニュアルでビデオ概要を制作していたが、これからはソフトウェアの仕事となる。Dextroの究極の目的はロボティックスと言われている。ビデオ解析はロボットの基本技術で、ロボットの視覚として移動やアーム操作でオブジェクトを認識する。災害救助ロボットが屋内に入る時、扉を認識し、ノブを掴み、それを回して開ける。この背後ではコンピュータービジョンが使われ、ここでの開発競争が激化している。

人工知能が次のリーマンショックを防ぐ、銀行融資のリスク評価が格段に進化

June 26th, 2015

銀行業務と人工知能は親和性がいい。新興企業は大手銀行に先駆けて、ローン審査で人工知能を取り入れた。オンラインでローンの申し込みを受け、それを瞬時に高精度で判定する。クレジットヒストリーがない場合でも、申請者の適合性を的確に査定する。対象市場は米国だけでなく、中国の巨大な潜在需要に注目が集まっている。人工知能が高度に進化することで、リーマンショックのような、世界規模の金融危機を回避できるとの期待も寄せられる。

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Affirmという支払いオプション

新興企業から人工知能を活用した金融商品が登場している。サンフランシスコに拠点を置く「Affirm」は、消費者向けに金融サービスを提供する。オンラインショッピングの決済で、消費者はクレジットカードで支払いできるほか、Affirmで分割払いができる (上の写真、左側)。この画面でAffirmボタンを選択し、「Checkout with Affirm」にタッチする。Affirmは決済プロセスで、利用者の信用度をリアルタイムでチェックし、分割払いを提示する (上の写真、右側)。クレジットカードがなくても買い物ができ、若者層に好評だ。

最初にこのシステムを利用する際は、氏名、住所、生年月日、年金番号 (個人を特定する番号として利用される) を入力し、口座を開設する。入力情報を元に、Affirmは利用者の信用度を人工知能を駆使して調査する。Affirmは信用度が充分高いと判断すると、上の写真の通り分割払いの条件を提示する。支払い期間は、3ヶ月、6か月、12か月のオプションがある。このケースでは850ドルの買い物をし、3ヶ月の分割払いを選択した。毎月287.98ドル返済し、利率は年率換算で10%となる。利用者は毎月、デビットカードや銀行口座から返済する。小切手を郵送することもできる。

ビジネスモデルは仲介者

Affirmのビジネスモデルは、利用者と銀行を仲介するブローカーとして位置づけられる。Affirmが銀行業を営んでいる訳ではない。Affirmの取引銀行はニュージャージー州に拠点を置く「Cross River Bank」で、ローンは同行から提供される。Affirmが両者を仲介し、銀行に代わりローン審査を行いリスクを査定する。同時に、若者層を引き込むため、サイトはお洒落にデザインされている。

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Affirmと提携しているオンラインショッピング企業は100社に上り (上の写真、その一部)、消費者はこれらのサイトで分割払いで買い物ができる。ショッピングサイト側は、Affirmを利用することで、クレジットカードに変わる決済オプションを提供でき、売り上げが20%増加したとしている。

クレジットカードを持てない層を対象

Affirmは2015年5月、ベンチャーキャピタルから2億7500万ドルの大規模投資を受けた。ベンチャーキャピタルはフィンテックに集中的に投資しているが、特にAffirmのモデルを高く評価している。Affirmはデータサイエンスの手法で、利用者のクレジットリスクをより正確に査定する。現在は「FICO Scores」という手法が主流で、クレジットヒストリーをベースにリスクを査定する。しかし、大学を卒業したばかりの若者層や最近米国に移住した人たちは、クレジットヒストリーが無く、カード審査で不合格となる。Affirmは、これらクレジットヒストリーが限られる層を対象に、事業を展開している。

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人工知能を使った解析方法

Affirmはローン審査の具体的な手法を公表していないが、一般に、利用者に関する膨大なデータを人工知能の手法で解析する。具体的には、ソーシャルネットワークの友人関係、ウェブサイト閲覧履歴、オンライン購買履歴などが使われる。更に、利用者がオンラインでローン申込書に記入する際に(上の写真、個人情報記入欄)、大文字だけを使うのか、また、条件を読むのにどれだけ時間を要したかも考慮される。ソフトウェアは膨大なデータからパターンを割り出し、ローンの可否を判定する。経験的にリスクの低い利用者のパターンを定義し、それに近い応募者を探し出す。Deep Learningの手法を使うと、大規模なデータの中から、リスクの低いケースを学習できる。ただ、Affirmは詳細技法については事業の根幹にかかわるため開示していない。

多くの銀行で前世代のアルゴリズムを利用

米国ではローン審査に前述のFICO Scoreが使われる。これは消費者のクレジットリスク指標で、幅広く使われデファクトスタンダードになっている。この指標は1989年にFICO社が開発し、現在では、3億人の米国消費者を網羅している。銀行などが毎年100億件のFICO Scoreを利用しているとされる。

FICO Scoreのアルゴリズムは企業秘密で公開されていないが、消費者の過去の履歴を元に算定する。具体的には、消費者の支払い履歴、負債の状況、クレジットヒストリーの期間、クレジットの種類、最新のクレジット応募状況などを入力する。つまり、銀行のローン審査では、応募者の過去の履歴を入力とし、数学的にリスクを計算する。一方、Affirmなどの新興企業は、利用者に関する膨大なデータから、人工知能の手法でリスクのパターンを発見する。今では、FICOの数学的なアプローチより、人工知能による経験則のほうが正確に判定できる。

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ZestFinanceという企業

人工知能の技法でローン審査を行う新興企業が増えている。ロスアンジェルスに拠点を置く「ZestFinance」は、人工知能の手法で消費者金融サービスを展開している。リスクの高い低所得者層に、給与を担保に小口ローンを提供する。ZestFinanceは、通常の消費者ローンとは大きく異なり、データサイエンスの手法でローン審査を実行する。上の写真は創設者Douglas Merrillで、ZestFinanceは消費者金融のイメージとはかけ離れ、データサイエンス研究所として機能する。

中国のオンランショッピングで利用

ZestFinanceは事業の主軸を米国から中国に移している。大多数の消費者がクレジットヒストリーを持たない中国では、人工知能でリスクを査定するZestFinanceの手法に大きな期待が寄せられている。ZestFinanceはオンラインショッピング大手「JD.com」と提携し、中国で金融サービスを展開する。JD.comで購入した消費者の信用度を査定し、分割払いのオプションを提供する。JD.comの会員数は1億人で、売上金額は200億ドルを超える。

中国では金融サービスの普及が限定的で、クレジットカードヒストリーがある人は、人口の20%程度と言われている。一方で、中国政府は内需拡大のため、消費者が積極的に商品を購買することを推奨している。ZestFinanceはクレジットカードヒストリーがない消費者が、オンラインショッピングで買い物できるよう、リスクを審査し分割払いのローンを提供する。

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ローン審査方式

ローン審査では消費者のJD.comにおけるトランザクションデータが使われる (上の写真、ホームページ)。具体的には、購買した商品、購買した時間、商品のブランド、住所などを解析する。ZestFinanceはJD.comで試験運転を実施し、その結果、従来手法と比較して審査結果が正確であることが証明された。ZestFinanceがJD.comにおける金融サービスとして、正式に稼働することとなる。更に、今後はJD.com以外の企業との提携し、クレジットカード申込者のリスク審査で利用することも検討されている。

リーマンショックは防げるか

米国ではフィンテックブームで新興企業が銀行業務に乗り出している。AffirmやZestFinanceはローン審査で、クレジットヒストリーがなくても、消費者の膨大な情報をデータサイエンスの手法で解析する。従来方法に比べ、ローンリスクを正確に把握できるようになった。AffirmやZestFinanceは新時代の銀行を開拓している。

ZestFinanceのDouglas Merrillはインタビューの中で、データサイエンスの役割について述べている。リーマンショックは米国のサブプライムローンが引き金となり、世界的な金融危機につながった。サブプライムローン応募者のリスク査定に問題があったとされる。人工知能の技術進化で、ローン審査の精度が大幅に向上している。人工知能が金融危機を回避する手段として期待が寄せられている。同時に、高度なツールを手に入れても、それを生かせるのは人間で、最終判断は経営者にかかっている。人間の果たす役割は小さくない

日本のインフラ事業の強敵か、Googleが未来都市開発に進出

June 19th, 2015

Googleは未来都市開発に乗り出した。独立会社「Sidewalk Labs」を設立し、住民が生活しやすい都市を開発する。これはIBMやCiscoが手掛けているスマートシティーとは大きく異なる。都市開発ではInternet of Things (IoT) を中心とするITを総動員するだけでなく、建造物の素材やアーキテクチャーも研究対象となる。Googleが開発している自動運転車や再生可能エネルギー発電も視野に入る。このプロジェクトはGoogle Xに続く高度研究所「Google Y」と噂されていた。限られた情報からGoogleの壮大な構想を読み解く。

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Sidewalk Labsとは

Googleは2015年6月、革新的な街づくりを目指す「Sidewalk Labs」を発表した。CEOのLarry Pageはブログの中で、設立経緯や目的を明らかにした。地球規模で都市化が進み (上の写真、国連調査レポート)、人口集中が顕著になっている。Sidewalkは都市部で生活する人々の暮らしを改善するための技術を開発する。これは「Urban Technologies」と呼ばれ、住宅、交通、エネルギーの三分野を対象とする。具体的には、住宅コストを低減し、交通渋滞や電車混雑の少ない効率的な交通網を作り、エネルギー消費量を低減する。

Sidewalkの事業はGoogleのコアビジネスとは異なるため別会社とする。Sidewalkは長期レンジのプロジェクトで、今より10倍住みやすい都市を作ることを目指す。CEOにはBloomberg社の元CEOであるDan Doctoroffが就任する。

Google Yの構想を引き継ぐ

Sidewalkは都市開発における具体的な手法についても言及した。Sidewalkはリアルとバーチャルの世界をテクノロジーで結び、都市部における住民、企業、政府の生活水準の向上を目指す。革新的に進化しているモバイルやIoT技術を活用し、建築では柔軟構造のアーキテクチャーを利用する。Sidewalkは都市開発のための製品を提供するだけでなく、プラットフォームを構築し、パートナー企業とともにソリューション開発に取り組む。これにより、住宅費用が安くなり、通勤時間が短くなり、公園や緑地が増え、安全に自転車に乗ることができる。

Pageは2013年に、新たな研究機関「Google Y」の創設を検討していた。社会が直面する大きな課題を解決することを目標とした。同時に、Googleの次の事業モデルを模索するという意味もあった。最初のテーマとして、空港整備や都市開発が挙げられた。SidewalkはGoogle Yの構想を受け継ぐものとなり、都市開発を中心に事業を進める。

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世界の人口は大都市に集中

Googleが都市開発に乗り出した背景には、世界の人口が都市部に集中していることがある。国連は世界の人口統計「World Urbanization Prospects」を発表した。都市部の人口推移を解析するもので、都市計画などに利用される。このレポートによると、世界は都市部に人口が集中する傾向が強まっている。1950年には全人口の30%が都市部で生活していたが、2014年にはこれが54%に上昇した。更に、2050年には66%になると予測している。

上のグラフがそれを示している。大都市数の推移を示したもので、赤色の部分 (最上部) が人口1000万人以上のメガ都市を示す。2014年のメガ都市のトップは東京 (人口3800万人) で、これにインド・Delhi (同2500万人)、中国・Shanghai (同2300万人) が続く。1990年にはメガ都市の数は10都市であったが、2014年には28都市と三倍近くに増加。2030年には41都市になり、世界の人口の12%がここで生活すると予想している。

日本は人口減少が予想され、労働力の確保などで苦慮している。しかし世界はその反対で、人口の急増と都市部への集中でインフラ整備に苦しんでいる。因みに大阪は、1990年の人口統計で世界第2位であったが、2030年には13位に後退すると予想されている。

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柔軟構造ビル

Sidewalkは具体的な技術については公開していないが、都市開発で目指す柔軟構造ビルのヒントは、Google新本社キャンパスにある。Googleは2015年2月、新キャンパスについて発表した。建物はコンクリート製ではなく、軽量ブロック構造で、必要に応じて解体し移動できる構造になっている。上の写真は建物内部の様子で、右奥の構造物は積木細工のように、解体して移動できる。ガラス繊維でできた透明のドームで外光や外気を取り入れる (写真上部)。建物の周囲には歩道や緑地が整備される。デザインは英国に拠点を置くHeatherwick Studioが手掛ける。

アーキテクチャの特徴は事業内容に応じて建物のレイアウトを再構築できること。自動運転車の製造工場やバイオロジーの植物栽培施設などが必要になると、建物のレイアウトを容易に変更できる。現在のGoogleキャンパスは、ビル周囲に駐車場が広がり樹木は少ない。新キャンパスは自然との調和を重視し、エコロジカルシステムの中に建造物が存在する位置づけとなる。シリコンバレーの本社キャンパスに続き、ロンドン本社もHeatherwick Studioが手掛けると噂されている。Sidewalkが目指す柔軟構造の建造物は、Google新本社がモデルとなるのかもしれない。

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都市交通の整備

都市交通整備で重要なカギを握るのが自動運転技術だ。自動運転車の登場で交通事故が大幅に減少するだけでなく、移動コストも低下する。消費者は自動車を所有するのではなく、必要な際にオンデマンドで無人タクシーを利用する。この方式だと自動車を所有する時と比べ、コストが1/10になるという試算もある。更に、無人タクシーで移動すると駐車場がいらなくなり、土地を有効活用できる。自動運転車の登場で生活にかかるコストが大きく下がる。

Googleは自動運転車「Prototype」(上の写真) の路上試験をこの夏から始める。Prototypeは軽自動車を半円形にした車体に自動運転技術を搭載している。二人乗りで、車内にはハンドル、アクセル、ブレーキペダルは無い。完全自動運転ができるデザインで市街地での移動に適している。

Googleは、電車やバスなど都市交通の整備には、ビッグデータを活用する。都市交通解析システム開発企業「Urban Engines」に投資し、「Internet of Moving Things」の手法で交通ネットワークの最適化を行う。専用アプリ「Urban Engines Maps」を提供し、消費者は電車や自動車で目的地までの経路を検索する。利用者の位置情報を解析することで、電車やバスの乗客の動きを把握できる。解析結果は地方政府の交通部門などに提供され、乗客動向を把握し、運賃政策などで電車やバスの運行を最適化する。既にシンガポール、ブラジル、コロンビア特別区で使われている。

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再生可能エネルギー技術

Googleは省エネ技術だけでなく、再生可能エネルギー関連で豊富な経験がある。Googleは再生可能エネルギー分野に積極的に関与してきた。2007年、同社の慈善団体であるGoogle.orgを通して、「RE < C」というプロジェクトを開始し、発電コストを下げるための技術開発を展開。これがGoogleの再生可能エネルギー開発の切っ掛けとなった。2010年からは、ウィンドファームに投資し、大規模再生可能エネルギー発電事業に参画した。2011年には、世界最大規模のウィンドファーム「Shepherds Flat Wind Farm」に1億ドル出資し市場を驚かせた。一方、Googleの投資手法はハイリスク・ハイリターンで、技術開発で危険性も伴う。2011年、カリフォルニア州に建設している太陽熱発電プロジェクト「Ivanpah Solar Electric Generating System」に投資した (上の写真)。施設は稼働を始めたが、発電量は予定の40%にも満たなく、抜本的な見直しを迫られている。

Googleはこれまでに米国を中心に、20プロジェクトに累計20億ドル投資した。Googleは再生可能エネルギー発電事業に関与するとともに、自社データセンターで使う電力を賄うことも目的としている。

2015年6月、Googleはアフリカで再生可能エネルギー開発を行うことを公表した。ケニアで大規模なウインドファーム「The Lake Turkana Wind Power Project」を展開する。2017年の完成を目指し、同国で消費する電力の20%を生成する。アフリカは急成長が続き、2040年までに消費電力の50%が再生可能エネルギーとなると予測されている。Googleは気球プロジェクト「Project Loon」で上空からインターネット網を構成する。電力とインターネットインフラを供給することで、Googleのアフリカにおける存在感が大幅に増すことになる。

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IoT向けプラットフォーム

Googleの未来都市開発が上手くいくと、住民の生活コストが大幅に低下する。これを支えるのが急速に進化するテクノロジーで、センサーや人工知能がカギを握る。特にセンサー技術の進化は凄まじく、10年後には1兆個のセンサーが使われるとの試算もある。これを「Trillion-Sensor Economy」と呼び、IoTがデバイスを統合するインフラとなる。

Googleは2015年5月、IoT向けのソフトウェア技術「Project Brillo」を発表した (上の写真)。身の回りの家電や自動車など、様々なデバイスを統合するプロジェクトで、三つの領域で構成される。それらはOS、コミュニケーション、ユーザインターフェイスとなる。OSはAndroidをベースとし、IoT向け基本ソフトとして機能する。コミュニケーションでは「Weave」という通信レイヤーを導入し、IoTシステムの上位階層として位置づけ、デバイス、クラウド、スマホ間の通信を司る。ユーザーインターフェイスは、スマホのAndroid上に構築される専用アプリで、室内の電燈などデバイスを操作する。当面はスマートホームを対象とするが、未来都市で大規模に展開されるIoTシステムも視野に入っている。Googleだけでなくパートナー企業は、このプラットフォーム上でIoTソリューションを開発する。

Googleの技術が未来都市にまとまる

Sidewalkは具体的な技術や手法を公開していないが、Googleの新本社キャンパス建設、自動運転技術、ビッグデータ解析手法、再生可能エネルギー開発プロジェクトが未来都市開発に集約される。バラバラに動いていると思っていたプロジェクトが、Sidewalkという共通項で有機的に結合する。Googleは未来都市開発を大都市化が進むインドや中国などで展開する。日本が得意とするインフラ開発であるが、Googleがここに参入することとなり、世界の構図が大きく変わる。