人工知能がヒトの視覚に近づく、広告からロボットまで応用範囲が一挙に広がる

July 3rd, 2015

人工知能の進化は急で、写真だけでなくビデオに何が写っているかを理解できる。ライブで配信されるビデオをリアルタイムで解析し、内容に応じて区分けする。この技術は既に大手企業の広告事業で使われている。ビデオ解析の究極の目的はロボットの視覚となることで、その応用範囲は広大だ。ヒトの目に近づきつつある最新のコンピュータービジョンをレポートする。

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写真からビデオ解析へ

コンピュータービジョンでトップを走っているのは、ニューヨークに拠点を置く「Clarifai」というベンチャー企業だ。人工知能の技法を使いイメージ解析技術を開発している。同社は2013年、イメージコンテスト「Large Scale Visual Recognition Challenge」でトップ5に入賞し注目を集めた。イメージコンテストでは写真に写っているオブジェクトを識別するが、今ではこの技術をベースに、ビデオ解析技術を開発している。ビデオに写っているオブジェクトを1万のカテゴリーに分類することができる。

上の写真がその事例で、自動車から撮影したビデオを解析し、そこに何が写っているのかをグラフで表示している。上段は入力したビデオで、ゴールデンゲートブリッジを自動車で走行している様子である。下段が解析結果で、時間ごとに登場するオブジェクトをグラフで表示している。Clarifaiはビデオに登場するオブジェクトを把握し、それを区分けして、出現頻度を時間ごとにプロットする。

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ビデオの内容をグラフで表示

グラフの一部を拡大したのが上の写真である。下段にはClarifaiが把握したオブジェクトを示し、上段にその出現頻度をプロットしている。グラフ最上部が「Vehicle」で、「自動車」の出現頻度を示す。グラフは常に高い値を示しており、自動車が定常的に登場していると判定した。実際に走行した時は道路は込んでいて、常に他車と一緒に走行した。最下部の黄色い線は「Suspension Bridge」を示す。Clarifaiはゴールデンゲートブリッジは、橋の中でも「吊り橋」というタイプであると認識している。ゲートの下を通過するときは、これが見えなくなり、中央部でグラフが大きく下がっている。

Clarifaiが認識したオブジェクトは下段左側に示される。このケースでは110件程度のオブジェクトを認識した。ここからグラフ化したいオブジェクトを選ぶと、下段右側に表示される。ここでは他に、「Road」や「Sky」などのオブジェクトを選択した。更に、抽象的な表現である「Travel」も選択した。上から三番目のグラフがそれで、具体的な定義は公表されていないが、乗用車や観光バスや歩行者などを「旅行」と定義しているようにも思える。

ビデオ解析の利用方法

Clarifaiはビデオの中で特定シーンを検索する時に利用される。グラフから見たいシーンを簡単に探し出せる。例えば上述グラフで「City」の最大値の部分を選ぶと、サンフランシスコ市街が写っているシーンを見ることができる。更に、出版社のようなビデオ所有者は、コンテンツを体系だって整理できる。ジャンルごとに区分けするだけでなく、ビデオへのタグ付けを効率的に行える。これらビデオを配信する際に、最適な広告を挿入・付加することで、コンバージョン率の向上が期待できる。例えば上述のケースでは「Travel」の値が高いので、このビデオの隣に旅行関係の広告を配信するなどの利用法が考えられる。

このサービスはクラウドから提供され、企業はClarifai APIをシステムに組み込んで利用する。サービスはフリーミアムと有料サービスがあり、無償サービスでは解析するデータ量に制限がある。一方、有償サービスでは制限なしに利用できる。

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ライブビデオストリームを解析するサービス

コンピュータービジョン開発会社「Dextro」が注目を集めている。ニューヨークに拠点を置き、ビデオ認識技術を開発している。人工知能の技法を使ってビデオを解析し、その内容を把握する。Dextroは2015年5月、ライブビデオストリームを解析するサービス「Stream」を公開し話題を集めている。

これは人気ライブストリーミングアプリ「Periscope」で放送されるビデオを解析するサービスで、若者を中心に利用が広がっている。Periscopeとはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業で、手軽にビデオ放送できる機能を提供している。スマホカメラからライブでビデオを発信し、視聴者はこれらの放送をアプリで閲覧する。2015年3月にTwitterが買収し、米国だけでなく世界各国で利用されている。いま一番ホットなアプリで、日本の人気アプリ「ツイキャス」(TwitCasting) に相当する。

膨大なビデオの中から好みのコンテンツを探す

Periscopeでは興味深いビデオがライブで放送されるが、ストリームの数が膨大でその選択に苦慮する。そこでStreamはPeriscopeのライブストリームを分析し、ビデオを区分けする機能を公開した。上の写真がその事例で、ストリームは「Talking Heads」、「Cats & Dogs」、「Green Fields」などに分類される。バブルの大きさはストリームの数を示す。バブルをクリックすると、そのカテゴリーのビデオを見ることができる。Periscopeが発信する大量のビデオの中から、面白いビデオに容易に辿りつける。

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上の写真がStreamを使ってPeriscopeを見ている様子である。左側は「Nightclubs & Concerts」を選択したところで、コンサートのライブ演奏を楽しめる。このバブルを選ぶと、自宅にいながらライブでコンサートを楽しめる。右側は「Rooftops」を選択したところで、屋上からニューヨークの景色を楽しめる。誰かのパーティーにリモートで参加して、その雰囲気を味わえる。知人同士はリアルタイムでメッセージを交換し、バーチャルに出席する。ビデオ区分はこの他に、「Morning」、「Afternoon」、「Night」などがあり、膨大なビデオの中から好みのコンテンツを探すことができる。

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システムをどう教育するのか

StreamはDeep Learningの手法でビデオに写っているオブジェクトを学習する。事前に撮影した大量のビデオとタグ (オブジェクト名などを記入) をStreamに入力し、システムを教育する。具体的な手法は公開していないが、上の写真のようなビデオストリームを入力し、例えば「Buildings at Sunset」などと教育するものと思われる。「Buildings」や「Sunset」など、単一オブジェクトだけでなく、その関係を示しシーンを理解させる。

Periscopeを解析することの難しさは、記入されているテキストがビデオの内容と異なるためと言われる。製作者がタグ付けに注意を払っていないことの他に、ライブビデオ特有の難しさがある。タグを入力して撮影を始めると、意図した内容と異なる方向に進むことが多々ある。このため、Streamはテキストや音声データは参照せず、イメージデータだけを利用する。

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Dextroの本当の目的は何か

Streamが話題になっているが、Dextroの狙いは別のところにある。Dextroは既に大手企業と事業を展開している。大手ブランドはこの技術を使い、自社商品が市場でどう受け止められているかを把握する。商品はPinterestやInstagramのビデオの中に数多く登場する (上の写真、Pinterestのケース)。Dextroはこれらビデオを解析し、商品がどこに登場しているかを把握する。ロゴだけでなく、オブジェクトの形状から商品を特定する。更に、消費者が商品をどう使っているのかまでを把握する。写真と異なりビデオでは、消費者と商品のインタラクションまで理解できる。

市場ではDeep Learningの手法を使った広告技術が登場している。具体的な手法は企業秘密で殆ど明らかになっていないが、GoogleとBaiduが既にシステムを運用しているといわれる。消費者のプロフィールを把握するだけでなく、Deep Learningの手法でコンテンツを解析し、ターゲッティング広告の精度を上げている。Baiduは人工知能を広告配信に適用し、売り上げを伸ばしている。広告配信で人工知能の効果が数字として表れてきた。

究極の目的はロボットの視覚

Dextroは将来を見据えた開発に取り組んでいる。ビデオの中で何が起きているのかを把握し、そのサマリーを書き起こす技術を開発している。今まではマニュアルでビデオ概要を制作していたが、これからはソフトウェアの仕事となる。Dextroの究極の目的はロボティックスと言われている。ビデオ解析はロボットの基本技術で、ロボットの視覚として移動やアーム操作でオブジェクトを認識する。災害救助ロボットが屋内に入る時、扉を認識し、ノブを掴み、それを回して開ける。この背後ではコンピュータービジョンが使われ、ここでの開発競争が激化している。

人工知能が次のリーマンショックを防ぐ、銀行融資のリスク評価が格段に進化

June 26th, 2015

銀行業務と人工知能は親和性がいい。新興企業は大手銀行に先駆けて、ローン審査で人工知能を取り入れた。オンラインでローンの申し込みを受け、それを瞬時に高精度で判定する。クレジットヒストリーがない場合でも、申請者の適合性を的確に査定する。対象市場は米国だけでなく、中国の巨大な潜在需要に注目が集まっている。人工知能が高度に進化することで、リーマンショックのような、世界規模の金融危機を回避できるとの期待も寄せられる。

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Affirmという支払いオプション

新興企業から人工知能を活用した金融商品が登場している。サンフランシスコに拠点を置く「Affirm」は、消費者向けに金融サービスを提供する。オンラインショッピングの決済で、消費者はクレジットカードで支払いできるほか、Affirmで分割払いができる (上の写真、左側)。この画面でAffirmボタンを選択し、「Checkout with Affirm」にタッチする。Affirmは決済プロセスで、利用者の信用度をリアルタイムでチェックし、分割払いを提示する (上の写真、右側)。クレジットカードがなくても買い物ができ、若者層に好評だ。

最初にこのシステムを利用する際は、氏名、住所、生年月日、年金番号 (個人を特定する番号として利用される) を入力し、口座を開設する。入力情報を元に、Affirmは利用者の信用度を人工知能を駆使して調査する。Affirmは信用度が充分高いと判断すると、上の写真の通り分割払いの条件を提示する。支払い期間は、3ヶ月、6か月、12か月のオプションがある。このケースでは850ドルの買い物をし、3ヶ月の分割払いを選択した。毎月287.98ドル返済し、利率は年率換算で10%となる。利用者は毎月、デビットカードや銀行口座から返済する。小切手を郵送することもできる。

ビジネスモデルは仲介者

Affirmのビジネスモデルは、利用者と銀行を仲介するブローカーとして位置づけられる。Affirmが銀行業を営んでいる訳ではない。Affirmの取引銀行はニュージャージー州に拠点を置く「Cross River Bank」で、ローンは同行から提供される。Affirmが両者を仲介し、銀行に代わりローン審査を行いリスクを査定する。同時に、若者層を引き込むため、サイトはお洒落にデザインされている。

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Affirmと提携しているオンラインショッピング企業は100社に上り (上の写真、その一部)、消費者はこれらのサイトで分割払いで買い物ができる。ショッピングサイト側は、Affirmを利用することで、クレジットカードに変わる決済オプションを提供でき、売り上げが20%増加したとしている。

クレジットカードを持てない層を対象

Affirmは2015年5月、ベンチャーキャピタルから2億7500万ドルの大規模投資を受けた。ベンチャーキャピタルはフィンテックに集中的に投資しているが、特にAffirmのモデルを高く評価している。Affirmはデータサイエンスの手法で、利用者のクレジットリスクをより正確に査定する。現在は「FICO Scores」という手法が主流で、クレジットヒストリーをベースにリスクを査定する。しかし、大学を卒業したばかりの若者層や最近米国に移住した人たちは、クレジットヒストリーが無く、カード審査で不合格となる。Affirmは、これらクレジットヒストリーが限られる層を対象に、事業を展開している。

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人工知能を使った解析方法

Affirmはローン審査の具体的な手法を公表していないが、一般に、利用者に関する膨大なデータを人工知能の手法で解析する。具体的には、ソーシャルネットワークの友人関係、ウェブサイト閲覧履歴、オンライン購買履歴などが使われる。更に、利用者がオンラインでローン申込書に記入する際に(上の写真、個人情報記入欄)、大文字だけを使うのか、また、条件を読むのにどれだけ時間を要したかも考慮される。ソフトウェアは膨大なデータからパターンを割り出し、ローンの可否を判定する。経験的にリスクの低い利用者のパターンを定義し、それに近い応募者を探し出す。Deep Learningの手法を使うと、大規模なデータの中から、リスクの低いケースを学習できる。ただ、Affirmは詳細技法については事業の根幹にかかわるため開示していない。

多くの銀行で前世代のアルゴリズムを利用

米国ではローン審査に前述のFICO Scoreが使われる。これは消費者のクレジットリスク指標で、幅広く使われデファクトスタンダードになっている。この指標は1989年にFICO社が開発し、現在では、3億人の米国消費者を網羅している。銀行などが毎年100億件のFICO Scoreを利用しているとされる。

FICO Scoreのアルゴリズムは企業秘密で公開されていないが、消費者の過去の履歴を元に算定する。具体的には、消費者の支払い履歴、負債の状況、クレジットヒストリーの期間、クレジットの種類、最新のクレジット応募状況などを入力する。つまり、銀行のローン審査では、応募者の過去の履歴を入力とし、数学的にリスクを計算する。一方、Affirmなどの新興企業は、利用者に関する膨大なデータから、人工知能の手法でリスクのパターンを発見する。今では、FICOの数学的なアプローチより、人工知能による経験則のほうが正確に判定できる。

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ZestFinanceという企業

人工知能の技法でローン審査を行う新興企業が増えている。ロスアンジェルスに拠点を置く「ZestFinance」は、人工知能の手法で消費者金融サービスを展開している。リスクの高い低所得者層に、給与を担保に小口ローンを提供する。ZestFinanceは、通常の消費者ローンとは大きく異なり、データサイエンスの手法でローン審査を実行する。上の写真は創設者Douglas Merrillで、ZestFinanceは消費者金融のイメージとはかけ離れ、データサイエンス研究所として機能する。

中国のオンランショッピングで利用

ZestFinanceは事業の主軸を米国から中国に移している。大多数の消費者がクレジットヒストリーを持たない中国では、人工知能でリスクを査定するZestFinanceの手法に大きな期待が寄せられている。ZestFinanceはオンラインショッピング大手「JD.com」と提携し、中国で金融サービスを展開する。JD.comで購入した消費者の信用度を査定し、分割払いのオプションを提供する。JD.comの会員数は1億人で、売上金額は200億ドルを超える。

中国では金融サービスの普及が限定的で、クレジットカードヒストリーがある人は、人口の20%程度と言われている。一方で、中国政府は内需拡大のため、消費者が積極的に商品を購買することを推奨している。ZestFinanceはクレジットカードヒストリーがない消費者が、オンラインショッピングで買い物できるよう、リスクを審査し分割払いのローンを提供する。

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ローン審査方式

ローン審査では消費者のJD.comにおけるトランザクションデータが使われる (上の写真、ホームページ)。具体的には、購買した商品、購買した時間、商品のブランド、住所などを解析する。ZestFinanceはJD.comで試験運転を実施し、その結果、従来手法と比較して審査結果が正確であることが証明された。ZestFinanceがJD.comにおける金融サービスとして、正式に稼働することとなる。更に、今後はJD.com以外の企業との提携し、クレジットカード申込者のリスク審査で利用することも検討されている。

リーマンショックは防げるか

米国ではフィンテックブームで新興企業が銀行業務に乗り出している。AffirmやZestFinanceはローン審査で、クレジットヒストリーがなくても、消費者の膨大な情報をデータサイエンスの手法で解析する。従来方法に比べ、ローンリスクを正確に把握できるようになった。AffirmやZestFinanceは新時代の銀行を開拓している。

ZestFinanceのDouglas Merrillはインタビューの中で、データサイエンスの役割について述べている。リーマンショックは米国のサブプライムローンが引き金となり、世界的な金融危機につながった。サブプライムローン応募者のリスク査定に問題があったとされる。人工知能の技術進化で、ローン審査の精度が大幅に向上している。人工知能が金融危機を回避する手段として期待が寄せられている。同時に、高度なツールを手に入れても、それを生かせるのは人間で、最終判断は経営者にかかっている。人間の果たす役割は小さくない

日本のインフラ事業の強敵か、Googleが未来都市開発に進出

June 19th, 2015

Googleは未来都市開発に乗り出した。独立会社「Sidewalk Labs」を設立し、住民が生活しやすい都市を開発する。これはIBMやCiscoが手掛けているスマートシティーとは大きく異なる。都市開発ではInternet of Things (IoT) を中心とするITを総動員するだけでなく、建造物の素材やアーキテクチャーも研究対象となる。Googleが開発している自動運転車や再生可能エネルギー発電も視野に入る。このプロジェクトはGoogle Xに続く高度研究所「Google Y」と噂されていた。限られた情報からGoogleの壮大な構想を読み解く。

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Sidewalk Labsとは

Googleは2015年6月、革新的な街づくりを目指す「Sidewalk Labs」を発表した。CEOのLarry Pageはブログの中で、設立経緯や目的を明らかにした。地球規模で都市化が進み (上の写真、国連調査レポート)、人口集中が顕著になっている。Sidewalkは都市部で生活する人々の暮らしを改善するための技術を開発する。これは「Urban Technologies」と呼ばれ、住宅、交通、エネルギーの三分野を対象とする。具体的には、住宅コストを低減し、交通渋滞や電車混雑の少ない効率的な交通網を作り、エネルギー消費量を低減する。

Sidewalkの事業はGoogleのコアビジネスとは異なるため別会社とする。Sidewalkは長期レンジのプロジェクトで、今より10倍住みやすい都市を作ることを目指す。CEOにはBloomberg社の元CEOであるDan Doctoroffが就任する。

Google Yの構想を引き継ぐ

Sidewalkは都市開発における具体的な手法についても言及した。Sidewalkはリアルとバーチャルの世界をテクノロジーで結び、都市部における住民、企業、政府の生活水準の向上を目指す。革新的に進化しているモバイルやIoT技術を活用し、建築では柔軟構造のアーキテクチャーを利用する。Sidewalkは都市開発のための製品を提供するだけでなく、プラットフォームを構築し、パートナー企業とともにソリューション開発に取り組む。これにより、住宅費用が安くなり、通勤時間が短くなり、公園や緑地が増え、安全に自転車に乗ることができる。

Pageは2013年に、新たな研究機関「Google Y」の創設を検討していた。社会が直面する大きな課題を解決することを目標とした。同時に、Googleの次の事業モデルを模索するという意味もあった。最初のテーマとして、空港整備や都市開発が挙げられた。SidewalkはGoogle Yの構想を受け継ぐものとなり、都市開発を中心に事業を進める。

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世界の人口は大都市に集中

Googleが都市開発に乗り出した背景には、世界の人口が都市部に集中していることがある。国連は世界の人口統計「World Urbanization Prospects」を発表した。都市部の人口推移を解析するもので、都市計画などに利用される。このレポートによると、世界は都市部に人口が集中する傾向が強まっている。1950年には全人口の30%が都市部で生活していたが、2014年にはこれが54%に上昇した。更に、2050年には66%になると予測している。

上のグラフがそれを示している。大都市数の推移を示したもので、赤色の部分 (最上部) が人口1000万人以上のメガ都市を示す。2014年のメガ都市のトップは東京 (人口3800万人) で、これにインド・Delhi (同2500万人)、中国・Shanghai (同2300万人) が続く。1990年にはメガ都市の数は10都市であったが、2014年には28都市と三倍近くに増加。2030年には41都市になり、世界の人口の12%がここで生活すると予想している。

日本は人口減少が予想され、労働力の確保などで苦慮している。しかし世界はその反対で、人口の急増と都市部への集中でインフラ整備に苦しんでいる。因みに大阪は、1990年の人口統計で世界第2位であったが、2030年には13位に後退すると予想されている。

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柔軟構造ビル

Sidewalkは具体的な技術については公開していないが、都市開発で目指す柔軟構造ビルのヒントは、Google新本社キャンパスにある。Googleは2015年2月、新キャンパスについて発表した。建物はコンクリート製ではなく、軽量ブロック構造で、必要に応じて解体し移動できる構造になっている。上の写真は建物内部の様子で、右奥の構造物は積木細工のように、解体して移動できる。ガラス繊維でできた透明のドームで外光や外気を取り入れる (写真上部)。建物の周囲には歩道や緑地が整備される。デザインは英国に拠点を置くHeatherwick Studioが手掛ける。

アーキテクチャの特徴は事業内容に応じて建物のレイアウトを再構築できること。自動運転車の製造工場やバイオロジーの植物栽培施設などが必要になると、建物のレイアウトを容易に変更できる。現在のGoogleキャンパスは、ビル周囲に駐車場が広がり樹木は少ない。新キャンパスは自然との調和を重視し、エコロジカルシステムの中に建造物が存在する位置づけとなる。シリコンバレーの本社キャンパスに続き、ロンドン本社もHeatherwick Studioが手掛けると噂されている。Sidewalkが目指す柔軟構造の建造物は、Google新本社がモデルとなるのかもしれない。

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都市交通の整備

都市交通整備で重要なカギを握るのが自動運転技術だ。自動運転車の登場で交通事故が大幅に減少するだけでなく、移動コストも低下する。消費者は自動車を所有するのではなく、必要な際にオンデマンドで無人タクシーを利用する。この方式だと自動車を所有する時と比べ、コストが1/10になるという試算もある。更に、無人タクシーで移動すると駐車場がいらなくなり、土地を有効活用できる。自動運転車の登場で生活にかかるコストが大きく下がる。

Googleは自動運転車「Prototype」(上の写真) の路上試験をこの夏から始める。Prototypeは軽自動車を半円形にした車体に自動運転技術を搭載している。二人乗りで、車内にはハンドル、アクセル、ブレーキペダルは無い。完全自動運転ができるデザインで市街地での移動に適している。

Googleは、電車やバスなど都市交通の整備には、ビッグデータを活用する。都市交通解析システム開発企業「Urban Engines」に投資し、「Internet of Moving Things」の手法で交通ネットワークの最適化を行う。専用アプリ「Urban Engines Maps」を提供し、消費者は電車や自動車で目的地までの経路を検索する。利用者の位置情報を解析することで、電車やバスの乗客の動きを把握できる。解析結果は地方政府の交通部門などに提供され、乗客動向を把握し、運賃政策などで電車やバスの運行を最適化する。既にシンガポール、ブラジル、コロンビア特別区で使われている。

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再生可能エネルギー技術

Googleは省エネ技術だけでなく、再生可能エネルギー関連で豊富な経験がある。Googleは再生可能エネルギー分野に積極的に関与してきた。2007年、同社の慈善団体であるGoogle.orgを通して、「RE < C」というプロジェクトを開始し、発電コストを下げるための技術開発を展開。これがGoogleの再生可能エネルギー開発の切っ掛けとなった。2010年からは、ウィンドファームに投資し、大規模再生可能エネルギー発電事業に参画した。2011年には、世界最大規模のウィンドファーム「Shepherds Flat Wind Farm」に1億ドル出資し市場を驚かせた。一方、Googleの投資手法はハイリスク・ハイリターンで、技術開発で危険性も伴う。2011年、カリフォルニア州に建設している太陽熱発電プロジェクト「Ivanpah Solar Electric Generating System」に投資した (上の写真)。施設は稼働を始めたが、発電量は予定の40%にも満たなく、抜本的な見直しを迫られている。

Googleはこれまでに米国を中心に、20プロジェクトに累計20億ドル投資した。Googleは再生可能エネルギー発電事業に関与するとともに、自社データセンターで使う電力を賄うことも目的としている。

2015年6月、Googleはアフリカで再生可能エネルギー開発を行うことを公表した。ケニアで大規模なウインドファーム「The Lake Turkana Wind Power Project」を展開する。2017年の完成を目指し、同国で消費する電力の20%を生成する。アフリカは急成長が続き、2040年までに消費電力の50%が再生可能エネルギーとなると予測されている。Googleは気球プロジェクト「Project Loon」で上空からインターネット網を構成する。電力とインターネットインフラを供給することで、Googleのアフリカにおける存在感が大幅に増すことになる。

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IoT向けプラットフォーム

Googleの未来都市開発が上手くいくと、住民の生活コストが大幅に低下する。これを支えるのが急速に進化するテクノロジーで、センサーや人工知能がカギを握る。特にセンサー技術の進化は凄まじく、10年後には1兆個のセンサーが使われるとの試算もある。これを「Trillion-Sensor Economy」と呼び、IoTがデバイスを統合するインフラとなる。

Googleは2015年5月、IoT向けのソフトウェア技術「Project Brillo」を発表した (上の写真)。身の回りの家電や自動車など、様々なデバイスを統合するプロジェクトで、三つの領域で構成される。それらはOS、コミュニケーション、ユーザインターフェイスとなる。OSはAndroidをベースとし、IoT向け基本ソフトとして機能する。コミュニケーションでは「Weave」という通信レイヤーを導入し、IoTシステムの上位階層として位置づけ、デバイス、クラウド、スマホ間の通信を司る。ユーザーインターフェイスは、スマホのAndroid上に構築される専用アプリで、室内の電燈などデバイスを操作する。当面はスマートホームを対象とするが、未来都市で大規模に展開されるIoTシステムも視野に入っている。Googleだけでなくパートナー企業は、このプラットフォーム上でIoTソリューションを開発する。

Googleの技術が未来都市にまとまる

Sidewalkは具体的な技術や手法を公開していないが、Googleの新本社キャンパス建設、自動運転技術、ビッグデータ解析手法、再生可能エネルギー開発プロジェクトが未来都市開発に集約される。バラバラに動いていると思っていたプロジェクトが、Sidewalkという共通項で有機的に結合する。Googleは未来都市開発を大都市化が進むインドや中国などで展開する。日本が得意とするインフラ開発であるが、Googleがここに参入することとなり、世界の構図が大きく変わる。

Google Xで生まれた数々のプロジェクト、成功と失敗の理由に企業が生き延びるヒントがある

June 12th, 2015

Google研究機関「Google X」は概要が明らかにされることは無く、謎に包まれた組織である。サンフランシスコで開催された開発者会議Google I/Oで、GoogleはGoogle Xの狙いやイノベーションを生み出す仕組みを解説した。なぜ自動運転技術が生まれ、ハンドルの無い自動車を作るのか、開発思想を明らかにした。IT企業が新技術を開発する時に、また、個人が難問に挑戦する際に、参考となる情報が含まれている。

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Moonshot Factoryとは

Google X責任者Astro Tellerが、組織概要や開発中のプロジェクトを明らかにした (上の写真)。一連の講演はYouTubeで公開されている。Google Xは5年前に誕生した。Google Xは研究所と解釈されるが、実態はそうではない。新技術を生み出すインキュベーターでもないし、Google製品を開発するビジネスユニットでもない。Google Xは「Moonshot Factory」として誕生した。

Moonshotとは月着陸ロケット打ち上げという意味で、Kennedy大統領の演説で使われた。いまでは壮大なチャレンジを表す時に使われる。Googleは壮大なチャレンジを、性能や機能が10倍良くなることと定義する。これを達成するためには、既存の土台からスタートするのではなく、根本的に異なるアプローチが必要となる。次に、Factoryとは目に見える形で製品を開発することを意味する。机上の理論ではなく、プロトタイプに仕上げることを意味する。両者を繋ぎ合わせると、Moonshot Factoryは「革新的プロトタイプ製造工場」となる。

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Google X設立趣旨

自動運転車の開発がGoogle X誕生の切っ掛けとなった。検索企業が自動車開発に乗り出した理由は、Google X設立趣旨ともいえるブループリントから読み取れる。Google Xが手掛ける領域は三つの要素から構成される (上の写真)。Google Xは、大規模な問題 (Huge Problem) を解決するため、革新的なソリューション (Radical Solution) を開発する。開発では飛躍的進歩が期待できる技術を (Breakthrough Technology) 採用する。

自動運転車開発の切っ掛け

自動運転車開発では、大規模な問題とは、交通事故で毎年130万人が亡くなることを指す。革新的ソリューションとは人間に代わり運転する自動車で、交通事項を減らすことを目指す。飛躍的進歩が期待できる技術とは、DARPA (米国国防高等研究計画局) が主催した自動運転技術コンテスト「Grand Challenge」で開発された技術を指す。具体的には、改良が進んだセンサーやソフトウェア技術となる。LIDAR (レーザーセンサー) と人工知能を組み合わせると、「いけそうだ」という手ごたえを感じ、自動運転車の開発が始まった。プロジェクトの選定はビジネスの観点からも審査される。当然であるが、Googleが事業化すると大きなリターンが見込まれるプロジェクトを選ぶ。

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当初の自動運転車はドライバーのアシスト

自動運転車の開発が始まったが、当初は完全自動化を目指してはいなかった。ドライバー運転支援の目的で自動運転技術を開発した。プロジェクトを始めた時、実社会で起こり得る問題1万点を列挙した。自動運転車はMachine Learningの技法を実装し、実社会で遭遇する問題を学ぶ。2012年の暮れには、これら問題を学習し、プロジェクトは完了した (上の写真)。

完成した自動運転車は社員に貸し出され、通勤で利用させた。あくまでドライバーが運転責任を負うので、常に前方を注視しておく必要がある。しかし、後でモニターを確認すると、ドライバーはスマホを操作したり、スナックを食べたりで、注意が散漫になっていることを発見した。非常時に、ドライバーが自動車を制御することは不可能と結論付けた。

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100%完全な自動運転車に向う

これが切っ掛けとなり、完全自動運転車の開発に舵を切った。そのため、ハンドル、アクセル、ブレーキの無いデザインにたどり着いた (上の写真)。自動運転車の性能は良く、毎週Mountain Viewを1万マイル走行しても、問題は起こらない。エンジニアにとっては学習する機会が無いことを意味する。

そこで、開発チームは、テストコースで問題を人為的に起こし、自動運転車を試験した。例えば、自転車が道路交通法に違反し、反対車線を走るケースや、クルマの前に急に人が飛び出すケースなどが検証された。更に、路上で起こり得る様々な事象を学習させるため、ハロウィンのマントを着てクルマの前を横切るなど、人間と分かりにくい状況で試験された。また、停止している自動運転車の周りで子供たちが遊び、センサーがそれを観察し、子供の挙動を学習する試みもなされた。2年半の開発を経て、今年の夏からはシリコンバレーの市街地で路上試験を実施する。

ドローン開発は難航

Googleは空の自動運転車ともいえるドローンを開発している。これは「Project Wing」と呼ばれ、メディアの注目を集めているが、開発は紆余曲折した。Googleは、大規模なドローン輸送ネットワークに挑戦する前に、自動体外式除細動器 (defibrillator、ADE) を緊急輸送することを目指した。心臓発作が起こると、施設に設置されているADEを探し、患者に適用する。しかしGoogleは、人がADEを探すのではなく、ADEが患者に向って移動する方式を目指した。ADEを4分早く使えば、2万人の命を救える。

GoogleはADEをドローンで空輸するシステムを緊急医療隊などに提案した。しかし、反応は芳しくなく、緊急医療隊はこの方式は使えないとの見解を示した。一般利用者がADEを使う技量はなというのがその理由。GoogleはADE空輸プロジェクトを中止することを決定した。

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路線変更してドローン開発継続

一方、開発チームはドローンで物資を輸送する方式を模索した。オーストラリアで農場経営者と話した際に、家畜用ワクチンを空輸する需要があることを発見した。ワクチンは冷蔵庫で冷やしておく必要があり、保存期間は限られる。冷蔵保存する代わりに、必要な時にワクチンが空輸されると、非常に便利なことが分かった。今では、農場向けにワクチンなど緊急物資を空輸する方向に路線を変換しドローン開発を進めている。

実社会からの評価

GoogleはProject Wingから多くのことを学習した。プロジェクトはできるだけ早く、実社会と交わることが求められる。プロジェクト開発では、ネガティブな意見は無意識に退けられ、開発者の耳に入りにくい。早い時期に実社会からのフィードバックを得て、間違った方向に進んでいれば修正する。更に、間違ったプロジェクトでは、どの部分を進め、どの部分を撤収するかを決める。Project Wingは早い時期に社会と交わり、ADE空輸開発を中止し、農場向け空輸ネットワークに舵を切った。社内に留まれば問題点発見が遅れるが、利用者とソリューションについて話したことが、今の開発につながった。

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気球でブロードバンドを構成

ハイリスク・ハイリターンのプロジェクトに取り組むGoogle Xであるが、予想以上に順調に進展したケースもある。Googleはインフラの整っていない地域にネットワークを提供し、40億人がインターネットを使えるようにすることを目指している。これは「Project Loon」と呼ばれ、数千個の気球を6万から9万フィート上空の成層圏に上げ、メッシュを構成し、地上に向って電波を発信する。成層圏では異なる方向に気流が流れ、上下することで位置を決定できる。しかし、実際に運用すると、現実は理論と大きく異なることが分かった。気流が変わる領域では家の大きさ程の気球が激しく揺れる。このため、気球の設計をやり直し、頑丈な作りとした。

気球が墜落する

このプロジェクトを事業化するためには、気球は100日間上空で稼働する必要がある。しかし、当初は5日程度で気球がはじけて墜落した。また、気球からヘリウムが漏れ、チリなどに不時着する事故が相次いだ。なぜ気球からヘリウムが抜けてしぼむのか、その原因が分からなかった。問題解決チーム「Leak Squad」を結成し、ヘリウムの漏れを特定する作業を急いだ。家の大きさ程の気球に石鹸水を塗り漏れを探した。また、センサーでヘリウムの漏れを追跡したが、原因究明には至らなかった。

仮説の提言

あるエンジニアが、気球製造の際に球皮 (気球を覆う化学繊維) の上を歩くのが漏れにつながるのでは、との仮説を提唱した。これを検証するため、普通のソックスを履いた人と、柔らかいソックスを履いた人が球皮を歩いた。この結果、柔らかいソックスでは、漏れが起こらないことを突き止めた。今では気球は上空で6か月間稼働し、事業化に向け大きく前進した。多くの問題を一つ一つ解決しながら、プロジェクトを進めたためである。

Google Glassの成功と失敗

質疑応答でGoogle Glassをかけた人から、グラスに関する質問が出た。Google Glassプロジェクトで、成功した点と失敗した点について尋ねた。これに対してTellerは、成功した点はグラスをExplorerとして世に出し、利用者の評価を受けた点を挙げた。開発者はグラスに対する市場の評価を事前に理解できた。プロジェクトはできるだけ早く、実社会と交わることを実践した。

失敗した点は、ソーシャル・リアクションを予期できなかったこと。カメラ撮影に関連するプライバシー問題を事前に予測できなかった。更に、Google Glassはプロトタイプであるにも関わらず、最終製品であるかのようなメッセージを市場に送った。その結果市場は、Google Glassはプロトタイプなのか製品なのか分からず、混乱を招いた。次期バージョンのGoogle Glassについては、Google事業部門で開発されていると述べたにとどまった。

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Google Xを卒業したプロジェクト

設立から5年が経過するが、今までにGoogle Xを卒業したプロジェクトは少なくない。人工知能の技法を開発する「Massive Neural Network」プロジェクトは、「Knowledge Graph」に取り入れられた。これはセマンティックな検索技法で、検索結果をズバリ表現する。また、コンタクトレンズで血糖値を測定する「Contact Lens」プロジェクトは、バイオメトリックな情報を収集し、人体を定義するために利用された (上の写真)。コンタクトレンズは大手製薬会社Novartisのアイケア部門Alconで製品化されることとなった。Google Xで開発されたプロジェクトは、Google社内だけでなく、技術内容によっては他社と事業化を進める。

企業や個人の参考になる

Google Xは失敗に飢えている。失敗があるから学習でき、革新的な結果が生まれる。このためにも、社内での開発に留まらず、早い時期に実社会との交わりが重要とする。Googleはこの開発思想を、他社でも技術開発で利用してもらいたいと思っている。更に、個人が難題に挑戦するときにも、Google Xの思想は参考になる。

日本生まれのおサイフケータイが米国で急成長!Googleは「Android Pay」で再挑戦

June 5th, 2015

米国でおサイフケータイ技術の進化が止まらない。Apple Payがこのブームに火をつけ、Googleが「Android Pay」でこれを追う。Android Payは一見するとApple Payのコピーに見えるが、アーキテクチャーは全く異なる。Google Walletで挫折を味わったGoogleだが、Android Payでリベンジを狙う。日本で誕生したおサイフケータイだが、米国で大きく成長し、日本市場をうかがう勢いだ。

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Google版おサイフケータイ

Googleは2015年5月、開発者会議Google I/Oで「Android Pay」を発表した。これはGoogle版おサイフケータイで、Apple Payに匹敵する機能を備える。カード決済機能だけでなく、会員カードと連携するとポイントが貯まる (上の写真左側)。また、アプリ内での決済機能もある (同右側)。従来のGoogle Walletは、おサイフケータイ機能を抜き、ピアツーピア支払い (個人間での送金) サービスとして位置づける。これにより、Android PayとApple Payが正面から衝突する。

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Android Payの特徴

Android Payの使い方はApple Payと同じで、スマホをカードリーダーにかざすと、Android Payが立ち上がる。メッセージに従ってPINを入力するだけで処理が完了する。スマホをパワーオンしたり、Android Payを立ち上げる必要はない。別のアプリを使っている時でも、スマホをかざしてAndroid Payを利用できる (上の写真)。次期基本ソフトAndroid Mから指紋認証機能が導入され、Apple Payのように指を当てて認証を受ける。

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会員カードと連携

Android Payは会員カードと連動し、買い物をすると自動でポイントがたまる。これはApple Payには無かったが、先週のWWDCで、同等機能を搭載することを表明した。上の写真がその事例で、自動販売機でコカ・コーラを買うと、会員カード「MyCokeRewards」にポイントが貯まったことを示している。コカ・コーラを10本買うと1本無料でもらえる。貯まったポイント数はスマホのMyCokeRewardsアプリで確認できる。Android Payでは、会員カードを使ったマーケティングが、Googleの大きな収益源になると予想される。

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アプリ内決済

Android Payはアプリ内での決済にも対応している。アプリで買い物をした際に、「Buy with Android Pay」ボタンにタッチして決済する。上の写真はレストラン出前サービス「GrubHub」でハンバーガーを注文したところで、最下段のボタンにタッチするだけで支払いが完了する。1000以上のアプリがAndroid Payに対応している。

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Android Payの実装方式

Android Payはアプリとして提供され (上の写真、中央部のアイコン)、Google Playからダウンロードして利用する。対応している基本ソフトはAndroid 4.4 (KitKat) 以降のバージョン。主要キャリア (Verizon、AT&T、T-Mobile) が販売するスマホにはAndroid Payがプレロードされる。更に、店舗で購入する際は、専門スタッフが利用者に代わり、カードを初期設定する。

Google Wallet (初代おサイフケータイ) は、上述キャリア三社のサービス「Softcard」と激しく競合した。いまでは、GoogleがSoftcardを買収し、キャリア三社は一転して、Android Pay事業を支援する。この変わり身の速さにも驚かされる。

Android Payを使える店が増える

Android Payは全米の主要ストアー70万店で利用できる。米国では大規模なカード盗用事件が相次いだ。オバマ政権はカード会社に対し、2015年10月までに、EMVカード (ICカード) にアップグレードするよう指導している。小売店舗では、これに対応して、NFC (近距離無線通信) 機能も搭載したリーダーの設置が急ピッチで進んでいる。設置期限である10月までに、Android Payを利用できる店舗が急増する。

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三階層のアーキテクチャー

Android PayはApple Payのコピーのように見えるが、アーキテクチャーは全く異なる。Android PayはOSの機能として位置づけられ、三階層の構造をしている。リーダーとの交信はNFCがつかさどる。カード番号はデバイスに固有な番号に置き代えられ、暗号化して送信される。これは「Tokenization」と呼ばれ、カード情報盗用を防ぐことができ、安全性が大幅に向上した。ここまでがGoogleとAppleに共通した機能である。

カード情報をクラウドに格納

異なる点は、Android Payはカード情報をスマホではなくクラウドに格納する。Apple Payなど現行のおサイフケータイは、カード情報をSecure Element (SIMカードなどのハードウェア領域) に保存するが、Googleはクラウドに格納する方式を選択した。この方式は「Host Card Emulation」と呼ばれ、Secure Elementをクラウド上に構築する。カード情報をクラウドに保存しておき、決済処理の際にカード情報をクラウドからスマホに送信して利用する。このため、Android Pay使用時にはスマホはオンラインである必要がある。

おサイフケータイのプラットフォーム

これら基本機能を「Android Pay API」で提供する。Android PayアプリがこのAPIを使うだけでなく、パートナー企業が開発するアプリもAPIを使いおサイフケータイ・アプリを開発できる。Googleは自社のおサイフケータイ事業の成功だけでなく、このプラットフォームでフィンテック・イノベーションが生まれることを期待している。

手数料問題

上述のTokenizationという手法はApple Payで採用され、今ではMasterCardなどカード会社が標準化して、Googleなどに提供している。カード会社は決済処理の安全性を高めるため、Tokenization機能を無料で提供する。その見返りに、Googleに対しAndroid Payでカード発行銀行から手数料を取らないことを求めたとされる。GoogleはAndroid Payで決済手数料を手に入れそこなったことになる。一方、Apple Payはカード発行銀行から手数料を徴収しており、上述ルールと異なる運用となる。このため、MasterCardなどは、Appleに対しても同様な取り決めを求めていくとしている。

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顔パスで決済

Googleは秘密裏に、新しい決済技術を開発している。これは「Hands Free」と呼ばれ、文字通り、スマホを使わないで”顔パス”で支払いする方式だ。支払いをする際に、レジの前で「I would like to pay with Google」というだけで、決済が完了する。カードやスマホを取り出す必要はなく、赤ちゃんを抱えたお母さんにとって大変便利 (上の写真)。Hands Freeの仕組みは公表されおらず、謎が深まり話題となっている。GoogleはHands Freeをサンフランシスコ地区のMcDonnellとPapa Jonesで、今年から限定的に試験を開始する。

今度は成功するとの見方

おサイフケータイと無縁であった米国社会は、Apple Payの登場でその安全性と便利さにショックを受けた。Apple Payは米国からカナダや英国に広がり、中国ではAlibabaと交渉しているとされる。Apple Payが世界規模で広がる勢いを示している。この追い風のなか、Android Payが登場した。大苦戦したGoogle Walletであるが、Android Payは事業環境が整いつつある。市場の前評判は上々で、Android Payが一気に拡大する可能性を秘めている。